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第四話 無詠唱魔法
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ガイウスが長い眠りから覚めたとき、その傍らにはロデムルとともに父ロンバルドがさも心配そうな顔で覗き込むようにして立っていた。
「目が覚めたかね」
ロンバルドは努めてやさしく問いかけた。
ガイウスは寝起きのためか、状況が判らずに数秒間ほどぼんやりしていたが、すぐに先ほどの事件を思い起こしてロンバルドに謝罪した。
「父様ごめんなさい。それにロデムル、ありがとう」
ロンバルドは自らへの謝罪に続き、すかさずロデムルへの感謝の言葉を発した愛息に感心しつつうなずいた。
その様子を、横で見ていたロデムルが恐縮して言った。
「いえ、緊急事態とはいえ坊ちゃまの大切な御身にさわるようなことをいたしまして、申し訳ございませんでした」
深く頭を下げるロデムルを、ロンバルドが制した。
「いや。ロデムルがいなければもっと大事となっていただろう。私も感謝している」
「はっ。ありがたきお言葉」
一連のやり取りを終えたロンバルドは、改めてガイウスに向き直って問い質した。
「さてガイウスよ。一体なにがあったのか、説明出来るか?」
問われたガイウスは一旦うつむき、少し考えをまとめてからゆっくりと、事件の詳細を包み隠さず説明した。
それを聞いたロンバルドとロデムルは、大層驚愕した。
ロンバルドはすでにロデムルから事件のあらましを聞いていたため、ガイウスが魔法を発動してしまったことは知っていたが、ガイウスの説明の中には大変驚くべき事実が隠されていた。
それは、ガイウスが呪文を詠唱することなく魔法を繰り出してしまったことだった。
通常、魔法とは呪文を声に出して唱えることで発動するものである。
詠唱することで集中力を高め、自らの内に眠る魔力を呼び覚まし、言葉がもたらすイメージを具現化させて魔法は発動する。
だが逆に言えば、何もせずとも既に高い集中力により魔力が呼び起こされており、言葉に出さずともイメージが完璧に自分の中に出来ていれば、詠唱する必要はないとも言える。
故に、無詠唱魔法という言葉自体は存在する。
だがそれは実際には至難の業とされていた。
言うなれば魔法における詠唱とは、運動前の準備体操のようなものであり、それをせずにいきなり激しい運動をするのは、危険な行為であるのと似ている。
何事を為すのにも準備というものは大変重要であり、それをおろそかにすると痛い目にあうことがある。
魔法の場合もそうであり、詠唱をおろそかにすると自分にその威力が跳ね返ってくることがある。
例えば、敵を倒そうと攻撃呪文を唱えた際に詠唱が不十分だと、唱えた本人に攻撃魔法が発動してしまい、大怪我を追ってしまうケースなどがそうである。
そもそもの話、魔法を扱える者は数が少なく、およそ百人に一人程度の割合であった。
しかもそれらのほとんどは初期魔法が扱える程度の者であり、火をおこしたり水を温めたりといった程度のことしか出来なかった。
攻撃魔法を扱える者ともなれば千人に一人程度しかいなく、それでも最低ランクの魔物をようやく倒せる程度のレベルでしかなかった。
高ランクの魔物を倒すレベルの魔法士ともなれば、数万人に一人となる。
だがそんな高レベルの魔法士といえども、無詠唱で魔法を繰り出せるわけではなかった。
では実際に無詠唱魔法を操ることの出来る者がいるのだろうか?
その答えは――いる。
それは「魔導師」と呼ばれる者たちであった。
魔導師とは読んで字のごとく、魔法士を導くことの出来る師のごとき存在であり、通常俗世から離れて深山幽谷に住まう伝説に近い存在である。
正直、その実在を疑われるレベルの希少な存在であり、魔導師と出会ったことの或る者などほとんどいないといってよい。
ガイウスの唱えた無詠唱魔法とは、それほどの存在である魔導師クラスで初めて扱えるレベルのものであり、ロンバルドやロデムルが驚愕するのも無理はなかった。
「無詠唱で魔法を……しかも最下級の水の魔法であるアクアで、あれ程大量の水を放出しているとなると、本当なのか?」
ガイウスは初め、なぜロンバルドたちがそんなに驚いた表情を見せているのか判らなかった。
だが、次第にことの重大さに気づき始めた。
(無詠唱魔法って、そんなに凄いのか。すごく自然に出来ちゃったけど。それに確かにあの水量は凄かったな。実際パニクッたし。もしかして俺、天才かも)
ガイウスは内心でほくそ笑みながらも、ロンバルドたちに対しては無垢で健気な幼児をよそおった。
「父様、僕はなにか大変なことをしてしまったのでしょうか?」
ロンバルドはそんな愛息の様子を見て、少々慌てて否定した。
「いや、別に悪いことをしたわけではない。だから私はお前を咎めているわけではないんだ。そうだな、ただちょっと驚いてしまってね」
ちょっとどころの騒ぎではない驚きの表情を浮かべながらロンバルドは取り繕った。
すると先ほどまで一切声を発していなかったロデムルが、厳かに口を開いた。
「旦那様。どうやら坊ちゃまの魔法センスは尋常ではございません。それに魔力総量も極めて膨大と言わざるを得ません」
(ふむ。やはり俺は天才らしいな。これはどうやら面白くなってきたぞ)
「ですのでどうでしょう、ここは一つあの御方にご足労願っては?」
するとロンバルドは、とても焦った表情を見せた。
