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魔王様と旦那様5
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数日後、高橋はまず王宮に戻った。
ルクセルから生きていると連絡はあったのだが、すぐには戻れない状態とも聞いていたので心配してくれていたらしい。
「いやぁ~高橋君。お帰り」
「ただいま戻りました」
「うん、君は帰ってくると思ったよ」
「ありがとうございます。ですが宰相の職を辞職させて頂きたいのです」
「…何かあったの?」
「実は…」
新《あらた》はジグロード魔王軍の罠にはまり、魔界の入り口まで飛ばされ、一緒に飛ばされた兵士たちは全員死亡し、自分もほぼ死んだ事。妻の父が現れて魔人になる事で生き永らえた事。全てを話した。
「私はもう人間ではありません。デンエン王国へ迷惑をかける可能性はさらに高まりました。ですので魔王国に永住しようと思います。ただ、子供が生まれるのでその子の為にも王国の辺境に屋敷を買わせて頂きたいです。そこで人間の事を学ばせつつ、魔王国で育てたいと思っています」
「………そうか、今回はとても大変な思いをしたんだね。君の事は頼りにしていた。でも幸せになって欲しかった。だから魔王様との結婚も歓迎したし、嬉しかったんだよ。そのまま魔王国に行くかもしれないと思っていたけど、残ってくれてほっとしたしね……子供が生まれたら教えてよ。辺境の屋敷は出産祝いとして私から贈らせて欲しい」
国王は、いつもの笑顔でそう言ってくれた。
「君の願いってのはさ、国民達も思っている願いと同じなんだよ。だからこそ、君に宰相と言う仕事をして貰いたかったんだ。君なら国民の為に頑張ってくれると思ったから。今度は自分と家族の為に頑張っておいで。いつでもこっちに帰って来て良いし、待ってるから」
「……ありがとうございます」
魔人になった高橋に怯える事も、驚く事もなく接し、子供にも会いたいと言ってくれる。
この国王陛下に使える事が出来て私はやはり幸せ者だったんだ。
高橋は仕事の引継ぎをある程度済ませ、城下の屋敷に戻った。
手放す事を考えていたが、最近結婚した補佐官が屋敷とそこで働く者達を買い取らせて欲しいと言ったので、彼らが望むのならぜひお願いします、と頼んだ事を説明する為に。
彼らも高橋夫妻と離れるのは残念だが、このまま雇ってもらえるのなら助かるので話はすぐ終わった。
後は自分たちの私物を空間移動で魔王城に運び込んで終わり。
それでは…と去ろうとしたところ、国王から退職のお祝いをしようと屋敷の者達全員も呼ばれた。
城に戻るとルクセルが先に来ていた。
「国王から連絡があって呼ばれたのだ」
いつものきっちりとした騎士の様な礼装ではなく、気軽に着れる緩い感じのドレスだった。
「最近部下達の妻からお下がりのドレスが沢山届いてな。安産だった者からお下がりを貰って着ると安産になるというらしい。大切に着てまた他の者にお下がりせなばな」
「そうですね。後ほどお礼をしましょう」
「うん!」
「お礼なら親子ペアルックになるドレスなんてどぉ?」
「アスタロト!お主、父上と一緒にジグロードに行ったんじゃないのか?」
「魔竜王様が一国を滅ぼすのにそんなに時間かかんないわよ♪」
「アスタロト公…自国ですが良いのですか?」
「いーのい~の。あたしが生まれたってだけの国よ?屋敷も弟子もとっくにゴルデンに移動しておいたし。あたしはゴルデンで新しくお店開いて衣装作れれば良いの♪貰えるものはしっかり貰っておいたしねぇ」
その手がお金のマークを作る。
「それは良いが、なんでここにおるんじゃ?」
「デンエン国王に用事があって来たのよ。ジグロードが滅んだから、不安材料無くなったし。ここの王女、今修道院にいるでしょ?あ、知らなかった?それで、あたしその子気に入ったからお嫁さんに貰おうと思って。調教し甲斐あるし、見た目も悪くないしぃ」
「え!?わしの娘!?というかどなた!?」
「元ジグロードの仕立屋が趣味の貴族のアスタロトというんじゃが……お主前の嫁はどうした」
「ルーちゃんまだ信じてたのぉ!も~~ほんと、からかいがいのある子ねぇ」
