【第一部完結】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

マツヤマユタカ

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94 笑える理由

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「戦う前に聞いておきたいことがある」


 俺は恐怖心を押さえ込み、息を呑みながら尋ねた。


 トリストは余裕の表情で受けた。


「何かな?言ってみるといい」


 俺は覚悟を決めて問い掛けた。


「ネルヴァとレイナはどうした?」


 するとトリストが、目をスーッと細めた。


「ああ、あの者らか。気になるかね?」


「当然だ!やっぱりお前がネルヴァたちを」


「そうだな。戦った。驚くほどに強かったぞ。人間とは思えないくらいにな」


「当たり前だ!大賢者と剣聖だぞ。強いに決まっているだろうがっ!」


「そうか。大賢者と剣聖か。通りで強いわけだな」


「それで、二人はどうなったんだ!?」


 するとトリストが、またも口角を異常に上げて笑った。


 俺はトリストを必死の形相で睨みつけた。


 するとトリストは俺の顔を見て、さらに口角を上げた。


 もうほとんど口は耳の辺りまで裂けている。


 俺はこの異界の異形に対し、心底からの恐怖心を持った。


 それは恐らく本能に根ざしたものだったと思う。


 だが俺は、その骨の髄から来る震えを、それでも必死に押さえつけようとしていた。


「どうなんだ!?二人はどうした!?」


 するとようやく笑い終えたトリストが言った。


「知りたければわたしを倒してみることだ」


 いいだろう。


 やってやる。


 たとえ相手が何者であろうと、俺はやる。やってやる!


 俺は勇気を振り絞って一歩前に出た。


 そして、渾身の雷撃を喰らわそうと右手を前に突き出したのだった。


雷撃戦槍ボルテックスピアー!!」


 俺の最速魔法が、最大出力でもって空気を切り裂く。


 だがそれは、当たるかと思った瞬間またも空を切った。


 だろうね。


 だがそんなのは想定内だ。


 俺はすかさず、持てる最高防御魔法を発動させた。


「#神々の盾____#ディヴァインシールド!」


 すると間髪を入れず、俺の頭上から凄まじい業火が降り注いだ。


 だが問題ない。


 この魔法は一方向だけではなく、全方位に展開する。


 炎は俺の頭上数十センチのところで透明な盾に防がれ、四散した。


 そして……。



「ほう、やるな。わたしの炎を防ぐとは。では次は剣で勝負と行こうか」


 言うやトリストが右手に持った剣を前に突き出した。


 そして一足飛びに飛んできた。


 対する俺はトリストの凄まじい突きを、すんでのところで右手に持った剣で払って避けることになんとか成功した。


「ほう、剣も使えるか。だがまだあまり得意そうではないな」


「だったら何だ?」


「あの女、剣聖だったというあの女でもわたしには叶わなかった。お前はあの女には到底及ぶまい?」


「だから何だと言っている。そんなことは関係ないんだ。お前は俺が必ず倒す!」


「そうか。ならば掛かってくるといい」


「そうさせてもらうさ!」


 俺はそう言うと、右手に持った剣を振りかざして一足飛びに飛んだ。


 そしてトリストに渾身の斬撃を打ち込んだ。


 だがトリストはその瞬間、ものの見事に消え失せたのだった。


 俺の剣は空を斬った。


 だが……。



 俺はトリストが姿を現わすのを待った。


 すると、しばらくしてトリストが俺の眼前に現れ出でた。


「良い斬撃だ。だが剣聖には及ばんな」


「同じ事を言わせるな。及ばないから何だと言うんだ。そんなことは関係ないんだよ」


「だがそれではわたしを倒せぬぞ?」


 トリストが裂けた口で嫌らしい笑い声を上げた。


 だが俺は落ち着き払っていた。


 それをトリストが見とがめた。


「うん?気になるねえ。自らの技や魔法が通じなかったというのに、その顔は何だね?」


 トリストは笑みを収め、逆にニヤリと微笑んでいる俺の顔を睨みつけた。


 そしてゆっくりと静かに歩を進めて俺に近付いてきた。


「何を笑っている?この状況で君が笑える理由はないはずだが?」


 トリストが不審げに首を傾げながら言った。


 俺はさらに笑みを深めて言い放った。


「俺が笑える理由ならあるさ」


 トリストがスッと立ち止まった。


 そして俺の顔をじっくりとのぞき込むようにして見つめた。


「ほう、あるかね?ならばそれを教えてくれるかな?」


「知りたいのか?悪魔のお前からしたら、俺みたいな人間なんて恐くも何ともないだろうに」


 するとトリストが笑った。


「恐いだって?何を言っているんだ。恐くはないさ。ただ、少し気になっただけでね」


「そうかな?俺にはそうは思えないけど」


「なんとでも言うがいいさ。だがそれはそれとして、そろそろ君が笑える理由とやらを教えてもらってもいいかな?」


 俺はうなずき、言ったのだった。


「そんなの、お前に勝てると俺が確信したからに決まっているだろう」
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