異世界で異分子の俺は陰に干渉する

Pisutatio

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14.休日前

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「おっ、レイのそれ美味そーじゃん。もーらいっ!」
「あ!おい、人のもん勝手に食うなよ。」
「人のもんは美味そうに見えるじゃん。」
「はぁ?だからって、取っていいにはならねぇだろ。」
俺が楽しみに取っておいた、デザートのフルーツタルト!騎士団の寮の食堂では、バランスを考えた食事が提供されるため、休日前の夜と休日の昼にしか嗜好品が食べれない。俺はこの日を楽しみにしていたのだ。
「ちょっと、2人共行儀が悪いわよ。」
「なんで、俺まで。悪いのはフィジーだけだろ。」
「2人共。五月蝿うるさい。」
「お前のせいで俺まで怒られたじゃねぇか。」
「取られたくなきゃ早めに食べるんだな。」
「だって、今日のメシ楽しみにしてたから。」
「こんなん、街に出れば食べれるものばっかじゃん。」
「俺、街行ったことない…。」
「あ。」「あ。」
どうせ、俺は街にも行ったことない田舎ものですよ!そんな可哀想な目で見ないで!
「じゃあ、明日の休暇街にいきましょうか!」
レオが俺に提案してきた。
「え!街に?俺が行ってもいいのか?」
「なんでレイを誘ってるのにレイが行っちゃだめなのよ。それに、最近は、魔力のコントロールも少しマシになったし大丈夫じゃない?」
「ほんとか!嬉しい、楽しみだ。あ、でも外出用の服持ってないや。」
今は寮と訓練場を行き来するだけの生活で(偶にグラディウス様の部屋にもいくが)、外に遊びに行くこともなかったため、必要最低限しか持っていない。街に行っていなかったのも服がないことが原因の1つだったりする。
「あら、それなら、私の貸してあげるわよ。」
「ヒラヒラとかついてたりしない?」
「失礼ね!付いてないのもあるわよ!」
(持ってはいるんだ…。)
俺とフィジーはたぶん同じことを考えたのか顔が一瞬ひきつる。
「あ、ありがとう。助かる。」

2人とは、食堂で別れ俺は公爵家の屋敷に向かった。
街にいく報告したほうがいいよな?今は一応グラディウス様が保護者みたいなものだし。
公爵家の使用人達には顔バレしているので、屋敷にも部屋にも自由に出入りできる。
俺って結構すごい事許可されてるのではないかと思う。公爵家を顔パスするなんてどこの大貴族だよ!って。
俺は迷わずグラディウス様の部屋の前につく。これだけで、どれほどここに通っているか分かってしまうな。俺、来すぎ…?

コンコンコン。

「どうぞ。」
ガチャ。
「あぁ、レイか、どうかしたか。」
レイか、ってわかってたくせに。
グラディウス様はさっきまで風呂に入っていたのか、濡れた髪をタオルで拭いていた。机には書類の山。こんな時間まで仕事してたのか?
「あ、いや、明日の休暇にフィジーとレオの3人で街に行こうってことになったから報告を。」
俺の話を聞いているのか聞いていないのか、グラディウス様はベッドの端に座り、お前もこいと隣をポスポスと叩く。
「いや、俺は報告だけ…、」
「いいから。」
仕事で疲れているだろうと思い帰ろうとしたが、グラディウス様は、はやくしろと言わんばかりの圧を向ける。
「わ、わかったから。」
その圧に負け俺はグラディウス様の隣に座る。

