幻影な彼女

齋藤御春

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高校受験恋戦争

火蓋は切って落とされる

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 秋は過ぎ私達受験生にとって勝負の熱い冬が到来していた。

 私の恋敵である生徒会長から同志などと呼ばれたあの日から三ヶ月。私はそれはもう勉学に勤しんだ。もちろん彼女のことも探しに探した。そして生徒会長からは逃げに逃げた。幾多の困難を乗り越え今日は遂に白城高校を受験する日である!


 「いやぁよく晴れたなぁ!」

 シュンペーが緊張をほぐすように言った。

 「ああ、いい天気だ。まさに戦争日和だ!」

 「やめろぉ縁起でもない!」

 シュンペーは三ヶ月前は白城高校より少し偏差値の高い高校を志望していたが私と玉野といるうちに白城高校を受けたいと言い出した。
将来のことよりも目の前の友情をとるなんてなんて男だ!我が親友よ!

 「みんな受かるといいねー!」

 玉野がにこやかに言う。余程自信があるのか、それとも鬼神は数多の修羅場を乗り越えてきたからなのか……玉野はまるで緊張している風ではなかった。


 もちろん私は落ちるつもりなどサラサラない。が、私は一抹の不安を抱えていた。

それは、白城高校に入ったところで彼女に会えるのか?というものだ。

彼女が白城高校を志望しているというのは、あくまで玉野から聞いた話であって、彼女本人からきいたものではない。

それに三ヶ月前は確かに白城高校を志望していたとしても、今は別の高校を志望している可能性だってある。

だが、彼女の情報がそれしかない以上、私はそれを信じてこの三ヶ月頑張ってきた。

今更それを考えたところでどうにもならない…いやしかし。などとあれこれ自問自答している間に私は戦地白城高校へと足を踏み入れた。




 「いやーにしても凄い人の数ー!」
 玉野がそういうように目の前には人が溢れていた。

 「これぇ皆受験生かぁ!?流石だなぁ!」

 「今年は倍率4倍近くあるらしいよー」

 「ただの公立高校なのに一体どうなっているんだ!?」


 大勢の人を押して押されてを繰り返しているうちにようやく校舎に入ることが出来た。教室は受験番号で別れていて、三人のうち私だけが別の教室で受けることになった。

二人と別々になってしまったのが悔やまれるが、これは己との勝負!絶対に合格してみせるぞ!と意気揚々と席に着いた。

だが私がやる気を出せば神は容赦なく私を打ちのめしにかかるのだ。


 まず、バッグからペンを取り出し…取り出して……!!?……全くもって私は馬鹿だ。

何故こんな日にペンを忘れるのか!私の机に置かれているのは消しゴムだけ。

消しゴムでは書くことは出来ぬ!!困った…本当に困った。

ペンを借りようにも周りは完全に勉強モードで、到底話しかけられる雰囲気では無い。

あの二人に借りようにも今からほかの教室に行っている時間もない!!まさに絶望!!そうやって私が頭を抱え狼狽えていると、ちょんちょんと後ろから背中をつつかれた。

後ろを振り向くと私は唖然とした。

何故なら、およそ二年半私の目に映ることは無く、まるで幻影かのように思われていた彼女がいたからだ。

彼女は存在していた!あの日見た彼女は私の妄想ではなかったのだ!そしてその彼女が私の背中をつついた!私は絶望の淵から一気に救い出された。

しかし何も解決はしていない。

彼女は確かに存在する。そして確かに白城高校を受験する。だが、彼女が白城高校に受かったとしても、現時点で零点確実の私は彼女と同じ高校へ行くことは出来ない!そうしてまた私は絶望の淵へと追いやられた。

だが、続く彼女の一言で私は救われる。


 「ペン忘れたの?貸してあげるよ」


 彼女が喋った。なんとっ!彼女は私に話しかけているのか!?そしてペンを忘れた私に救いの手を伸ばしてくれているのか!?これは夢か!?ほっぺたをつねってみたが痛かった。

つまりこれは夢ではない!彼女がペンを貸してくれる!ならば返答は一つしかない!


 「本当か!ありがとう!この恩いつか必ず返す…いや、返させていただきます!のでペンを有難く拝借させていただきます!」


 「ふふっ。恩返しなんていいよ。受験頑張ろうね。」


 テンパってわけのわからないことを言ってしまったが、彼女のほほ笑みを見たことで私は更に彼女に惚れた。

例の生徒会長もおそらくこの笑みにやられたのだろう。

確かにこの笑みには魔力が秘められている。そう感じざるを得ないくらい素敵だった。

そして、私は彼女からペンを借りて試験に臨んだ。



 彼女からエールを受けた以上頑張らない訳にはいかない。

問題を見るがいかんせん頭に入ってこない。

私の頭の中には初対面時に感じた氷のような雰囲気からは考えられない彼女のあたたかい笑みと優しい声が渦潮のようにぐるぐると巡っていた。

更に言えばあの憧れの彼女が自分の後ろにいる!

あぁ神よ何故こうも私を虐めるのか………

いや、これは試練だ!この試練必ずや乗り越えてみせる!そして彼女と白城高校にて薔薇色の高校生活を送るのだ!ええいっ!と私は自分を律した。



 こうして絶望と希望に揺られた私の欲望に塗れた高校受験は幕を閉じた。
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