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アリス昔話
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その日、王都は久しぶりの雨だった。
午前の授業は中止。窓の外では、灰色の空から静かに雨が降り続けている。アリスとリリィは、店の奥の居間で紅茶を飲んでいた。
「こんな日も、悪くないわよね。静かで、心が落ち着く」
アリスがつぶやくと、リリィは頷いた。
「……はい。雨の音って、なんだか優しい」
二人の間には、少しだけ穏やかな空気が流れていた。
リリィが店に来て数日。最初の緊張は薄れ、今では朝の準備や店の掃除も手伝ってくれるようになった。ココアの甘さも、ちょっとだけ減らせるようになった。
「ねえ、アリスさん」
「ん?」
「アリスさんって、いつから魔法使いなんですか?」
ふいに聞かれて、アリスは少しだけ眉を上げた。だが、拒むこともなくカップを置き、昔を思い返すように言葉を紡ぐ。
「そうね……本格的に魔法を学んだのは、十歳のときだったわ。親に連れられて、田舎から王都まで来て。初めて見た魔法学校は、それはもう大きくて……最初は、すごく怖かった」
「怖かった、んですか? アリスさんが?」
「ふふ。今では想像できないでしょうけどね。でも、そう。私、誰とも話せなかった。いつも一人で、図書室にこもって魔導書ばかり読んでた」
「……なんか、少し似てますね」
リリィの言葉に、アリスは驚いたように目を見開き、それから小さく笑った。
「そうね、似てるかもしれない。私も、自分が何をしたいのかわからなくて、ずっと“言われた通りに”魔法を学んでた。でもね……あるとき、気づいたの。私は“人の役に立つ魔法”が使いたいんだって」
「人の役に立つ……」
「そう。それで学校を出てから、あちこち旅をして、最終的にこの店を開いたの」
アリスはそう言いながら、窓の外に目をやる。
雨粒が窓を打ち、外の街並みをぼやけさせている。
「私は、魔法って“誰かの助けになる”ためにあると思ってる。火を灯すのも、傷を癒すのも、心を支えるのも全部。魔法でしかできないことじゃなくて、“魔法だからできる優しさ”が好きなの」
その言葉を聞いたリリィは、静かに息をのんだ。
どこかで聞いたことのあるような、でも、誰からも教えてもらえなかった“魔法の意味”。
「……お父様は、私に“強くなれ”って言うんです。自分を守るための魔法を覚えろって。私は、怖くてたまらなかった。でも、アリスさんの話を聞いて……ちょっとだけ、救われた気がします」
リリィの声は、かすかに震えていた。けれど、その目には確かな強さが宿っていた。
「ありがとう、リリィさん。話してよかったわ」
「私の方こそ……ありがとうございます」
二人の間に、ぽつりと静寂が降りた。
それは気まずいものではなく、心を通わせた者同士にしか訪れない、やさしい沈黙だった。
「ねえ、次の授業では、“癒しの魔法”をやってみましょうか」
「癒し、ですか?」
「うん。リリィさんの“想い”がこもった魔法、きっと誰かを温かくすると思うの」
「……やってみたいです」
リリィが頷いたそのとき、遠くで雷が鳴った。
けれど店の中は、雨の音に包まれて、心地よい安心感に満ちていた。
午前の授業は中止。窓の外では、灰色の空から静かに雨が降り続けている。アリスとリリィは、店の奥の居間で紅茶を飲んでいた。
「こんな日も、悪くないわよね。静かで、心が落ち着く」
アリスがつぶやくと、リリィは頷いた。
「……はい。雨の音って、なんだか優しい」
二人の間には、少しだけ穏やかな空気が流れていた。
リリィが店に来て数日。最初の緊張は薄れ、今では朝の準備や店の掃除も手伝ってくれるようになった。ココアの甘さも、ちょっとだけ減らせるようになった。
「ねえ、アリスさん」
「ん?」
「アリスさんって、いつから魔法使いなんですか?」
ふいに聞かれて、アリスは少しだけ眉を上げた。だが、拒むこともなくカップを置き、昔を思い返すように言葉を紡ぐ。
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「怖かった、んですか? アリスさんが?」
「ふふ。今では想像できないでしょうけどね。でも、そう。私、誰とも話せなかった。いつも一人で、図書室にこもって魔導書ばかり読んでた」
「……なんか、少し似てますね」
リリィの言葉に、アリスは驚いたように目を見開き、それから小さく笑った。
「そうね、似てるかもしれない。私も、自分が何をしたいのかわからなくて、ずっと“言われた通りに”魔法を学んでた。でもね……あるとき、気づいたの。私は“人の役に立つ魔法”が使いたいんだって」
「人の役に立つ……」
「そう。それで学校を出てから、あちこち旅をして、最終的にこの店を開いたの」
アリスはそう言いながら、窓の外に目をやる。
雨粒が窓を打ち、外の街並みをぼやけさせている。
「私は、魔法って“誰かの助けになる”ためにあると思ってる。火を灯すのも、傷を癒すのも、心を支えるのも全部。魔法でしかできないことじゃなくて、“魔法だからできる優しさ”が好きなの」
その言葉を聞いたリリィは、静かに息をのんだ。
どこかで聞いたことのあるような、でも、誰からも教えてもらえなかった“魔法の意味”。
「……お父様は、私に“強くなれ”って言うんです。自分を守るための魔法を覚えろって。私は、怖くてたまらなかった。でも、アリスさんの話を聞いて……ちょっとだけ、救われた気がします」
リリィの声は、かすかに震えていた。けれど、その目には確かな強さが宿っていた。
「ありがとう、リリィさん。話してよかったわ」
「私の方こそ……ありがとうございます」
二人の間に、ぽつりと静寂が降りた。
それは気まずいものではなく、心を通わせた者同士にしか訪れない、やさしい沈黙だった。
「ねえ、次の授業では、“癒しの魔法”をやってみましょうか」
「癒し、ですか?」
「うん。リリィさんの“想い”がこもった魔法、きっと誰かを温かくすると思うの」
「……やってみたいです」
リリィが頷いたそのとき、遠くで雷が鳴った。
けれど店の中は、雨の音に包まれて、心地よい安心感に満ちていた。
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