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第十七話 黒幕
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1
「うっ」
薄暗い地下室を出て、ようやく明るい日の光にさらされたガイウスは、あまりの眩しさに思わず瞼をぎゅっと閉じつつ、顔を背けた。
「ずいぶん日が高いな。お昼くらい?」
ガイウスがそう問いかけると、途端に聞き覚えのある鐘の音が鳴り響いた。
「なるほどね。やはりここはエルムールか」
それは属州エルムールのシンボルともなっている、見張り塔の正午を告げる鐘の音だった。
この世界に生れ落ちてからの六年間、毎日のように聞きなじんだ鐘の音をガイウスが聞き違えるはずがなく、彼はここがエルムールであることを今はっきりと確信した。
「やはり、ということは確信はないまでも、ここがエルムールであると予想していたということか?」
リーダーは廊下を先導しながら歩きつつ、感心したようにガイウスに問いかけた。
ガイウスはその後をゆっくりと付き従いつつ、したり顔で答えた。
「まあね。さすがにダロスじゃないだろうし、船に揺られているわけでもないとくれば、実はほとんど動いていないと考えるのが普通じゃない?」
「なるほど。そうなるか」
「まあ、ダロスに向かう途中の休憩地点っていう考えもなくはないけど、あんなりっぱな地下室を備えた屋敷を事前に用意しているとは考えにくい。そもそも当初の予定では、誘拐するのはユリアだけだったわけだし、それならあんな頑丈な造りの地下室なんて必要ないわけだからね」
「なるほど。やはり貴様は面白い」
「そうかい。俺は後ろ手に手錠に繋がれて、面白くもなんともないけどね」
「もうしばらくの辛抱だ。我が主人に貴様のアクアを打ち込まれては困るのでな」
「まあそうだろうね。ところで、もうそろそろ黒幕の正体を明かしてくれてもいいだろ?」
「聞くまでもなく、どうせ見当がついているのだろう?」
「まあね。たぶんダロス王国駐エルムール公使、ミカエル・シュトラウス公爵その人なんじゃないかな?」
「その通りだ。そして――」
リーダーはそこで一旦言葉を区切ると同時に足を止め、ガイウスに向かって振り返った。
「この扉の向こうで、その閣下がお待ちだ」
ガイウスは小刻みに何度もうなずきながら、大人の背丈の二倍はあるかという巨大にして華麗な装飾が施された豪華な開き扉を睨みつけた。
2
「閣下、ガイウス・シュナイダーを連れて参りました」
目の前の豪奢なソファーに後ろ向きに座る痩せぎすの男に向かい、リーダーは威儀を正して告げた。
閣下と呼ばれた男は、首を少し傾けながらけだるそうにゆっくりと立ち上がり、さも面倒くさそうに振り向いた。
ガイウスはこの痩せぎすで狡猾そうな笑みを湛えた男こそ、この事件の黒幕ミカエル・シュトラウス公爵その人であると確信し、心中で秘かに闘志を燃やしていた。
「ジェイド。なぜこんなやっかいな子供を連れて来たのかね。わたしはそんな命令を出した覚えはないんだが」
シュトラウスにジェイドと呼ばれたリーダーは、丁寧に腰を折ってお辞儀をした。
「はい。閣下の仰るとおりでございます。ですがこの者、もしやすると『殿下』が捜し求めている者ではないかと思いまして、連れて参った次第でございます」
ジェイドの言葉にシュトラウスは驚愕の表情を浮かべた。
「そ、それはまことか!?この子供が『殿下』の探しておられる者だというのか!?」
「いえ、まだ確証はございません。ですがその可能性はあるかと」
「そうか。いや、確証がなくとも可能性があるのならば、『殿下』の下へお連れするべきであろうな」
「もしも違うならば、その時処刑すればよいこと。ですがもし本物ならば――」
「恩賞は望みのまま、というわけだな?」
「その通りでございます」
それまで怪訝な表情で二人のやりとりを聞いていたガイウスが、そこで痺れを切らして会話に割って入る。
「おい、一体何の話だ?俺がなんだって?『殿下』ってのは一体誰のことなんだ?」
ガイウスが言い様のない不安に襲われつつ問うも、シュトラウスはいやらしい笑みをその痩せ細った顔に貼り付けるだけで決して答えようとはしなかった。
