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『寝たら死ぬぞ!』なんてまさか-2
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――シャララララ……
――リリリリリ……
――カラカラカラ……
恐る恐る目を開けるとアンは再び黄金の木のある白い世界にいた。響く音は一度目とはどこか違って聞こえたがアンは深くは考えなかった。
「わー! またここに来たかったんですよねぇ」
どうしてかはアン自身にもわからない。何があるわけでもない。ただ黄金に輝く木があって七色の光があるだけだ。
空気が澄んでいて、とても心地良いからなのか。深呼吸でもするべきだろうか。
「そうそう来られては困る」
「げっ……」
腕を広げて深く息を吸おうとしたところでアンはこの場にいるのが自分だけでないことに気付いた。
先程助けを求めて思い浮かべたヒューゴであるが、向き合うと決めても気まずいものだ。たとえ、夢の中であるとしても。
「光の一つにでもなる気か? ここは人間が長居できる場所ではない」
「えっ……?」
これは夢だ。そうは思ってもアンは強く否定することもできなかった。
居心地は良いが、頭がぼーっとして溶けていきそうな気分ですらある。
「これは光の精霊の木だ。俺は加護を受けているが、お前は違う」
つまりヒューゴの力の根源とも言えるものか。まじまじと見ようとしても光で目が眩む。
くらりとしたところで体が支えられ、その瞬間に頭の中がはっきりとしていくようだった。
「帰るぞ。精霊達はお前が仲間になることを望んでいないようだ」
しっかりと手を握られて振り解くことはできない。
笑い声のような音が聞こえない。どこか気遣わしげで歓迎されていないように聞こえるのは気のせいではないのだろう。
「お前がいなければ俺は王にはなれない。もう一度……いや、今度は本当に腑抜けになってしまうだろう」
「私が聖女だからですか?」
やはり呪いを解いた聖女として祭り上げられるのか。アンには何の実感もないが、操り人形としては最適なのかもしれない。
そんなことばかりを考えてしまい、アンはヒューゴの言葉を素直に受け止めることができなかった。
だが、彼は続ける。
「一目見た時からお前に心を奪われていた」
「そんな素振りは……」
口では何とでも言えるが、彼はおくびにも出さなかった。早く呪いを解けとせっついてくるばかりだった。それが紛れもない彼の本心であるとアンは思っていた。
「心に隙ができれば呪いに蝕まれる。心にもない言葉が口をついて出て、自分が自分でなくなるようだった。おかげで今もまだ感情の表し方がわからない。以前の自分がどうだったかを忘れてしまった。それでも、お前を見た時に失ったと思っていた感情が揺り動かされた気がした」
困ったような顔をするヒューゴにアンはこれまでの感じなかった苦悩を見た気がした。
精霊の加護がなければ、彼の精神力が弱ければ、呪いはもっと進行していただろうか。あるいは、もう生きていなかっただろうか。彼にとってはとても長い時間だったのかもしれない。
『きっと呪いをかけられて周囲に手のひらを返された時に心も石になってしまったんです』
『私は呪いが解けたら昔の優しい兄上に戻ってくれるんじゃないかって思うんです』
サシャはそう言っていた。今の時点では戻ったとは言い難いだろう。そして、その優しさを自分に向けてくれるとも限らないのだ。それなのに、心のどこかでは期待しているのかもしれない。
彼は呪いを解けないアンを否定はしなかった。周りは冷ややかだったが、彼は不満を口にしても罵倒してくることはなかった。呪いが解けることを信じて決して恐れなかった。
「今この場で誓おう。精霊達の前で。一生お前だけを愛すると」
ヒューゴはとても真剣な目をして、それがどれだけ彼にとって重みのある決断であるかを伝えてくるようだった。
自らに加護を与える精霊は神に等しいのだろうか。
アンにはわからない。だけど、信じたい気持ちになってしまうのは繋がれた手の強さだけが意識を繋ぎ止めているからだろうか。
「俺を信じてくれ。共に帰ろう」
