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第3話 公園にて項垂れる
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「どうするか……」
俺は、いつの間にやら転移場所の小高い丘の上に戻り、見晴らしの良い場所に設置してあるベンチに座っていた。
眼下には、様々な種類の光源から放たれる瞬きが、辺り一面を照らしている。
俺は途方に暮れ、先ほどからただ茫然とその美しい夜景を見下ろしていた。
「はあ……」
唖然と締まりなく開いた口から、深いため息が漏れ出た。
ベンチに腰かけている俺は、腰を曲げて太腿に肘をつき、両掌でうなだれた顔を覆った。
次いで掌を滑らせ、髪の毛をかきむしる。
「ていうか、どういうことだよ!?」
思わず疑問が口をついて出る。
「こちらとあちらでは、時間の流れが違うのか?」
恐らくはそうだ。あの二人の容貌は、あまりにも想像と違い過ぎた。
二人とも、老けすぎていた。時間の流れが違うとしか考えられない。
だがそれだけじゃない。
「俺は交通事故で死んだわけじゃない。俺は見知らぬ森に迷い込み、そこで光に包まれて訳も分からず異世界に攫われたんだ」
だが弟の爽は、俺は交通事故で死んだと言っていた。しかも母の目の前での事故で、即死だったとも。
違う。そんな覚えはまるでない。交通事故なんて、今まで一度だって遭ったことはない。
おかしい。なにもかもが違っている。
俺はもう一度頭を掻きむしった。
だがとてもではないが、気は晴れなかった。
それもそうだろう。二十年間恋い焦がれた懐かしの我が家に帰れないのだ。
どうしたらいい?俺はどこに帰ったらいい?どこか、行き場所はあるのか?
――ない。そんな都合のいい場所は、俺にはない。
俺が異世界に飛ばされたのは十五歳の時だ。まだ子供だった。居場所なんて家しかないに決まっている。
ダメだ。行くところがない。ちっくしょう。どうしたらいいんだ。
俺は懐かしの元いた世界に舞い戻るも行き場を完全に見失い、途方に暮れてしまった。
「ねえ、ちょっとダメだよ……周りのひとに見られちゃったらどうするの?」
突然、艶めかしい声が聞こえた。
俺はうなだれて首をだらんと垂らした顔を横に向け、声のする方を見た。
いつの間にやら二つ先のベンチに、男女がふたりで肩を寄せ合って座っている。
どうやら声を発したのは女性のようだ。
と、その女性の肩を抱いた男性が言った。
「大丈夫だよ。誰も見てないよ」
いや、見てるよ。俺が。
だが俺にはのぞき見趣味があるわけではない。それに今はとてもではないがそんな気分でもない。
俺は顔を下に戻し、足元の土を見つめた。
暗いながらもわずかな光源に照らされ、土の上に蠢くものが見える。
地面の上に落ちた枯葉が動いているようだ。
俺は目を細めて注視した。
ああ、そうか。蟻だ。蟻が枯葉を運んでいるのだ。
たった一匹で、自分の身体の何十倍もの大きさの枯葉を運んでいる。
重さも何十倍だろう。それにも拘わらず、蟻は健気に枯葉をせっせと運んでいた。
巣穴に帰るのだろう。あの大きい枯葉を戦利品として自らが帰属する巣へと帰る途上なのだ。
いいなあ、帰る家があるのか。
いいよなあ、お前はさ。
俺にはないよ。帰る家を失ってしまった。
行き場もない。何処にも何にもありゃしない。
またひとつ、大きなため息が俺の口から洩れた。その時――
「きゃっ!」
突然の悲鳴。
俺はゆっくりと再び顔を横に向けた。
いつの間にか先ほどの男女が、見知らぬ男たちに囲まれていた。
「ちょっと、髪を触らないで!」
