転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第百三十六話 バランスの勇気

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「用意はいいか?」

 バランスは、対面するマックスに向かって言った。

「ああ、いつでもいいぞ」

 マックスは、渋々といった表情で応じた。

 バランスは満足げにうなずくと、タイミングを見計らって叫んだ。

「今だっ!」

 バランスの合図にマックスは素早く反応し、大きく前へ一歩踏み出して右手に握られたベルトを力一杯振るった。

 すると魔獣は、ベルトを避けるためにビクリと一旦大きく身体をのけ反らせて逃れた後、多少緩慢な動きながら、反撃を試みようとマックスへと襲い掛かった。

 マックスは魔獣の反撃を予想していたため、すぐに大きく後ろへ跳んで、難なく魔獣の攻撃をかわすことに成功した。

 魔獣は二つの口からそれぞれ赤く長い二股に分かれた舌をチロチロと出しながら、悔しそうな素振りを見せた。

 だが次の瞬間、魔獣は張り裂けんばかりに四つの目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 そしてその二本の首からは、金と銀の光彩を放つなにか・・・が突き立っていた。


 それは、美しく装飾された純金製の柄をもつ細身の短剣であった。


 マックスは魔獣の首筋に突き立ったものが短剣であると認めると、つい二週間前に起こった出来事を思い出した。

「お前、それはあの時の!」

 バランスはマックスの問いに満足げにうなずくと、顎をくいっと上向きにして得意げに語った。

「そうだ。あの時の短剣だ。ちょうど二本あってよかったな」

 バランスが言い終えるや、魔獣は苦しそうな叫びを上げるとともに、太く長い尻尾を振って暴れだした。

「みんな離れろ!散開するんだ!」

 すかさずアルベルトが、大声で指示を出した。

 すると皆、機敏な動きで後ろへ大きく跳び退り、魔獣の攻撃を難なくかわすことに成功した。

 だが魔獣はその後も矢鱈と尻尾を横に振り回したり、縦に大きく振り下ろして地面を激しく叩いたりしたが、次第にその力は弱まっていき、しばらくすると身体も尻尾も動かなくなっていった。

 そして断末魔の甲高い叫び声を上げたかと思うと、実にあっけなく横倒しに地面に倒れ臥した。

「やった!すごい!」

 アルベルトを筆頭に、皆口々に快哉を叫んだ。

「本当にやりやがった、こいつ。すげえ」

 マックスもまたバランスの勇気に驚き、皆と同様素直に賞賛の言葉を呟いた。

 バランスは勝利に上気した顔となって、皆の賞賛の声を一身に浴びながら魔獣にゆっくりと近づくと、首に刺さった二本の短剣を抜き取って回収した。

 その際、魔獣の首から青みがかった黒い血がどろどろと流れ出したが、もう二度と魔獣が動き出すことはなかった。

「よくやってくれた!」

 アルベルトがバランスに歩み寄り、その肩を叩きながら改めてねぎらった。

 そのほかの者たちも続々とバランスの元へ集まり、口々にねぎらいの言葉を投げかけた。

 そしてマックスも。

「すげえなお前。見直したぜ」

 バランスは、初めて皆にはにかんだようなぎこちない笑顔を見せた。

「いや、お前のおかげでもあるさ」

 バランスはこういう場面は初めてなのか、ひどく照れくさそうに言った。
 
 そして短剣を一本、マックスに向かって差し出した。

「いいのか?」

 マックスの言葉に、バランスはゆっくりとうなずいた。

「一人が二本持つより二人で一本ずつ持っていたほうがいいだろう」

 その言葉を受け、マックスもまた照れくさそうに短剣を受け取ると、バランスは満足そうに軽くうなずいた。

 それがバランスの、マックスに対する精一杯の友情の証であった。
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