「あれ嘘じゃったんか!!…あの当時怖くて夢に見た事もあったのに…」
「ちょっと高橋君、あの方どう?」
「えー…多分本質は悪い方ではないと思います。私も妊娠に気づいていないルクセルを戦場から戻して頂きましたし、ジグロードの件について何かとヒントを頂いたりもしましたし。そもそも問題がある方なら魔竜王様がルクセルに近付かせないと思います」
「そうかぁ。じゃぁアスタロトさん?うちの娘が良いと言ったら貰ってくれる?」
「もっちろん!ルーちゃんみたいに大切にするわ♪」
「ひとまずおめでとうございます」
「何でひとまずなのよ…」
「いえ、女性はアスタロト公の本当の姿に怯える可能性が高いので…」
「大丈夫♪以前、ルーちゃんをお茶会に呼びつけた時、妙な事したら邪魔しちゃおうと思って子蜘蛛の姿で忍び込んでたんだけど、あんたと国王の説教で落ち込んだ後、私が庭師に見つかった時助けてくれたのよ。潰さないようにそっと両手で包んで、ここの温室の花畑に離してくれてね。この子ありだわ~って思っちゃったのよ!」
「そうですか。ではルクセルは完全に諦めて頂けたようですね」
小声で、アスタロトだけに聞こえるように言う。
アスタロトは無表情になる。
「あんた、いつ気が付いたのよ…」
「衣装合わせの時ですが」
「あーーーーーもーーー、本当にあんた嫌いだわ!!!ルーちゃんの旦那様じゃなきゃ絶対殺してたわよ。絶対しないけど」
「私は嫌いではないですよ。今後ともお世話になりますし」
「……ルーちゃんと子供の産着はあたしが作るしぃ。あたしもゴルデン国民になっちゃうから当たり前でしょ。あんたの服だってルーちゃんの旦那様にふさわしいのをいくつかデザインしてあるしぃ」
「どうかしたのか?」
「アスタロト公に産着を作ってもらう話しをしていました」
「私の時の産着を使おうと思っていたが、あれもアスタロトの作った物だったな。あれを加工して作れるか?」
「あら、良いわね。きれいで健康に育ちますように、って思いながら織った生地から作ったのよ。デザインを今風にしましょ。乳児期はあっと言う間に終わっちゃうから」
「やっぱり、生地は糸から作っていたんですか」
「魔力の高い魔族の作る生地なんて超最高級で希少品なのよ。ルーちゃんには生まれた時からほとんどの衣装をあたしが作ってたんだから」
「……なるほど」
「誤解しないでよね。最初は魔竜王様のお子様の為に作ってたんだから。今はゴルデンの魔王なら私の衣装を着る資格があるからよ」
「ルクセルも気に入っていますし、そこは口出ししませんよ」
「はいはい、せいぜい大きくなった我が子とルーちゃんの取り合いでもしてなさい」
「とー!」
「瑠璃《るり》、そんなに早く走るとぶつかりますよ」
そう言いつつ、ぶつかる直前で新《あらた》は我が子を浮かす。
魔族の乳児期は短いと聞いていたが、生後1年で人の子の2,3歳程度の言動をする。
当然目を離すと怪我をするような事も多いので、新《あらた》が手を離せない時は侍女達が走ってついて回る。
「とー!くるくる~」
「はい」
浮いた状態で回転させれば、きゃっきゃと楽しそうに笑う。
「もう少し遊んだら、お昼寝の時間ですよ」
「ヤ!!ねんね、ヤ!!」
「でも、お昼寝が終わったらかあ様と会えますよ?」
「…ねんねする」
「瑠璃《るり》はかあ様が好きですね」
「とーもすきー」
「ええ、私も瑠璃《るり》が大好きですよ」
浮かせた我が子を抱きとめて、新《あらた》はとんとん、と優しく背を叩く。
今は王配としてルクセルの補佐のような仕事をしたり、王位争奪戦に代理で出たりして、魔国での知名度は不動のものとなっている。
「新《あらた》、瑠璃《るり》は寝ているか?」
「ええ、お昼寝が終わったらルクセルに会えると言ったらすぐ寝てしまいました」
「そうかぁ。瑠璃《るり》はかわいいのぉ」
ルクセルは眠っている瑠璃《るり》を受け取る。
我が子の寝顔をもう何度も見ているのに、飽きないと言うようににこにこ見つめる。
そんなルクセルを見ながら、新《あらた》も微笑む。
新《あらた》の視線に気が付き、ルクセルも新《あらた》に微笑んだ。
二人でソファーに座り、ルクセルは瑠璃《るり》を抱っこしたまま新《あらた》に持たれる。