女性が再び金切り声を上げた。自らの長い髪の先を両手で掴んで覆うようにして隠し、周りを囲んだ男たちに触られまいとする。
すると、その恋人らしき男性が震える声で言った。
「な、なにする気だ……」
男性の怯えた声が面白かったのか、囲んだ男たちが大声で笑った。
ベンチに座る二人はその声に怯え、互いの肩を抱き合って震えていた。
と、取り囲んだ男たちの中のひとりが、笑いながらベンチの角を強く蹴り上げた。
「きゃっ!」
女性が驚き、またも悲鳴を上げた。
男性は震えて声にならない。
それを面白がってか、別の男が今度は反対側からベンチを蹴り上げた。
「いやっ!やめて!」
またも女性の叫び声が上がり、囲んだ男たちが笑った。
はあ……。
邪魔だ。俺は今、途方に暮れているんだぞ。ちょっと静かにしてくれよ。
だが男たちは面白がって次々とベンチを蹴り上げている。
それに伴い女性の悲鳴が何度も上がる。
そしてそれを男たちが笑うの無限ループ。
くだらねえ。まったく、いつの時代になってもどの世界でも、ああいう分かりやすい悪者ってのはいるもんだな。
はあ……。
この日何度目かのため息が漏れた。
仕方がない。行くとするか。
俺はゆっくりと頭をもたげると同時に、静かに立ち上がった。
そして首をめぐらし、目障りな男たちを睨む。
だが男たちは気づかない。ベンチを蹴り上げることに夢中になっているようだ。
はあ……。
この丘で、俺は一体何度ため息を吐いたことだろう。もう数えてもいない。
ゆっくりと右足のつま先を男たちに向ける。
次いで左足を前に踏み出す。
静かにゆっくりと、騒ぐ男たちに近づいていく。
と、ようやく足音を聞きつけたか気配を感じたのか、手前にいたキツネ顔の小男が俺に気付いた。
ぐるっと大きく首をめぐらしたかと思うと、下から舐めるように俺を見上げる。
「おっさん、俺たちになんか用か?」
小男の言葉に、他の男たちも振り向く。
相手は五人。
一斉に俺を睨みつけてくる。
「おい、なんか用かって聞いてんだろ!」
先ほどの小男が、語尾を強くして叫んだ。
それで凄んでいるつもりなのかねえ。ずいぶんと可愛らしいねえ。
俺は、男たちの手前三メートルほどのところで止まるなり、やる気なさそうにだれた口調で言った。
「うるっせえんだよ」
俺は、いつの間にやら転移場所の小高い丘の上に戻り、見晴らしの良い場所に設置してあるベンチに座っていた。
眼下には、様々な種類の光源から放たれる瞬きが、辺り一面を照らしている。
俺は途方に暮れ、先ほどからただ茫然とその美しい夜景を見下ろしていた。
「はあ……」
唖然と締まりなく開いた口から、深いため息が漏れ出た。
ベンチに腰かけている俺は、腰を曲げて太腿に肘をつき、両掌でうなだれた顔を覆った。
次いで掌を滑らせ、髪の毛をかきむしる。
「ていうか、どういうことだよ!?」
思わず疑問が口をついて出る。
「こちらとあちらでは、時間の流れが違うのか?」
恐らくはそうだ。あの二人の容貌は、あまりにも想像と違い過ぎた。
二人とも、老けすぎていた。時間の流れが違うとしか考えられない。
だがそれだけじゃない。
「俺は交通事故で死んだわけじゃない。俺は見知らぬ森に迷い込み、そこで光に包まれて訳も分からず異世界に攫われたんだ」
だが弟の爽は、俺は交通事故で死んだと言っていた。しかも母の目の前での事故で、即死だったとも。
違う。そんな覚えはまるでない。交通事故なんて、今まで一度だって遭ったことはない。
おかしい。なにもかもが違っている。
俺はもう一度頭を掻きむしった。
だがとてもではないが、気は晴れなかった。
それもそうだろう。二十年間恋い焦がれた懐かしの我が家に帰れないのだ。
どうしたらいい?俺はどこに帰ったらいい?どこか、行き場所はあるのか?