縋るような目に操られるようにアンは頷く。眩いばかりの光に包まれて、祝福するような精霊達の笑い声を聞いた気がした。
――リリリリリ……
――カラカラカラ……
恐る恐る目を開けるとアンは再び黄金の木のある白い世界にいた。響く音は一度目とはどこか違って聞こえたがアンは深くは考えなかった。
「わー! またここに来たかったんですよねぇ」
どうしてかはアン自身にもわからない。何があるわけでもない。ただ黄金に輝く木があって七色の光があるだけだ。
空気が澄んでいて、とても心地良いからなのか。深呼吸でもするべきだろうか。
「そうそう来られては困る」
「げっ……」
腕を広げて深く息を吸おうとしたところでアンはこの場にいるのが自分だけでないことに気付いた。
先程助けを求めて思い浮かべたヒューゴであるが、向き合うと決めても気まずいものだ。たとえ、夢の中であるとしても。
「光の一つにでもなる気か? ここは人間が長居できる場所ではない」
「えっ……?」
これは夢だ。そうは思ってもアンは強く否定することもできなかった。
居心地は良いが、頭がぼーっとして溶けていきそうな気分ですらある。
「これは光の精霊の木だ。俺は加護を受けているが、お前は違う」
つまりヒューゴの力の根源とも言えるものか。まじまじと見ようとしても光で目が眩む。
くらりとしたところで体が支えられ、その瞬間に頭の中がはっきりとしていくようだった。
「帰るぞ。精霊達はお前が仲間になることを望んでいないようだ」
しっかりと手を握られて振り解くことはできない。
笑い声のような音が聞こえない。どこか気遣わしげで歓迎されていないように聞こえるのは気のせいではないのだろう。
「お前がいなければ俺は王にはなれない。もう一度……いや、今度は本当に腑抜けになってしまうだろう」
「私が聖女だからですか?」
やはり呪いを解いた聖女として祭り上げられるのか。アンには何の実感もないが、操り人形としては最適なのかもしれない。
そんなことばかりを考えてしまい、アンはヒューゴの言葉を素直に受け止めることができなかった。
だが、彼は続ける。
「一目見た時からお前に心を奪われていた」
「そんな素振りは……」
口では何とでも言えるが、彼はおくびにも出さなかった。早く呪いを解けとせっついてくるばかりだった。それが紛れもない彼の本心であるとアンは思っていた。
「心に隙ができれば呪いに蝕まれる。心にもない言葉が口をついて出て、自分が自分でなくなるようだった。おかげで今もまだ感情の表し方がわからない。以前の自分がどうだったかを忘れてしまった。それでも、お前を見た時に失ったと思っていた感情が揺り動かされた気がした」
困ったような顔をするヒューゴにアンはこれまでの感じなかった苦悩を見た気がした。
精霊の加護がなければ、彼の精神力が弱ければ、呪いはもっと進行していただろうか。あるいは、もう生きていなかっただろうか。彼にとってはとても長い時間だったのかもしれない。
『きっと呪いをかけられて周囲に手のひらを返された時に心も石になってしまったんです』
『私は呪いが解けたら昔の優しい兄上に戻ってくれるんじゃないかって思うんです』
サシャはそう言っていた。今の時点では戻ったとは言い難いだろう。そして、その優しさを自分に向けてくれるとも限らないのだ。それなのに、心のどこかでは期待しているのかもしれない。
彼は呪いを解けないアンを否定はしなかった。周りは冷ややかだったが、彼は不満を口にしても罵倒してくることはなかった。呪いが解けることを信じて決して恐れなかった。
「今この場で誓おう。精霊達の前で。一生お前だけを愛すると」
ヒューゴはとても真剣な目をして、それがどれだけ彼にとって重みのある決断であるかを伝えてくるようだった。
自らに加護を与える精霊は神に等しいのだろうか。
アンにはわからない。だけど、信じたい気持ちになってしまうのは繋がれた手の強さだけが意識を繋ぎ止めているからだろうか。
「俺を信じてくれ。共に帰ろう」
縋るような目に操られるようにアンは頷く。眩いばかりの光に包まれて、祝福するような精霊達の笑い声を聞いた気がした。
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