転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第百十五話 執務室にて

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「おはようございます。副長官」

 白亜に聳え立つ近代的な建物の一室で、秘書とおぼしき女性から挨拶を受けた男は、優しげな微笑をたたえながら挨拶を返した。

「おはようコーデシア君。今日は暇そうかい?もしそうならありがたいね」

 すると長年この男に付き従う秘書のコーデシアは、少々いたずらっぽく微笑んだ。

「さあ、どうでしょうか。ただ先程すでに面会を希望される方が、お越しになりましたけどね」

「こんなに朝早くからかい?そいつは、ずいぶんと迷惑な奴だな」

 すると突然、コーデシアの背後から凛とした涼やかな声が響き渡った。

「迷惑な奴とは、またずいぶんな言われようですね、副長官」

「なんだシェスター審議官、面会者というのは君のことか?」

「ええ、そうですよ。ロンバルド・シュナイダー属州副長官殿」


 あの忌まわしき年、紛争地エスタで千年竜が暴れ狂い、大魔導師カルラがダロス王国の王宮内で消失するというあの恐るべき年から、実に六年もの歳月が流れていた。

 そして歳月は二人を、それぞれ属州エルムールの副長官と、その補佐を兼ねる審議官へと昇進させていた。

「それでは、面会の用向きを聞こうかな?シェスター審議官」

 ロンバルドはそう言うと、執務室に置かれた豪華なあつらえのソファーに腰をどっかと下ろした。

 シェスターも慣れた様子でロンバルドの向かいのソファーに腰を下ろした。

「どうやら、またぞろレイダム王家内で、骨肉の争いが繰り広げられているようですよ」

 シェスターが若干呆れ顔で言うと、ロンバルドはさも嫌気が差したと言わんばかりの顔つきとなった。

「またか!六年前のあの王位継承時の御家騒動から、一体今まで何度、血で血を洗う骨肉の抗争劇を繰り返してきたことか!それをまた懲りもせずに。これまではローエングリン教皇国が大人しくしていてくれたからよかったものの、今回もそうとは限らんぞ」

「そろそろレイダムも、あのエスタ戦役で壊滅した軍の再編がようやく終わる頃ですからね。きな臭いことにならなければいいのですが」

「ダロスはどうだ?」

「残念ながら、なにも」

「そうか……」


 六年前、シェスターはロンバルドの命を受け、ダロス王国に調査に向かった。

 それというのもロンバルドの一子ガイウス・シュナイダーが、ダロスにおいて奇妙にして恐るべき事件に遭遇したためであった。

 その事件とは、ダロス王室が何者か得体の知れない者共によって乗っ取られているのでは?というものであった。

 そのためシェスターは、調査チームを率いて自らダロス王宮内に決死の覚悟で潜入調査に入ったのだったが、何一つ情報を得ることが出来なかった。

 なぜならば王宮内は、以前と変わらず至極普通であったためだ。

 ガイウスの報告とは異なり、異常な部分が何一つ見当たらず、以前の王宮内との違いがまったく見当たらなかった。

 そのためシェスターは、仕方なく手ぶらで帰国することとなった。

「ダロスにも動きはないか。思えばあれからの六年間、何一つダロスに動きがないというのもおかしな話だと思わんか?」

「ええ、ですからおそらくはご子息の言う通り、何者かが完璧にダロス王室の方々に成りすましているのでしょう。私が調査した際には、ついぞその尻尾を掴む事は出来ませんでしたが、いつか必ずその正体を現す時が来るでしょうね」

「ああ、そうだな」

「ですが、まあ取り敢えずこちらは動きがあるまで静観するしかないでしょうね」

「新しい動きがあり次第、随時報告を頼む」

「承知しました」

 そう言うとシェスターはすっくと立ち上がり、ロンバルドに対して一礼すると、速やかに部屋を滑るように出て行った。

 入れ違いに秘書のコーデシアが、ゆらゆらと湯気の立った熱いお茶を二客持ってやってきた。

「審議官の分が、余ってしまいましたわ」

「そうだな。せっかくだから、君が代わりにそこへ座って飲んでいけばいい。どうやら今日は暇なようだしな」

 そう言うとロンバルドは、熱々のティーカップに手を伸ばした。

「そうですね。もったいないですから、いただいちゃいますね」

 コーデシアは茶目っ気たっぷりに笑うと、ロンバルド同様カップの取っ手に手を掛けた。

 ロンバルドは熱いお茶にふうふうと息を吹きかけつつ、少量だけ口に含むと静かに飲み干した。

 そして明るい陽光が射す窓の外を見ながら、小さな声でそっと呟いた。

「この先ずっと何もなければいいのだがな。何も、な」
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