「で、どうして急に街に?」
俺はギクッとする。食堂での話なんてしたらただの食い意地はったやつって思われる。
「あ、いや、フィジーから街の美味しいものの話聞いてさ、行ってみたくなっちゃって。」
「そうか、本当なら付いて行ってやりたいが明日は別の仕事があって行けそうにない。フィジーとレオが付いてるなら大丈夫だろ。」
この人休日も仕事してんのか。あっちの世界なら労基に違反しまくりだろ。どこでもブラックってあるもんだな。
「言ってくれれば俺が連れて行ってやれたのに。」
「え…?いやいや、グラディウス様は仕事で俺なんかに割く時間ないだろ。」
それじゃあ、推しとデートじゃん。だめだ、俺の心と身がもたない。いや、行けるなら行きたいけど!?街中で鼻血の出しすぎで倒れるよ!?
いやいや、と否定しながら見ると心なしかしゅんとして見える。ゴールデンレトリーバーみたいな大型犬に見えてきた。か、可愛いい…。俺の推しがかわいい!膝に肘をつきうつむいているせいか俺の目線より下に旋毛つむじが見える。
なんか、新鮮だな。
「なんだよ一緒に行けなくて拗ねてんのか?今度、時間できたら一緒に行こうな。」
ハッ!俺、何ナチュラルに頭撫でてんだ!相手は子供じゃなくてあのグラディウス様だぞ、俺!でも、今手を引いたら不自然だよな。今だけの幸せを噛み締めるように頭を撫で続けた。
暫くすると、俺の手の下から、フッ、と笑う声がした。
え?
俺は手を止め、グラディウス様の顔を覗き込むようにして見ると、声を抑えて笑っている。そして、突然俺の手首を掴み、手のひらに顔を擦り寄せる。
俺を見るその目は、全然子供なんかじゃなく蠱惑的こわくてきだ。見惚れてしまうほどに。
「言ったな、今度俺と2人で、な?」
は、嵌められた。この人、さっきの落ち込みは何処へやった。演技か!?演技だったのか!?
そんなに、俺と行きたかったのか?いや、ただ、俺を揶揄からかいたかっただけだろ。
グラディウス様は俺の手首を離さず、そのまま手のひらに口付けをする。
「えっ、ちょ…なにして…。」
俺の声に耳を貸すどころか、手のひら、手首、腕、上へ上へと口付けをしていく。
「く、くすぐったいから…。」
「前から思っていたが、何故俺だけ様なんだ?他の団員は呼び捨てで呼んでいるのに。」
「いや、それはだって、団長だし、公爵だし?」
「ラディ。」
「え?なに…?」
「ラディと呼べ。」
「それは流石に…難し、ひぃっ!」
グラディウス様は更に上へ口付けをしていく。肘、上腕…。これ以上はシャツの袖がまくれずいけないだろうと、ホッとしたのも束の間、俺をベッドへ押し倒し、首に口付けをしてきた。袖捲れないからって肩飛ばして首にいきやがった!今度は、下へ。首の付け根、鎖骨。その下へ行こうとボタンに手をかけた。
「わ、分かった、分かったから!呼ぶよ!」
ボタンに触れた手がピタリと止まる。
「じゃあ、ほら?」
ラディ呼びを待っているのかボタンを指でピンと何度も弾いている。
「ら、ラディ?」
「よし。」
俺のラディ呼びがお気に召したのか俺の上から退いていく。
俺はホッと安心したが、それと一緒に胸がモヤッとした。なんだ、このモヤッは。
俺もベッドから起き上がり捲れ上がった袖を直す。
「今、街中は少しばかり治安が悪い。危険なとこには行くなよ。そんで、フィジーとレオから離れるな。」
「分かってるよ、俺そんな子供じゃないし。」
ラディは、まだ仕事をするようで机に向かい、書類を手に取り目を通していく。
「ら、ラディも早く寝ろよ、仕事しすぎだ。」
慣れない呼び方でぎこちなくなる。
「フフッ、ああ、明日楽しんでこいよ。おやすみ。」
「笑うなよ…。おやすみ。」
俺は、ラディの部屋をあとにした。
俺の視界からラディがいなくなった途端、俺の顔は熱く赤くなっていく。あれは完全に俺で遊んでる。

ラディ…か。
俺は、その言葉を聞いたときある事が思い浮かんだ。前に、脱走して辿り着いた洞窟。その壁に書かれていた、ラディとレイという名前。あれはグラディウス様と、ゲーム内のセリフでしか出てこなかった幼馴染の名前だ。確証はないが、なんとなくそう思った。だが、ゲームだとその幼馴染はラディを狙う賊によって殺されている。その幼馴染と同じ名前と似ている髪色。ラディは、幼馴染と俺を重ねているのだろうか。

……。考えるのやめよう。
俺は気持ちが晴れないまま寮の部屋に戻った。
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