魔法使いの日常

天使の羽衣

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弟子、来たる

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 翌朝。王都の空は早くも夏の気配をまとい、道端の草花が陽に揺れていた。

 アリスは店のカウンターに腰かけ、カップに残った紅茶を見つめながら、ため息をつく。

「ほんとに来るのかしらね。貴族って、案外気まぐれだし」

 昨日の申し出――住み込みの弟子。その響きに胸がざわつくのは、自分でも理由がわからなかった。ただの仕事のはずなのに、どこか落ち着かない。

 そうしていると、鈴の音が鳴った。

 扉の向こうには、昨日の男――侯爵と思しき人物が立っていた。そしてその隣には、一人の少女がいた。

 髪は柔らかそうな栗色で、肩のあたりまで緩やかに波打っている。目元は父親と似ていて、知的な印象を受けたが、表情はひどく険しい。

「娘のリリィだ。年は十四。……よろしく頼む」

 アリスは目を細めて微笑んだ。

「ようこそ、リリィさん。私はアリス。今日から一緒に暮らすんですね」

 リリィは何も言わない。ただ黙ってうなずいた。無愛想というより、警戒している。環境が変わる不安、それとも――アリスに対しての拒否感?

「それじゃ、リリィさん、お部屋をご案内しますね。荷物は?」

「……馬車の中に」

 初めて発した声は、小さくて震えていた。強がっているが、不安が滲む。アリスはうなずき、侯爵に視線を向ける。

「お預かりします。しばらくの間、お任せを」

「感謝する。何かあれば、いつでも連絡を」

 侯爵はリリィに一言もかけず、足早に店を後にした。

 その後ろ姿を見送りながら、アリスはつぶやく。

「……さて。何があったのか、ゆっくり聞かせてもらおうかしら」

 その言葉に、リリィの肩がぴくりと動いた。

 だがアリスは、それ以上何も言わなかった。彼女が望むなら、いずれ話してくれるだろう。それよりも、まずは――

「紅茶、飲む? それともココアがいい?」

 リリィは少しだけ迷って、口を開いた。

「……ココア」

「じゃあ、甘めに作るね。砂糖は三杯、ミルクも多め」

 そのとき、リリィの目がわずかに見開かれた。言ってもいないことを、なぜか知っていたからだ。

「……なんで、わかるの?」

 アリスは笑った。にっこりと、まるで子どもをあやすように。

「だって、魔法使いですから」

 緊張気味で表情の硬かったリリィの顔が柔らかくなった。
 アリスは優しいほほ笑みでココアを出した。

 出されたココアをじっと見るリリィにアリスは言った。

「どうしたの?飲まないの?」

「……私猫舌なの」

 リリィは恥ずかしそうに言った。顔を隠すように。
 
 アリスはそれを聞いてニコッと笑った――

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