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本編
第一話 今現在の先輩と私の攻防
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裏庭だったり中庭だったり空き教室だったり、時には周りに人のたくさんいる廊下だったり校門前だったり。
彼は、場所を選ぶということを知らない。
場所を選んでいる余裕がないのか、それとも私の反応を楽しんでいるのか。
私にはわからないけれど、どちらにしろ心底やめてほしいと思う。
「佐伯先輩、放してください」
私はそう、自分を抱きしめる男に言う。
ここは昼食を食べにきた裏庭で、近くに人影は見えないが、学校内だということを考えればいつ誰が来てもおかしくはないのだ。
腕にはそれほど力が入っているようには見えないのに、胸を押してみても拘束はゆるみもしない。
これが男女の差というものなのだろうか。
「嫌。だって、放したら逃げるでしょ?」
佐伯先輩は何が楽しいのか、くすくすと笑っている。
その様子に腹が立って、私は顔を上げてキッと彼を睨みつけた。
「それは、佐伯先輩がこういうことばかりするからでしょう!」
ドンッと胸をこぶしで叩きながら、正論をぶつけてみせた。
普通に話すだけなら、私だって逃げたりはしない。
佐伯先輩はスキンシップが激しいから困るのだ。
こうして抱きついてきたり、手を握ったり、髪に触れたり。
はいあーんをしようとしたことや、一度だけ頬にキスをされたこともあった。
その時のことを思い出すと、今でも悲鳴を上げたくなる。
「俺も必死だからね。篠塚に振り向いてほしくて」
思ったよりも真剣な瞳が、私を映している。
声も、表情も、嘘をついているようには見えない。
佐伯先輩が嘘をついたことなんてないから、たぶん本気なんだろう。
どうしてこんな私を、とは不思議に思うものの、佐伯先輩の気持ちそのものを疑ったことはない。
「……私は、だから」
「恋愛には興味ない、って?」
過去の私が彼に告げた言葉を、佐伯先輩は口にする。
覚えているのなら、どうしてこんなことをするんだろうか。
私にかまってばかりいないで、その時間をもっと有効活用すればいいのに。
気持ちを返してくれない人に片思いし続けるなんて、無駄じゃないか。生産性がなさすぎる。
そう思うのは、私がまだ恋というものを知らないからなのかもしれないけれど。
「わかっているなら、放っておいてください」
「わかっているから、どうにかしたいんだよ、俺も」
優しく、けれど切なそうに、佐伯先輩は微笑んだ。
そんな顔をされると、自分がすごく悪いことをしているような気になってくる。
別に私は佐伯先輩をいじめたいわけじゃない。
学校でこういうことをするのはどうかと思うし、そもそも付き合ってもいない男女がすることですらない。
私の主張は間違っていないはずだ。
「好きだよ、篠塚」
「……っ」
抱きしめられたまま耳元でささやかれ、思わず息を飲む。
ぞわりと肌が粟立ったような感覚がした。
低すぎず高すぎず、耳になじむその声は、少しかすれていてどこか色気がある。
この声は卑怯だ。先輩の最終兵器だと私は勝手に思っている。
私の心を揺さぶって、反論を全部忘れさせてしまう。
「恋愛に興味が出てきたら、いつでも言ってね。俺がなんでも教えてあげるから」
そうやってにっこり笑う佐伯先輩は、下手な女性よりきれいで、あでやかで、でもやっぱり格好良くて。
認めるのは悔しいけれど、とても魅力的な男性だとは思う。
染めているわけじゃない天然の薄茶の髪。二重で目尻が少し垂れた優しげな目。バランスが整っている顔立ち、愛嬌のある笑顔。加えて178センチという高い身長。
佐伯先輩は、俗に言うイケメンというやつだろう。
そんな彼に、私が今みたいに口説かれるようになって、すでに何ヶ月も経っている。
いったい、何がどうしてこうなってしまったんだろうか。
私は回転速度の遅くなった頭で考える。
こんな未来が待っているなんて、あの時には想像もできなかった。