「あの御方だと!?いや!いやいや!あの御方はお忙しいんじゃないかな?いや多分そうだろう。ああきっとそうだ、お忙しいに違いない!」
「旦那様。失礼ながら旦那様があの御方を大層苦手になさっていることは承知致しております。正直申しまして、このわたくしめも少々苦手でございます。いえ、そもそもあの御方を苦手になさらぬ方はそうはいらっしゃらないかと存じます」
(あの御方ってどんな奴なんだ?というより、なんか雲行きが怪しくなってきたような)
「ですが、ことは坊ちゃまの今後に関わることでございます。あの御方をお招きし、坊ちゃまの家庭教師となっていただくべきかと愚考致します」
ロンバルドは腕を組んで瞑目し、かなり長く考え込んだ。
そしてついに、その重い口を開いた。
「ああ、そうだな。たしかにこれほどの魔法センスと魔法総量を持つとなれば、よほどの者でなければ教え導くことなど出来はしないだろう。しかし、ガイウスが不憫なことにならないだろうか」
(不憫って、ちょっと待ってくれ。あの御方って本当にどんな奴なんだよ)
「旦那様。たしかに坊ちゃまは大変なご苦労をされるかと存じます。きっと理不尽な目にも合わされることでしょう。この世に生まれてきたことを呪うようなことすらあるかもしれません。しかし坊ちゃまならばきっと耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、いつの日かこの栄光或るシュナイダー家の立派な跡継ぎとなってくださると、このロデムルは信じております」
「ああ、そうだな。ガイウスならばきっとどのような目に合おうとも、きっと……よし!ロデムル、あの御方のところへ参れ。そしてガイウスの家庭教師として必ず連れ帰って参るのだ」
「はっ!委細承知いたしました。それでは取り急ぎ、行って参ります」
言うやロデムルは一礼し、急ぎ足で部屋を出て行った。
ロンバルドは、ロデムルの背中を見送るなりガイウスに向き直り、やさしく語りかけた。
「ガイウス、これはお前にとって大変につらい試練ではあるが、お前ならば大丈夫だ。がんばれよ」
ロンバルドは、今にも泣きそうな顔で愛息にそう語りかけた。
そして当のガイウスは、そのあまりの展開の速さに呆気に取られてしまった。
(何なんだこの展開は?冗談じゃないぞ。俺一体、この先どうなっちゃうんだよ?)
「目が覚めたかね」
ロンバルドは努めてやさしく問いかけた。
ガイウスは寝起きのためか、状況が判らずに数秒間ほどぼんやりしていたが、すぐに先ほどの事件を思い起こしてロンバルドに謝罪した。
「父様ごめんなさい。それにロデムル、ありがとう」
ロンバルドは自らへの謝罪に続き、すかさずロデムルへの感謝の言葉を発した愛息に感心しつつうなずいた。
その様子を、横で見ていたロデムルが恐縮して言った。
「いえ、緊急事態とはいえ坊ちゃまの大切な御身にさわるようなことをいたしまして、申し訳ございませんでした」
深く頭を下げるロデムルを、ロンバルドが制した。
「いや。ロデムルがいなければもっと大事となっていただろう。私も感謝している」
「はっ。ありがたきお言葉」
一連のやり取りを終えたロンバルドは、改めてガイウスに向き直って問い質した。
「さてガイウスよ。一体なにがあったのか、説明出来るか?」
問われたガイウスは一旦うつむき、少し考えをまとめてからゆっくりと、事件の詳細を包み隠さず説明した。
それを聞いたロンバルドとロデムルは、大層驚愕した。
ロンバルドはすでにロデムルから事件のあらましを聞いていたため、ガイウスが魔法を発動してしまったことは知っていたが、ガイウスの説明の中には大変驚くべき事実が隠されていた。
それは、ガイウスが呪文を詠唱することなく魔法を繰り出してしまったことだった。
通常、魔法とは呪文を声に出して唱えることで発動するものである。
詠唱することで集中力を高め、自らの内に眠る魔力を呼び覚まし、言葉がもたらすイメージを具現化させて魔法は発動する。
だが逆に言えば、何もせずとも既に高い集中力により魔力が呼び起こされており、言葉に出さずともイメージが完璧に自分の中に出来ていれば、詠唱する必要はないとも言える。
故に、無詠唱魔法という言葉自体は存在する。
だがそれは実際には至難の業とされていた。
言うなれば魔法における詠唱とは、運動前の準備体操のようなものであり、それをせずにいきなり激しい運動をするのは、危険な行為であるのと似ている。
何事を為すのにも準備というものは大変重要であり、それをおろそかにすると痛い目にあうことがある。
魔法の場合もそうであり、詠唱をおろそかにすると自分にその威力が跳ね返ってくることがある。
例えば、敵を倒そうと攻撃呪文を唱えた際に詠唱が不十分だと、唱えた本人に攻撃魔法が発動してしまい、大怪我を追ってしまうケースなどがそうである。
そもそもの話、魔法を扱える者は数が少なく、およそ百人に一人程度の割合であった。
しかもそれらのほとんどは初期魔法が扱える程度の者であり、火をおこしたり水を温めたりといった程度のことしか出来なかった。
攻撃魔法を扱える者ともなれば千人に一人程度しかいなく、それでも最低ランクの魔物をようやく倒せる程度のレベルでしかなかった。
高ランクの魔物を倒すレベルの魔法士ともなれば、数万人に一人となる。
だがそんな高レベルの魔法士といえども、無詠唱で魔法を繰り出せるわけではなかった。
では実際に無詠唱魔法を操ることの出来る者がいるのだろうか?