――ない。そんな都合のいい場所は、俺にはない。
俺が異世界に飛ばされたのは十五歳の時だ。まだ子供だった。居場所なんて家しかないに決まっている。
ダメだ。行くところがない。ちっくしょう。どうしたらいいんだ。
俺は懐かしの元いた世界に舞い戻るも行き場を完全に見失い、途方に暮れてしまった。
「ねえ、ちょっとダメだよ……周りのひとに見られちゃったらどうするの?」
突然、艶めかしい声が聞こえた。
俺はうなだれて首をだらんと垂らした顔を横に向け、声のする方を見た。
いつの間にやら二つ先のベンチに、男女がふたりで肩を寄せ合って座っている。
どうやら声を発したのは女性のようだ。
と、その女性の肩を抱いた男性が言った。
「大丈夫だよ。誰も見てないよ」
いや、見てるよ。俺が。
だが俺にはのぞき見趣味があるわけではない。それに今はとてもではないがそんな気分でもない。
俺は顔を下に戻し、足元の土を見つめた。
暗いながらもわずかな光源に照らされ、土の上に蠢くものが見える。
地面の上に落ちた枯葉が動いているようだ。
俺は目を細めて注視した。
ああ、そうか。蟻だ。蟻が枯葉を運んでいるのだ。
たった一匹で、自分の身体の何十倍もの大きさの枯葉を運んでいる。
重さも何十倍だろう。それにも拘わらず、蟻は健気に枯葉をせっせと運んでいた。
巣穴に帰るのだろう。あの大きい枯葉を戦利品として自らが帰属する巣へと帰る途上なのだ。
いいなあ、帰る家があるのか。
いいよなあ、お前はさ。
俺にはないよ。帰る家を失ってしまった。
行き場もない。何処にも何にもありゃしない。
またひとつ、大きなため息が俺の口から洩れた。その時――
「きゃっ!」
突然の悲鳴。
俺はゆっくりと再び顔を横に向けた。
いつの間にか先ほどの男女が、見知らぬ男たちに囲まれていた。
「ちょっと、髪を触らないで!」
女性が再び金切り声を上げた。自らの長い髪の先を両手で掴んで覆うようにして隠し、周りを囲んだ男たちに触られまいとする。
すると、その恋人らしき男性が震える声で言った。
「な、なにする気だ……」
男性の怯えた声が面白かったのか、囲んだ男たちが大声で笑った。
ベンチに座る二人はその声に怯え、互いの肩を抱き合って震えていた。
と、取り囲んだ男たちの中のひとりが、笑いながらベンチの角を強く蹴り上げた。
「きゃっ!」
女性が驚き、またも悲鳴を上げた。
男性は震えて声にならない。
それを面白がってか、別の男が今度は反対側からベンチを蹴り上げた。
「いやっ!やめて!」
またも女性の叫び声が上がり、囲んだ男たちが笑った。
はあ……。
邪魔だ。俺は今、途方に暮れているんだぞ。ちょっと静かにしてくれよ。
だが男たちは面白がって次々とベンチを蹴り上げている。
それに伴い女性の悲鳴が何度も上がる。
そしてそれを男たちが笑うの無限ループ。
くだらねえ。まったく、いつの時代になってもどの世界でも、ああいう分かりやすい悪者ってのはいるもんだな。
はあ……。
この日何度目かのため息が漏れた。
仕方がない。行くとするか。
俺はゆっくりと頭をもたげると同時に、静かに立ち上がった。
そして首をめぐらし、目障りな男たちを睨む。
だが男たちは気づかない。ベンチを蹴り上げることに夢中になっているようだ。
はあ……。
この丘で、俺は一体何度ため息を吐いたことだろう。もう数えてもいない。
ゆっくりと右足のつま先を男たちに向ける。
次いで左足を前に踏み出す。
静かにゆっくりと、騒ぐ男たちに近づいていく。
と、ようやく足音を聞きつけたか気配を感じたのか、手前にいたキツネ顔の小男が俺に気付いた。
ぐるっと大きく首をめぐらしたかと思うと、下から舐めるように俺を見上げる。
「おっさん、俺たちになんか用か?」
小男の言葉に、他の男たちも振り向く。
相手は五人。
一斉に俺を睨みつけてくる。
「おい、なんか用かって聞いてんだろ!」
先ほどの小男が、語尾を強くして叫んだ。
それで凄んでいるつもりなのかねえ。ずいぶんと可愛らしいねえ。
俺は、男たちの手前三メートルほどのところで止まるなり、やる気なさそうにだれた口調で言った。
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