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97 白状
しおりを挟む「な、なんの話だ。わしは知らんぞ」
クランド男爵は娘のメラルダ夫人を庇うように抱きしめながらも、俺に怯えて震えながら言った。
「嘘をつけ。今ここにメラルダ夫人が居るのが証拠みたいなものだ。今回の一件にあんたが関係しているからこそ、ここへ逃げ込んだんだろうが」
「知らん知らん!わしは何にも知らんし、お前などと話す必要はない!出ていけ!」
「いやいやいや、何を逆ギレしてるんだよ。あんたがその財力でもって、裏からメラルダ夫人を後押ししていたんだろう?」
「ふん!知らんと言うておる」
強情な親子だな。
事ここに至って逃げられるとでも思っているのかね。
仕方ない。
あの手を使うか。
俺は無言でクランド男爵の喉を見つめた。
するとクランド男爵が自らの喉を押さえて苦しみだした。
「ぐ……ぐぅ……」
クランド男爵は目を剥き、必死にもがいて息を吸おうと試みた。
「どうする?大人しく白状する?」
俺の問いに、クランド男爵が必死に何度もうなずいた。
俺が魔法を解くと、クランド男爵は喉を押さえながら慌てて息を吸い込んでは吐き、吸い込んでは吐きを繰り返した。
そしてようやく落ち着いた頃を見計らって、再度俺は質問をした。
「あんたがメラルダ夫人を支援していたんだな?」
クランド男爵は観念したかのようにうなずいた。
「そ、そうだ」
「で、この事件でのあんたの他の役割は?」
クランド男爵がいぶかしげに問い掛けてきた。
「他の役割?何のことだ?」
「とぼけるなよ。また呼吸困難に陥りたいのか?」
「ま、待て!本当にわしは知らんのだ!本当だ!」
俺は眉根を寄せてクランド男爵を見つめた。
「本当に~?」
「ほ、本当だ!わしはメラルダに資金援助はしているが、その事件とやらについてもまったく知らん。初耳だ」
ふ~ん。
結構切羽詰まった感じで、嘘を言っているようには見えないな。
どうやら事件そのものには無関係らしい。
てことは、やっぱり本命の口を割らせなきゃ駄目ってことか。
「わかったよ。じゃああんたはいいや。メラルダ夫人に聞くことにするから」
俺は視線をメラルダ夫人に移した。
すると俺の視線を感じたのか、メラルダ夫人がキッと眼光鋭く睨み付けてきた。
いまだ意気軒昂ってところか。
「あんたは父親からの資金援助を受け、メイデン王子に近づき、大金を貸した。そうだな?」
するとメラルダ夫人があっさりと認めた。
「そうよ。だからなに?お金を貸すのがいけないとでも言うつもり?」
「金を貸すのがいけないなんて言ってはいないさ。ただ問題は、そのことでメイデン王子をいいように操り、リリーサ暗殺に持って行ったことを俺は責めているんだよ」
するとメラルダ夫人が鼻でせせら笑った。
「ふん、何を根拠に。わたしは別にメイデン王子に対して、何も言った覚えはないわ」
「嘘を付け。それにあんたはメイデン王子に薬かなんかを使って、上手いこと関係を持ったろ?」
「関係?さあ、何のことやら」
「とぼけるなって。とにかくあんたは金と関係性でもって、上手いことメイデン王子を操り、リリーサ暗殺に持って行った。それは間違いないはずだ」
「だから根拠はなに?わたしは何も言ってないし、何も知らないわ」
メラルダ夫人はそう言うと、ぷいっと横を向いた。
まったく認める気はないらしいね。
だがそうはいかない。
「それにもう一つ、事件があるんだろう?それはどんな事件なんだ?」
「何のこと?」
「あんたがさっきうっかり口で漏らした事件のことだよ」
「さあ?そんなこと言った覚えはないわ」
「あんたはさっき、俺がリリーサ暗殺未遂事件のことを念頭に置いて話をしていた際、別の事件のことを頭に置いていた。だから俺がリリーサの件を持ち出すと、あんたは『あの子の方』だったのね?と言ったんだ。つまりは別の何か事件を起こし、そちらの事件のことをあんたは念頭に置いていたってことだ。そうだろう?」
「何を言っているのか、わたくしにはまったくわからないわ」
仕方ない。
じゃあ馬鹿の一つ覚えみたいだけど、あれをするか。
俺は意識をメラルダ夫人の喉に集中させた。
「ぐっ!……くふっ……」
メラルダ夫人は先程のクランド男爵と同じように喉を必死で抑え始めた。
「ほら、抵抗しても無駄なんだよ。こっちはいつでもあんたたちを拷問することが出来るんだからな」
メラルダ夫人は必死に息を吸おうともがいている。
「全部白状するか?するなら息を吸わせてやるぞ?」
だがメラルダ夫人はその俺の申し出を受けなかった。
決して首肯せず、俺に憎しみの視線を向けて抵抗した。
「おい、無駄だって。さっさと降参しろよ」
だがメラルダ夫人は、それでも首を縦には振らなかった。
「おい!早くうなずけよ!死ぬぞ!?」
メラルダ夫人の目は血走り、口元からは泡がブクブクと噴き出し始めた。
するとクランド男爵がメラルダ夫人を必死で抱きしめ、叫んだ。
「メラルダ!おお、メラルダ!死んでしまうぞ!」
俺はそこで視線をメラルダ夫人から外した。
するとメラルダ夫人ががっくりと崩れ落ちた。
それをクランド男爵が抱き留めた。
くそっ!くそくそくそっ!
なんて女だ!
死んでも言わないつもりか。
いや違う。
言いたくないんじゃない。屈したくないんだ。
俺はクランド男爵に抱き留められて気を失っているメラルダ夫人をジッと見つめ、暗澹たる思いを胸に抱いたのだった。
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