幻影な彼女

プロローグ

　私が彼女と出会ったのは楽しくも虚しい夏休みが明けて間もない暑さの残る9月。中学一年、初めての体育祭での事だ。


　皆さんの中には運動が苦手な方もいるかもしれないが、私はそうではない。なかなかに得意な方だ。だからこの行事はチャンスだった…私が女子に好かれ、夢の恋人を得るための！！……だがその思惑は無残にも打ち砕かれる。


　怪我をした。しかも序盤の序盤、ラジオ体操が終わって次の百メートル走でだ。やる気が空回りするというのはこういうことをいうのだろう。カッコつけることだけを考えてロクに準備運動もしなかったのが災いした。足がもつれ六十メートル辺りで盛大にすっ転んだ。それまで後ろにいたヤツらが一瞬で私を追い越していく。あまりの恥ずかしさに私は顔から火……いや、溶岩が吹き出しそうなくらいに顔を真っ赤にして、半べそかきながらゴールした。盛大に転んだせいで腕や膝から私の顔と同じくらい赤い血がドロっと流れている。たいした痛みは感じなかったが、周りの視線が痛くて私はすぐさまそれらから逃げるように保健室へ駆け込んだ。


　保健室を開けるとひんやりとした冷気が私を冷ました。中にいた養護の先生もこんなに早くけが人が来るとは思っていなかったのだろうか、驚いていた。だが、この保健室に一番乗りの生徒は私ではなかった。


　体育祭だというのに保健室で本を読む女子生徒に目を奪われた。養護の先生も特に注意もしておらず、慣れているような感じだったからきっと彼女は保健室にしばしば来てはいつもこうしているのだろうなと思った。 


　彼女の容姿は白い肌に大きな目で綺麗な黒髪が背中まで川のように静かに流れており、前髪は眉あたりで切りそろえられていて、華奢である。雰囲気は言うなれば「氷」だった。彼女の周りはつめたく近寄り難い。そんな感じだった。そして私はそんな可憐で美しい彼女に目を奪われたし心も奪われた。先程、冷めたばかりの私の体は一気に熱を上げた。そうして私は彼女に恋をした。