この幸せがいつまでも続くよう願いながら。
ルクセルから生きていると連絡はあったのだが、すぐには戻れない状態とも聞いていたので心配してくれていたらしい。
「いやぁ~高橋君。お帰り」
「ただいま戻りました」
「うん、君は帰ってくると思ったよ」
「ありがとうございます。ですが宰相の職を辞職させて頂きたいのです」
「…何かあったの?」
「実は…」
新《あらた》はジグロード魔王軍の罠にはまり、魔界の入り口まで飛ばされ、一緒に飛ばされた兵士たちは全員死亡し、自分もほぼ死んだ事。妻の父が現れて魔人になる事で生き永らえた事。全てを話した。
「私はもう人間ではありません。デンエン王国へ迷惑をかける可能性はさらに高まりました。ですので魔王国に永住しようと思います。ただ、子供が生まれるのでその子の為にも王国の辺境に屋敷を買わせて頂きたいです。そこで人間の事を学ばせつつ、魔王国で育てたいと思っています」
「………そうか、今回はとても大変な思いをしたんだね。君の事は頼りにしていた。でも幸せになって欲しかった。だから魔王様との結婚も歓迎したし、嬉しかったんだよ。そのまま魔王国に行くかもしれないと思っていたけど、残ってくれてほっとしたしね……子供が生まれたら教えてよ。辺境の屋敷は出産祝いとして私から贈らせて欲しい」
国王は、いつもの笑顔でそう言ってくれた。
「君の願いってのはさ、国民達も思っている願いと同じなんだよ。だからこそ、君に宰相と言う仕事をして貰いたかったんだ。君なら国民の為に頑張ってくれると思ったから。今度は自分と家族の為に頑張っておいで。いつでもこっちに帰って来て良いし、待ってるから」
「……ありがとうございます」
魔人になった高橋に怯える事も、驚く事もなく接し、子供にも会いたいと言ってくれる。
この国王陛下に使える事が出来て私はやはり幸せ者だったんだ。
高橋は仕事の引継ぎをある程度済ませ、城下の屋敷に戻った。
手放す事を考えていたが、最近結婚した補佐官が屋敷とそこで働く者達を買い取らせて欲しいと言ったので、彼らが望むのならぜひお願いします、と頼んだ事を説明する為に。
彼らも高橋夫妻と離れるのは残念だが、このまま雇ってもらえるのなら助かるので話はすぐ終わった。
後は自分たちの私物を空間移動で魔王城に運び込んで終わり。
それでは…と去ろうとしたところ、国王から退職のお祝いをしようと屋敷の者達全員も呼ばれた。
城に戻るとルクセルが先に来ていた。
「国王から連絡があって呼ばれたのだ」
いつものきっちりとした騎士の様な礼装ではなく、気軽に着れる緩い感じのドレスだった。
「最近部下達の妻からお下がりのドレスが沢山届いてな。安産だった者からお下がりを貰って着ると安産になるというらしい。大切に着てまた他の者にお下がりせなばな」
「そうですね。後ほどお礼をしましょう」
「うん!」
「お礼なら親子ペアルックになるドレスなんてどぉ?」
「アスタロト!お主、父上と一緒にジグロードに行ったんじゃないのか?」
「魔竜王様が一国を滅ぼすのにそんなに時間かかんないわよ♪」
「アスタロト公…自国ですが良いのですか?」
「いーのい~の。あたしが生まれたってだけの国よ?屋敷も弟子もとっくにゴルデンに移動しておいたし。あたしはゴルデンで新しくお店開いて衣装作れれば良いの♪貰えるものはしっかり貰っておいたしねぇ」
その手がお金のマークを作る。
「それは良いが、なんでここにおるんじゃ?」
「デンエン国王に用事があって来たのよ。ジグロードが滅んだから、不安材料無くなったし。ここの王女、今修道院にいるでしょ?あ、知らなかった?それで、あたしその子気に入ったからお嫁さんに貰おうと思って。調教し甲斐あるし、見た目も悪くないしぃ」
「え!?わしの娘!?というかどなた!?」
「元ジグロードの仕立屋が趣味の貴族のアスタロトというんじゃが……お主前の嫁はどうした」
「ルーちゃんまだ信じてたのぉ!も~~ほんと、からかいがいのある子ねぇ」
「あれ嘘じゃったんか!!…あの当時怖くて夢に見た事もあったのに…」
「ちょっと高橋君、あの方どう?」