「うっ」
薄暗い地下室を出て、ようやく明るい日の光にさらされたガイウスは、あまりの眩しさに思わず瞼をぎゅっと閉じつつ、顔を背けた。
「ずいぶん日が高いな。お昼くらい?」
ガイウスがそう問いかけると、途端に聞き覚えのある鐘の音が鳴り響いた。
「なるほどね。やはりここはエルムールか」
それは属州エルムールのシンボルともなっている、見張り塔の正午を告げる鐘の音だった。
この世界に生れ落ちてからの六年間、毎日のように聞きなじんだ鐘の音をガイウスが聞き違えるはずがなく、彼はここがエルムールであることを今はっきりと確信した。
「やはり、ということは確信はないまでも、ここがエルムールであると予想していたということか?」
リーダーは廊下を先導しながら歩きつつ、感心したようにガイウスに問いかけた。
ガイウスはその後をゆっくりと付き従いつつ、したり顔で答えた。
「まあね。さすがにダロスじゃないだろうし、船に揺られているわけでもないとくれば、実はほとんど動いていないと考えるのが普通じゃない?」
「なるほど。そうなるか」
「まあ、ダロスに向かう途中の休憩地点っていう考えもなくはないけど、あんなりっぱな地下室を備えた屋敷を事前に用意しているとは考えにくい。そもそも当初の予定では、誘拐するのはユリアだけだったわけだし、それならあんな頑丈な造りの地下室なんて必要ないわけだからね」
「なるほど。やはり貴様は面白い」
「そうかい。俺は後ろ手に手錠に繋がれて、面白くもなんともないけどね」
「もうしばらくの辛抱だ。我が主人に貴様のアクアを打ち込まれては困るのでな」
「まあそうだろうね。ところで、もうそろそろ黒幕の正体を明かしてくれてもいいだろ?」
「聞くまでもなく、どうせ見当がついているのだろう?」
「まあね。たぶんダロス王国駐エルムール公使、ミカエル・シュトラウス公爵その人なんじゃないかな?」
「その通りだ。そして――」
リーダーはそこで一旦言葉を区切ると同時に足を止め、ガイウスに向かって振り返った。
「この扉の向こうで、その閣下がお待ちだ」
ガイウスは小刻みに何度もうなずきながら、大人の背丈の二倍はあるかという巨大にして華麗な装飾が施された豪華な開き扉を睨みつけた。
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「閣下、ガイウス・シュナイダーを連れて参りました」
目の前の豪奢なソファーに後ろ向きに座る痩せぎすの男に向かい、リーダーは威儀を正して告げた。
閣下と呼ばれた男は、首を少し傾けながらけだるそうにゆっくりと立ち上がり、さも面倒くさそうに振り向いた。
ガイウスはこの痩せぎすで狡猾そうな笑みを湛えた男こそ、この事件の黒幕ミカエル・シュトラウス公爵その人であると確信し、心中で秘かに闘志を燃やしていた。
「ジェイド。なぜこんなやっかいな子供を連れて来たのかね。わたしはそんな命令を出した覚えはないんだが」
シュトラウスにジェイドと呼ばれたリーダーは、丁寧に腰を折ってお辞儀をした。
「はい。閣下の仰るとおりでございます。ですがこの者、もしやすると『殿下』が捜し求めている者ではないかと思いまして、連れて参った次第でございます」
ジェイドの言葉にシュトラウスは驚愕の表情を浮かべた。
「そ、それはまことか!?この子供が『殿下』の探しておられる者だというのか!?」
「いえ、まだ確証はございません。ですがその可能性はあるかと」
「そうか。いや、確証がなくとも可能性があるのならば、『殿下』の下へお連れするべきであろうな」
「もしも違うならば、その時処刑すればよいこと。ですがもし本物ならば――」
「恩賞は望みのまま、というわけだな?」
「その通りでございます」
それまで怪訝な表情で二人のやりとりを聞いていたガイウスが、そこで痺れを切らして会話に割って入る。
「おい、一体何の話だ?俺がなんだって?『殿下』ってのは一体誰のことなんだ?」
ガイウスが言い様のない不安に襲われつつ問うも、シュトラウスはいやらしい笑みをその痩せ細った顔に貼り付けるだけで決して答えようとはしなかった。
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