一度切れたはずの縁が、こんな形で結び直されることになるなんて……。
先輩と私の関係の始まりは、三年ほど前までさかのぼることになる。
彼は、場所を選ぶということを知らない。
場所を選んでいる余裕がないのか、それとも私の反応を楽しんでいるのか。
私にはわからないけれど、どちらにしろ心底やめてほしいと思う。
「佐伯先輩、放してください」
私はそう、自分を抱きしめる男に言う。
ここは昼食を食べにきた裏庭で、近くに人影は見えないが、学校内だということを考えればいつ誰が来てもおかしくはないのだ。
腕にはそれほど力が入っているようには見えないのに、胸を押してみても拘束はゆるみもしない。
これが男女の差というものなのだろうか。
「嫌。だって、放したら逃げるでしょ?」
佐伯先輩は何が楽しいのか、くすくすと笑っている。
その様子に腹が立って、私は顔を上げてキッと彼を睨みつけた。
「それは、佐伯先輩がこういうことばかりするからでしょう!」
ドンッと胸をこぶしで叩きながら、正論をぶつけてみせた。
普通に話すだけなら、私だって逃げたりはしない。
佐伯先輩はスキンシップが激しいから困るのだ。
こうして抱きついてきたり、手を握ったり、髪に触れたり。
はいあーんをしようとしたことや、一度だけ頬にキスをされたこともあった。
その時のことを思い出すと、今でも悲鳴を上げたくなる。
「俺も必死だからね。篠塚に振り向いてほしくて」
思ったよりも真剣な瞳が、私を映している。
声も、表情も、嘘をついているようには見えない。
佐伯先輩が嘘をついたことなんてないから、たぶん本気なんだろう。
どうしてこんな私を、とは不思議に思うものの、佐伯先輩の気持ちそのものを疑ったことはない。
「……私は、だから」
「恋愛には興味ない、って?」
過去の私が彼に告げた言葉を、佐伯先輩は口にする。
覚えているのなら、どうしてこんなことをするんだろうか。
私にかまってばかりいないで、その時間をもっと有効活用すればいいのに。
気持ちを返してくれない人に片思いし続けるなんて、無駄じゃないか。生産性がなさすぎる。
そう思うのは、私がまだ恋というものを知らないからなのかもしれないけれど。
「わかっているなら、放っておいてください」
「わかっているから、どうにかしたいんだよ、俺も」
優しく、けれど切なそうに、佐伯先輩は微笑んだ。
そんな顔をされると、自分がすごく悪いことをしているような気になってくる。
別に私は佐伯先輩をいじめたいわけじゃない。
学校でこういうことをするのはどうかと思うし、そもそも付き合ってもいない男女がすることですらない。
私の主張は間違っていないはずだ。
「好きだよ、篠塚」
「……っ」
抱きしめられたまま耳元でささやかれ、思わず息を飲む。
ぞわりと肌が粟立ったような感覚がした。
低すぎず高すぎず、耳になじむその声は、少しかすれていてどこか色気がある。
この声は卑怯だ。先輩の最終兵器だと私は勝手に思っている。
私の心を揺さぶって、反論を全部忘れさせてしまう。
「恋愛に興味が出てきたら、いつでも言ってね。俺がなんでも教えてあげるから」
そうやってにっこり笑う佐伯先輩は、下手な女性よりきれいで、あでやかで、でもやっぱり格好良くて。
認めるのは悔しいけれど、とても魅力的な男性だとは思う。
染めているわけじゃない天然の薄茶の髪。二重で目尻が少し垂れた優しげな目。バランスが整っている顔立ち、愛嬌のある笑顔。加えて178センチという高い身長。
佐伯先輩は、俗に言うイケメンというやつだろう。
そんな彼に、私が今みたいに口説かれるようになって、すでに何ヶ月も経っている。
いったい、何がどうしてこうなってしまったんだろうか。
私は回転速度の遅くなった頭で考える。
こんな未来が待っているなんて、あの時には想像もできなかった。
一度切れたはずの縁が、こんな形で結び直されることになるなんて……。
先輩と私の関係の始まりは、三年ほど前までさかのぼることになる。
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