「えー…多分本質は悪い方ではないと思います。私も妊娠に気づいていないルクセルを戦場から戻して頂きましたし、ジグロードの件について何かとヒントを頂いたりもしましたし。そもそも問題がある方なら魔竜王様がルクセルに近付かせないと思います」
「そうかぁ。じゃぁアスタロトさん?うちの娘が良いと言ったら貰ってくれる?」
「もっちろん!ルーちゃんみたいに大切にするわ♪」
「ひとまずおめでとうございます」
「何でひとまずなのよ…」
「いえ、女性はアスタロト公の本当の姿に怯える可能性が高いので…」
「大丈夫♪以前、ルーちゃんをお茶会に呼びつけた時、妙な事したら邪魔しちゃおうと思って子蜘蛛の姿で忍び込んでたんだけど、あんたと国王の説教で落ち込んだ後、私が庭師に見つかった時助けてくれたのよ。潰さないようにそっと両手で包んで、ここの温室の花畑に離してくれてね。この子ありだわ~って思っちゃったのよ!」
「そうですか。ではルクセルは完全に諦めて頂けたようですね」
小声で、アスタロトだけに聞こえるように言う。
アスタロトは無表情になる。
「あんた、いつ気が付いたのよ…」
「衣装合わせの時ですが」
「あーーーーーもーーー、本当にあんた嫌いだわ!!!ルーちゃんの旦那様じゃなきゃ絶対殺してたわよ。絶対しないけど」
「私は嫌いではないですよ。今後ともお世話になりますし」
「……ルーちゃんと子供の産着はあたしが作るしぃ。あたしもゴルデン国民になっちゃうから当たり前でしょ。あんたの服だってルーちゃんの旦那様にふさわしいのをいくつかデザインしてあるしぃ」
「どうかしたのか?」
「アスタロト公に産着を作ってもらう話しをしていました」
「私の時の産着を使おうと思っていたが、あれもアスタロトの作った物だったな。あれを加工して作れるか?」
「あら、良いわね。きれいで健康に育ちますように、って思いながら織った生地から作ったのよ。デザインを今風にしましょ。乳児期はあっと言う間に終わっちゃうから」
「やっぱり、生地は糸から作っていたんですか」
「魔力の高い魔族の作る生地なんて超最高級で希少品なのよ。ルーちゃんには生まれた時からほとんどの衣装をあたしが作ってたんだから」
「……なるほど」
「誤解しないでよね。最初は魔竜王様のお子様の為に作ってたんだから。今はゴルデンの魔王なら私の衣装を着る資格があるからよ」
「ルクセルも気に入っていますし、そこは口出ししませんよ」
「はいはい、せいぜい大きくなった我が子とルーちゃんの取り合いでもしてなさい」
「とー!」
「瑠璃《るり》、そんなに早く走るとぶつかりますよ」
そう言いつつ、ぶつかる直前で新《あらた》は我が子を浮かす。
魔族の乳児期は短いと聞いていたが、生後1年で人の子の2,3歳程度の言動をする。
当然目を離すと怪我をするような事も多いので、新《あらた》が手を離せない時は侍女達が走ってついて回る。
「とー!くるくる~」
「はい」
浮いた状態で回転させれば、きゃっきゃと楽しそうに笑う。
「もう少し遊んだら、お昼寝の時間ですよ」
「ヤ!!ねんね、ヤ!!」
「でも、お昼寝が終わったらかあ様と会えますよ?」
「…ねんねする」
「瑠璃《るり》はかあ様が好きですね」
「とーもすきー」
「ええ、私も瑠璃《るり》が大好きですよ」
浮かせた我が子を抱きとめて、新《あらた》はとんとん、と優しく背を叩く。
今は王配としてルクセルの補佐のような仕事をしたり、王位争奪戦に代理で出たりして、魔国での知名度は不動のものとなっている。
「新《あらた》、瑠璃《るり》は寝ているか?」
「ええ、お昼寝が終わったらルクセルに会えると言ったらすぐ寝てしまいました」
「そうかぁ。瑠璃《るり》はかわいいのぉ」
ルクセルは眠っている瑠璃《るり》を受け取る。
我が子の寝顔をもう何度も見ているのに、飽きないと言うようににこにこ見つめる。
そんなルクセルを見ながら、新《あらた》も微笑む。
新《あらた》の視線に気が付き、ルクセルも新《あらた》に微笑んだ。
二人でソファーに座り、ルクセルは瑠璃《るり》を抱っこしたまま新《あらた》に持たれる。
この幸せがいつまでも続くよう願いながら。
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