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25.こんなはずでは③(ギルバート視点)

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 卒業パーティーから三ヶ月、この間漸くエレナの元を訪れることができた。

 仕事の量は減ることはないが、謹慎が緩んだので外出が可能になったのだ。
 と言っても、三時間だけだったが。

 突然訪れた俺にエレナは慌てていたが、そんなに畏まる必要はない。
 俺が好きになったエレナは俺を王子だからと変に意識しない気安いかわいい女の子だ。

 どこかの侯爵令嬢みたいにお高く止まって、人を馬鹿にしたように見下したりしない。

「ギルはこんなことも知っててすごい」「いつもがんばっててえらいね」とエレナは無邪気に笑って俺を認めてくれる。
 
 いつもベルナルド兄上やジュリアと比べられる。

 ベルナルド様なら同じ年の時もっとできただのジュリア様はもっとがんばってるだのと言われていた。

 ただ素直に認めてもらえるのがこんなに嬉しいだなんて思っていなかった。

 ある日そんなエレナが暗い顔をしていた。

「どうしたんだ?」
 最初はなんでもないと儚い笑みを浮かべて首を振っていたが、しつこく訊いて、重い口を漸く開いた。

 私物を隠されたり壊されたり突き飛ばされたりと、様々ないじめにあっていると言うのだ。

「誰がそんなことを!?」

「私がいけないの。身分も考えないで、ギルと仲良くしてるのがよくないの。私が悪いのよ」
 目を潤ませて健気に振る舞うエレナを思わず抱きしめた。

 俺とエレナが仲良くしていて嫉妬するやつは一人しかいない。

 俺の婚約者のジュリアだ。
 いつも無表情で口うるさくて、愛想のないつまらない女だ。
 そんな女が俺の大切なエレナをいじめているというのか!

 エレナが階段から突き落とされたと知って、ジュリアとは婚約破棄をする決断をした。

 そしてエレナを婚約者にするのだと。



「急に来てすまない。時間がなくて」

「ううん、びっくりしただけ。ギルに会えて嬉しいわ」
 照れくさそうに微笑むエレナが愛くて、思わず唇を重ねた。
 なかなか会えない二人の距離を少しでも縮めるように。

 口付けに夢中になっていた俺は気づいていなかった。
 エレナがやけに外を気にしていたことに…



 

「やっと来たのか!おい!あいつは見つかったのか?」
 久しぶりに顔を見せたサルトルに開口一番そう言った。

 呼び出しの手紙を送っても「忙しい」「今は無理」
といって断ってきていたのだ。
 気がつくと二ヶ月近く経ってしまっている。


「やっとのことでやって来たのに挨拶のひとつもなしかよ」
 サルトルは不満そうに顔を顰めている。
 
「言っとくけど、卒業パーティーでのやらかしの罰を受けてるのはギルだけじゃない。俺もいつも以上の鍛錬を課されてるし、辺境にも行かされていたんだぞ」
 改めてよく見ると、日に焼けて少し逞しくなっている。
 心なしか表情も引き締まっている。

「わっ悪かったよ。忙しいところよく来てくれたな」
 サルトルの機嫌をとるように慌てて言って、ソファに座るように勧めた。

 婚約破棄してから、周りの人間が皆距離を取って冷ややかな態度を取るようになった。
 
 宰相の息子のモーリスには一切連絡が取れないから、こんなことを頼めるのはサルトルくらいしかいない。

 大体サルトルがそんなことになっていたとは全く知らなかった。
 前に会った時はそんな様子でもなかったのに。

「ギルは他人のことに無頓着だよな」
 疲れているのか、元気だけが取り柄で愛想のいいタイプだった学生の時とは違って刺々しい。

「モーリスがどうしてるか知っているか?」

「いや、あいつと連絡取れないから」

「そうだろうな。モーリスは領地で謹慎だ。証拠もないのにモントレート侯爵令嬢を責め立てたのが親父さんにバレて相当搾られたらしい。下手したらこのまま王都には戻れないかもしれないな」

「そうなのか」
 そこまでのことだっただろうか?
 ちゃんとした証拠がなかったのは不味かったかもしれないが。


「それだけか」
 サルトルががっくりと肩を落とした。

 それだけとはどういうことだ。
 俺に宰相の家のことに口を出す権限はないから、どうしてやることもできない。
 それに俺だって、こうして仕事を押し付けられている。



「ジュリア嬢はコルストル辺境伯家に身を寄せているようだ」
 しばらく逡巡していたが、催促すると仕方なさそうに口を開いた。

「コルストル辺境伯!?」
 よりにもよってあの大男のところとは!

 コルストル辺境伯家は当主も嫡男も大男で威圧感が半端ない。

 なんで縁もゆかりもないコルストル辺境伯家に…

 まっ、まあ、いい。
 ジュリアの所在が分かったのだから。

 なんとかしてあいつを連れ戻す。

 エレナとの結婚は譲れないが、側妃にしてやってもいい。



「もうモントレート侯爵令嬢のことは諦めた方がいい」
 どうやってジュリアを連れ戻すか考えていた俺に、続くサルトルの言葉は耳に入ってなかった。
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