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その依頼、住み込み希望
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王都の片隅、表通りから一本入った静かな小道に、その店はあった。
石畳の路地には野良猫が昼寝をし、干された洗濯物が風に揺れている。そんな穏やかな日常に、ほんの少しだけ不思議を混ぜたような場所だった。
店の扉には、木製の看板が掲げられている。筆跡がどこか柔らかい手書き文字で、こう書かれていた。
《魔法に関するお悩み、お引き受けします》
店の主は、アリスという名の魔法使い。
黒い三角帽子もローブも身に着けていないが、銀色の髪と落ち着いた眼差し、そして漂う空気で、人はすぐに彼女が「普通ではない」と気づく。
彼女はこの場所で、今日も変わらぬ日常を過ごしていた。
朝に水を替え、薬草を干し、少し遅めの朝食をとりながら、帳簿に目を通す。午後には予約の相談客が二、三組。合間には紅茶を淹れて、一息つく。
「静かすぎるのも、退屈ね……」
独りごちたそのとき、店の扉に取りつけられた小さな鈴が、チリンと音を立てた。
現れたのは、見知らぬ男。年の頃は四十代半ば、金糸の刺繍が施された赤い上着に、輝く宝石の指輪をいくつもつけている。貴族、それもかなりの上位に違いない。
「ここは、何でも引き受けてくれるのかね?」
扉を閉めるなり放たれた問いに、アリスは微笑みを返す。
「基本的には。命に関わることと、法に触れること以外なら、だいたいはお引き受けしています」
「そうか。ならば――私の娘に魔法を教えてくれないか?」
アリスは一瞬だけ目を細めた。魔法の指導はたまにある依頼だ。しかし、この男の視線と物言いが、なにやら引っかかる。
「構いませんよ。週に何度ほど通わせる予定で?」
「通わせるんじゃない。住み込みで頼みたい。娘を、そちらに預けたいのだ」
「……住み込み?」
思わず聞き返す。カップを置く手が止まった。
「君の店で暮らしながら、魔法を学ばせたい。衣食住の費用はこちらで持つ。君には、娘に魔法を教えてもらえればいい」
「事情は……聞いても?」
「そのうちに話そう。ただ、私には君しか頼れる相手がいないのだ」
その声音には、虚勢ではない切実さがにじんでいた。
アリスは少しだけ考えるふりをしてから、うなずいた。
「わかりました。お引き受けします。ただし、うちのやり方に口出しは無用ですよ?」
「もちろん」
男は満足そうに名刺を差し出した。
「では、明日。娘を連れてまいります。――侯爵家より、よろしく頼みますよ、魔法使い殿」
アリスは名刺に記された名を見て、静かに息を吐いた。
「……また面倒くさそうなのが来たなあ」
石畳の路地には野良猫が昼寝をし、干された洗濯物が風に揺れている。そんな穏やかな日常に、ほんの少しだけ不思議を混ぜたような場所だった。
店の扉には、木製の看板が掲げられている。筆跡がどこか柔らかい手書き文字で、こう書かれていた。
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朝に水を替え、薬草を干し、少し遅めの朝食をとりながら、帳簿に目を通す。午後には予約の相談客が二、三組。合間には紅茶を淹れて、一息つく。
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独りごちたそのとき、店の扉に取りつけられた小さな鈴が、チリンと音を立てた。
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「そうか。ならば――私の娘に魔法を教えてくれないか?」
アリスは一瞬だけ目を細めた。魔法の指導はたまにある依頼だ。しかし、この男の視線と物言いが、なにやら引っかかる。
「構いませんよ。週に何度ほど通わせる予定で?」
「通わせるんじゃない。住み込みで頼みたい。娘を、そちらに預けたいのだ」
「……住み込み?」
思わず聞き返す。カップを置く手が止まった。
「君の店で暮らしながら、魔法を学ばせたい。衣食住の費用はこちらで持つ。君には、娘に魔法を教えてもらえればいい」
「事情は……聞いても?」
「そのうちに話そう。ただ、私には君しか頼れる相手がいないのだ」
その声音には、虚勢ではない切実さがにじんでいた。
アリスは少しだけ考えるふりをしてから、うなずいた。
「わかりました。お引き受けします。ただし、うちのやり方に口出しは無用ですよ?」
「もちろん」
男は満足そうに名刺を差し出した。
「では、明日。娘を連れてまいります。――侯爵家より、よろしく頼みますよ、魔法使い殿」
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「……また面倒くさそうなのが来たなあ」
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