その答えは――いる。
それは「魔導師」と呼ばれる者たちであった。
魔導師とは読んで字のごとく、魔法士を導くことの出来る師のごとき存在であり、通常俗世から離れて深山幽谷に住まう伝説に近い存在である。
正直、その実在を疑われるレベルの希少な存在であり、魔導師と出会ったことの或る者などほとんどいないといってよい。
ガイウスの唱えた無詠唱魔法とは、それほどの存在である魔導師クラスで初めて扱えるレベルのものであり、ロンバルドやロデムルが驚愕するのも無理はなかった。
「無詠唱で魔法を……しかも最下級の水の魔法であるアクアで、あれ程大量の水を放出しているとなると、本当なのか?」
ガイウスは初め、なぜロンバルドたちがそんなに驚いた表情を見せているのか判らなかった。
だが、次第にことの重大さに気づき始めた。
(無詠唱魔法って、そんなに凄いのか。すごく自然に出来ちゃったけど。それに確かにあの水量は凄かったな。実際パニクッたし。もしかして俺、天才かも)
ガイウスは内心でほくそ笑みながらも、ロンバルドたちに対しては無垢で健気な幼児をよそおった。
「父様、僕はなにか大変なことをしてしまったのでしょうか?」
ロンバルドはそんな愛息の様子を見て、少々慌てて否定した。
「いや、別に悪いことをしたわけではない。だから私はお前を咎めているわけではないんだ。そうだな、ただちょっと驚いてしまってね」
ちょっとどころの騒ぎではない驚きの表情を浮かべながらロンバルドは取り繕った。
すると先ほどまで一切声を発していなかったロデムルが、厳かに口を開いた。
「旦那様。どうやら坊ちゃまの魔法センスは尋常ではございません。それに魔力総量も極めて膨大と言わざるを得ません」
(ふむ。やはり俺は天才らしいな。これはどうやら面白くなってきたぞ)
「ですのでどうでしょう、ここは一つあの御方にご足労願っては?」
するとロンバルドは、とても焦った表情を見せた。
「あの御方だと!?いや!いやいや!あの御方はお忙しいんじゃないかな?いや多分そうだろう。ああきっとそうだ、お忙しいに違いない!」
「旦那様。失礼ながら旦那様があの御方を大層苦手になさっていることは承知致しております。正直申しまして、このわたくしめも少々苦手でございます。いえ、そもそもあの御方を苦手になさらぬ方はそうはいらっしゃらないかと存じます」
(あの御方ってどんな奴なんだ?というより、なんか雲行きが怪しくなってきたような)
「ですが、ことは坊ちゃまの今後に関わることでございます。あの御方をお招きし、坊ちゃまの家庭教師となっていただくべきかと愚考致します」
ロンバルドは腕を組んで瞑目し、かなり長く考え込んだ。
そしてついに、その重い口を開いた。
「ああ、そうだな。たしかにこれほどの魔法センスと魔法総量を持つとなれば、よほどの者でなければ教え導くことなど出来はしないだろう。しかし、ガイウスが不憫なことにならないだろうか」
(不憫って、ちょっと待ってくれ。あの御方って本当にどんな奴なんだよ)
「旦那様。たしかに坊ちゃまは大変なご苦労をされるかと存じます。きっと理不尽な目にも合わされることでしょう。この世に生まれてきたことを呪うようなことすらあるかもしれません。しかし坊ちゃまならばきっと耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、いつの日かこの栄光或るシュナイダー家の立派な跡継ぎとなってくださると、このロデムルは信じております」
「ああ、そうだな。ガイウスならばきっとどのような目に合おうとも、きっと……よし!ロデムル、あの御方のところへ参れ。そしてガイウスの家庭教師として必ず連れ帰って参るのだ」
「はっ!委細承知いたしました。それでは取り急ぎ、行って参ります」
言うやロデムルは一礼し、急ぎ足で部屋を出て行った。
ロンバルドは、ロデムルの背中を見送るなりガイウスに向き直り、やさしく語りかけた。
「ガイウス、これはお前にとって大変につらい試練ではあるが、お前ならば大丈夫だ。がんばれよ」
ロンバルドは、今にも泣きそうな顔で愛息にそう語りかけた。
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