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第三十三話 忌子
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「わたくしのせいです。お父様がお変わりになってしまわれたのは」
クラリスは熱があるのか、少々荒い息づかいではあるものの、キッと上向きに顔を上げ、毅然とした態度で言った。
「それは違うと思うけど」
「いいえ!わたくしが病気を患ってしまったばかりに、お父様がお変わりになられたのですから、これはわたくしのせいです」
クラリスは、ガイウスの言葉を傲然とした口調で遮り、自らの思いの丈を雄弁に語った。
「お父様はわたくしの病気を治すという、その一心からあの詐欺師のカリウスに傾倒してしまわれたのですわ。その結果、あのような恐ろしいことまで……ああ、お可哀想なお父様!」
「あのう、あなたはいつ頃からカリウスを信用できないと?」
「ついさっきよ!ジェイドに聞いたの」
「へっ!?さっき?」
「ええ、そうよ」
「えっとー、じゃあそれまでは?」
「信用してたわよ、もちろん。だってわたし、占いとか大好きだし」
「はあ、じゃあつまり、ついさっきジェイドに事情を聞いて、初めて目が覚めた、というわけ?」
「ええ、そうよ。いけない?」
「いやー、別にいけないってことはないんだけどー」
「人は誰だって間違いを犯すと思うの。でもね、それを間違いと認めてやり直すってことが出来るのも、人なのよ。それって素晴らしいことだと思わなくって?」
「はあ」
ガイウスは心底呆れ果てたという顔つきでカルラを見るも、彼女はそっぽを向いたままであった。
「えーとー、良く判りました。もう結構ですので、御自分の部屋にお戻りください」
「そう!それは良かったわ。お父様良かったわね。許してもらえるそうよ」
「いやいやいやいやいや、そういう意味じゃなくってね」
「あら?ではどういう意味なのかしら?」
「いや~それはその、とりあえず一旦お引取りをという意味であって」
「いやよ!お父様を許してくださるまで、わたくしはここを一歩も動きませんわ!」
するとここでようやく、カルラが含み笑いをしながら振り向いた。
「くっくっくっくっく。小僧、ずいぶんと苦労しているじゃないか。面白いねえ」
「面白がってないで、助けてくださいよ」
「そうさね。まあ確かにこのままじゃ埒が明かないね。おいシュトラウス!お前さん、本当に反省しているんだね?」
「はい」
「ではユリア、といったかな?あの子のことはどう思っているんだい?あたしは、そいつを聞きたいねえ」
「ユリア……あの子は忌子なのだ。ダロスの古い慣わしでは、双子は凶事を為すと言い伝えられておる。それも後にこの世に生まれ出でた者が凶事を為す、と。だから私は、双子が生まれたと聞いた瞬間、あの子を殺すつもりであった。しかしそれを察知した者がおり、密かにあの子を連れ去ったのだ」
ここでガイウスが、口を差し挟んだ。
「誰が連れ去ったと?」
「この事件の後、当家の剣術指南役、ネルヴァ・ターラントが姿をくらましよった。だから彼が犯人であろうと。しかし、その行方は杳として知れなんだ」
「なーるほどね。あの先生、本当はそんな名前だったのか。それで、運命のいたずらか、その数年後にこのエルムールの公使としてあんたが赴任してきたために、彼ら親子は不運にも見つかってしまったというわけだな。運命ってのは、あるのか、ないのか、どっちなのかなあ」
ガイウスは、運命のいたずらというものを目の当たりにしたような感覚に襲われ、一つ大きなため息を吐いた。
クラリスは熱があるのか、少々荒い息づかいではあるものの、キッと上向きに顔を上げ、毅然とした態度で言った。
「それは違うと思うけど」
「いいえ!わたくしが病気を患ってしまったばかりに、お父様がお変わりになられたのですから、これはわたくしのせいです」
クラリスは、ガイウスの言葉を傲然とした口調で遮り、自らの思いの丈を雄弁に語った。
「お父様はわたくしの病気を治すという、その一心からあの詐欺師のカリウスに傾倒してしまわれたのですわ。その結果、あのような恐ろしいことまで……ああ、お可哀想なお父様!」
「あのう、あなたはいつ頃からカリウスを信用できないと?」
「ついさっきよ!ジェイドに聞いたの」
「へっ!?さっき?」
「ええ、そうよ」
「えっとー、じゃあそれまでは?」
「信用してたわよ、もちろん。だってわたし、占いとか大好きだし」
「はあ、じゃあつまり、ついさっきジェイドに事情を聞いて、初めて目が覚めた、というわけ?」
「ええ、そうよ。いけない?」
「いやー、別にいけないってことはないんだけどー」
「人は誰だって間違いを犯すと思うの。でもね、それを間違いと認めてやり直すってことが出来るのも、人なのよ。それって素晴らしいことだと思わなくって?」
「はあ」
ガイウスは心底呆れ果てたという顔つきでカルラを見るも、彼女はそっぽを向いたままであった。
「えーとー、良く判りました。もう結構ですので、御自分の部屋にお戻りください」
「そう!それは良かったわ。お父様良かったわね。許してもらえるそうよ」
「いやいやいやいやいや、そういう意味じゃなくってね」
「あら?ではどういう意味なのかしら?」
「いや~それはその、とりあえず一旦お引取りをという意味であって」
「いやよ!お父様を許してくださるまで、わたくしはここを一歩も動きませんわ!」
するとここでようやく、カルラが含み笑いをしながら振り向いた。
「くっくっくっくっく。小僧、ずいぶんと苦労しているじゃないか。面白いねえ」
「面白がってないで、助けてくださいよ」
「そうさね。まあ確かにこのままじゃ埒が明かないね。おいシュトラウス!お前さん、本当に反省しているんだね?」
「はい」
「ではユリア、といったかな?あの子のことはどう思っているんだい?あたしは、そいつを聞きたいねえ」
「ユリア……あの子は忌子なのだ。ダロスの古い慣わしでは、双子は凶事を為すと言い伝えられておる。それも後にこの世に生まれ出でた者が凶事を為す、と。だから私は、双子が生まれたと聞いた瞬間、あの子を殺すつもりであった。しかしそれを察知した者がおり、密かにあの子を連れ去ったのだ」
ここでガイウスが、口を差し挟んだ。
「誰が連れ去ったと?」
「この事件の後、当家の剣術指南役、ネルヴァ・ターラントが姿をくらましよった。だから彼が犯人であろうと。しかし、その行方は杳として知れなんだ」
「なーるほどね。あの先生、本当はそんな名前だったのか。それで、運命のいたずらか、その数年後にこのエルムールの公使としてあんたが赴任してきたために、彼ら親子は不運にも見つかってしまったというわけだな。運命ってのは、あるのか、ないのか、どっちなのかなあ」
ガイウスは、運命のいたずらというものを目の当たりにしたような感覚に襲われ、一つ大きなため息を吐いた。
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