実験体×魔術師

如月

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7.兄

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「……てことで、こいつの身分証作って!」

シンの両肩を持ち、ずいっと兄貴の前に差し出す。

(俺が)連絡もなしに向かったのは兄貴のデカい家だ。
既に家庭を持っていて、小さい子供の世話で忙しそうだが幸せそうだ。ちくしょう。数年前まで俺の事散々バカにしてたのに。

シンを錬金したことは伏せて、子どもを拾ったのでどうにかできないかと頼み込んだ。

そんな兄貴は自室で何やら書類を書いていた。机に向かって片手に羽根ペンを持ち、片手で額を抑えて、シンを一瞥した後、深いため息をついて俺に目を向けた。

「ダメだ。」

「そう言ってくれると思った♡……って、え!?」

俺からのお願いには何だかんだ甘い所があるのに……。本当にダメそうな時の「ダメ」だ!


「なん、え!?……え?どうして?」


「まず、身分証偽造は犯罪だ。そこは良いとしよう。」

うん、そんなことは承知の上でお願いしに来ている。俺たち兄弟にとって、法なんて兵に捕まる基準でしかない。正当な手段が無いなら、別の手段で目的を果たすまでだった。



「良くないのはお前が今指名手配中であることだ。」

・・・・・・え?



「あいたっ」

コツンと俺のデコに投げられたであろうくしゃくしゃの紙がパタと床に転がった。


「俺が今書いてた奴だ。」


拾って広げてみると、恐らく怨嗟と思われる言葉がつらつらと書かれていた。否、びっしりと書かれていた。
馬鹿野郎から始まり、持ちうる語彙を全て使って俺の悪口が書かれていた。細い、老けてる、寝てろ……真ん中らへんは見る気も起きず、終いには縁を切る、赤の他人よりと書かれている始末だ。

「なに?コレ」

「お前宛の手紙だ。」

て……が、み?
手紙?


「コレが?」
「ああ」


ああ……って、めちゃくちゃ縁切るぽい書類なんですけどーーー!!!!

わなわなと「手紙」を握りしめて震える俺を気にもせず、「じゃあ」と俺たちに掌をかざす。

「わっ、あ、待って、待ってよ!!」
その手の動きは兄貴お得意の転移魔法だった。他にも同じように使う魔法は色々あるけど、タイミング的に絶対そうだ。

「俺、なんで指名手配されてんの!?」

「よく知らないが……その子どもが絡んでいるんだろう?うちに王国から直々にお達しが来たんだ。お前はどこにいるのか、とな。」

えっ!なんでバレてんの!?!?


「……お前な、資格契約の仕組みくらい知っておけ。直接書かれてるものは破った瞬間知らされるようになってんの。ただの紙っぺらじゃないってこと。
まさか、その子ども……攫ってたりしないよな?」

「……。」

ヤバい、禁術使って生み出しましたなんてさすがに言えねえ。

兄貴、めっちゃ饒舌になってる。これはかなり怒ってる。
俺は数年ぶりに涙目になりながら床に正座した。シンはぎょっとした後、俺の服の袖を控えめに掴んだ。

「はぁ……指名手配の兄弟なんて、兵に突き出しても突き出さなくてもとやかく言われるに決まってる。知り合いにも広まり始めてるし……縁を切るのが丸い。」

「ま!?丸いってなんだ、丸いって!!」

なんだよ!いつも、悪いことしたら、一緒に何とかしてくれてたのに……。
コンコン、と扉が叩かれて、向こう側から「ぱぱー」と呼ぶ元気な声と、「後でね」と優しそうな声が聞こえた。

兄貴はまたため息をついて、こう言った。

「……あのな、俺はもう、お前だけの兄ちゃんじゃないんだ。……わかるな?」





「ニガル……お兄ちゃん。」

はっと目の前を見た。

気づいたら俺の家だった。あの言葉の後すぐに飛ばされたのか、それとも俺が放心してしまっていたのかわからない。

シンを見ると、その先の床に先程投げつけられた“手紙”が落ちていた。


「シン……俺………………、兄貴の弟じゃ、なくなっちゃったのか……?」


自分で言葉にして、それが深く心に刺さった。
シンは状況をよくわかっていなそうだが、俺を気にしてくれているようだ。

「……。」
膝を床に付けて、シンの肩に腕を回した。



──兄貴はずっと俺の目標だった。
俺の前にはずっとずっと兄貴の背中があって。

兄貴は天才で、努力もできた。幼い頃から魔法が使えて、魔力の量も多い方だった。スキルだって何個も持ってて……。俺は兄貴が魔法を使えるようになった歳になっても一向に使えず、使えるようになったのは数年後とかだった。

親は俺も兄貴も凄いと褒めてくれたけど、実力の差は歴然だ。兄貴には才能があった。友達に好かれて、人気者で、性格も良くて、でも俺を気にかけてくれて、いっしょにちょっとイタズラとかして……。

今気がついた。俺は甘えてしまっていた。ずっと、やばい事になっても、兄貴がどうにかしてくれるって思いながら生きてきた。2年前に兄貴が結婚して、なら俺もと一緒に家を出て。

この禁術も…………。



認めて貰おうとした。
兄貴よりも優秀な弟だったって、数々の液体から完璧な人間になったシンを見せて、俺は才能があるって、れっきとした魔術師で、お前ももう一人前だなって……。

無意識に、強めに抱きしめてしまったらしい。力を緩めて、額をシンの肩に擦り付けた。
シンは何も言わずに、同じように背中に腕を回してくれた。

同じ洗剤を使っているはずだが、安心するような、いい匂いがした。
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