第一章完結『悪魔のなれの果て』 英雄の子孫がクラス無しとなり、失意の果てにダンジョンで出会った悪魔に能力を分け与えられたので無双します。

マツヤマユタカ

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第五十三話 書物

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「仰る意味はわかりますが……」

 ニムバスの力は強大だ。

 俺のレベルが千越えだといっても、ニムバスはその一桁上の一万越えなのだ。

 しかもそれで本来の十分の一だと言うのだから、話にならない。

 とてもじゃないけど、俺に敵う相手じゃない。

 俺はそのことを陛下に対して、しっかりと説明した。

 だが陛下は特に驚くことなく、うなずいた。

「うむ。わしも今すぐに封印せよとは言わぬ。いずれでよい」

 いやいずれって言うけど、時間が経てば経つだけ、あいつは本来の力を取り戻してしまうと思うんだけど。

 俺はそのことを正直に陛下に告げた。

 すると陛下がニヤリと口角を上げて笑った。

「それ故、お前には修行の旅に出てもらう」

 げっ!

 しゅ、修行……。

 俺はあの地獄のような一ヶ月間を走馬燈のように思い起こした。

 恐らく俺は顔面蒼白にでもなっていたのだろう。

 陛下が苦笑いを浮かべて言ったのだった

「お前が地獄のような修行をしたのは先程聞いた。だが今度の修行はそういうものではない」

 じゃあ、どんなの?

 生半可な修行でニムバスに勝てるとは思えないんだけど……。

「お前に行ってもらう旅は、封印を解く旅となる」

 封印を解く?

 解いちゃまずいんじゃ……。

「あの……ニムバスの封印を解くのは……」

 すると陛下が首を横に振った。

「そうではない。お前が解くのは、アルフレッド=テスターの封印だ」

「アルフレッド=テスター!?テスター侯爵家の開祖のですか?」

「そうだ。そしてニムバス=テスターを封印した英雄でもある」

「あの……アルフレッド=テスターは英雄ですよね?」

「無論、そうだ」

「では何故封印されているんでしょうか?」

 陛下は笑みを浮かべて大いにうなずいた。

「アルフレッド=テスター自身が、それを望んだのだ」

 アルフレッド=テスター自身が?

 何で?

「どういうことでしょうか?理由がわかりません」

「ニムバス=テスターの封印が解かれたとき、再び奴を封印せんがためだ」

 再び封印……。

 そういうことか。

 他の者ではニムバスを封印するのは無理だから、自分自身を封印しておき、いざニムバスの封印が解かれた際は自らも解き放たれ、再び奴を封印する。

 そのためにアルフレッドは、自ら封印される道を選んだのか。

「納得したか?」

 陛下の優しげな問いであったが、俺にはまだ少し疑問があった。

「でも何故わたしなのでしょうか?もしやアルフレッド=テスターの封印を解けるのは、テスター侯爵家の者でなければならないということでしょうか?」

 すると陛下が大いにうなずいた。

「アルフレッド=テスターの封印は、ニムバス=テスターの封印同様、テスター侯爵家の者でなければ無理のようでな」

 陛下はそう言うと、傍らに座るマルス将軍に対し、何やら合図をした。

 するとマルス将軍は立ち上がり、近くの机の上に置かれた一冊の書物を手に取り、戻ってきた。

 そしてマルス将軍はその書物をうやうやしく陛下に手渡した。

 陛下は書物を受け取るとパラパラとページをめくり、意中の箇所を指し示しながら俺の目の前にスッと置いて見せた。

「これはアルフレッド=テスターが書き残したものだ。ここには、いずれニムバス=テスターが封印を解かれた場合のことが書かれておる。読んでみるといい」

 俺は陛下に言われるまま、書物を手に取り、その肝心の部分を一心不乱に読んだ。

 そこには、如何にしてもニムバスを葬り去ることが出来ず、苦肉の策で封印する道を選んだこと、そして自らも封印される道を選んだことなどが書いてあった。

 そしてもし仮に後の世でニムバスの封印が解かれることがあったとしたら、それは間違いなくテスターの血を引く者によってであろうことも。

 さらにそうなれば、その封印を解いた者はニムバスの恐るべき悪魔の力を手に入れているであろう事まで書いてあったのだった。

 俺は肝心の部分と思われる箇所を読み終えると、顔を上げて陛下を見た。

「陛下、よくわかりました。ですが、一つだけわからないことがあります」

「何かな?」

「この書物にはニムバスやアルフレッドの封印は、テスター侯爵家の者しか出来ないと書いてあります。ならばテスター侯爵家の者が、あのダンジョンに入らないように何故申し送りなどをしておいてくれなかったのでしょうか?」

 俺があのダンジョンに入り、図らずもニムバスの封印を解いてしまったのは、知らなかったからだ。

 知っていたらそんなことするはずがない。

 俺は若干の怒りを持って、陛下にそのことを告げた。

 すると陛下は軽く苦笑いをしながら、俺を諭すように言ったのだった。

「テスター侯爵家には申し送りはしてあった。だが、それは十五歳になった歳に執り行われるクラス判定の後、告げられるようになっておったのだ」

 あ……。

「だがお前はそれを聞く前に、あのダンジョンに入ってしまったというわけだ」

「いや、でも……何で十五のクラス判定の後に……」

「あのダンジョンは最上級ダンジョンだ。まさか十五になってすぐに潜り込むとは誰も思わぬ」

 ……確かに。

「それに封印されたのは、その最下層だ。まさかダンジョン内に最下層まで通ずる穴が開いているとはな。そんなことは誰も把握していなかったことだ」

 ……あの穴は確かエニグマが後から掘ったって……じゃあこの書物が書かれた時にはあの穴はなかったってことか。なら、わかるわけがないか。

「それと、お前は封印を解けるのはテスター侯爵家の者だけだと言ったが、アルフレッドはそうは言っておらぬ」

「え?……いや、確か書いてあったと思いますけど……」

「アルフレッドが書いていたのは、テスターの血を引く者であって、テスター侯爵家の者だとは言っていない」

 うん?どう違うんだ?

 俺が首を傾げていると、陛下が優しげな笑みを浮かべた。

「よいか、そもアルフレッドには子が何人いたかお前は存じているか?」

「……確か三人だったかと」

「ではその三人の子の、さらにその子らは一体何人だ?」

「え?……確か長男は四人の子が出来て……次男は……ちょっと憶えていません」

「そうか、ではさらにその子たちが何人居たかなどは到底わからぬな?」

「はい……まったく」

 すると陛下はさらに滋味深げな笑みを浮かべた。

「アルフレッドとニムバスが封印されてから千年の時が経っておる。ではその血を受け継ぐ者はどれだけいるかのう?」

 ……あ、そういうことか。

 テスター侯爵家はあくまで直系の子孫だけだ。

 そうでない傍流は千年も経てば、腐るほどいることになる。

 とてもではないが、全員を追うことなど出来はしないだろう。

 それでもテスター侯爵家は直系でもあるし、一番封印を解く可能性があったから、申し送りはしていた。

 だが俺はそれを聞く前に……。

 やっちまったな、俺。

「どうやら理解出来たようだな?」

 陛下が優しく俺に問う。

 俺はこくりとうなずくことしか出来ないのであった。

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