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「寄るな触るなケツを見せろ!」

 後ずさって叫んだ。
 別に課長は私に触ろうとなんかしてないけど、勢いで。
 そう今の私に必要なのは雄尻だけ。雄尻だけが私を癒してくれる。

「何だ、その執着心は……お前は妖怪か何かか」

 私の前に膝を突いた課長はすっかり呆れてるみたいだったけど、この際妖怪でも何でもいい。別に齧りつくわけじゃない。見たいだけ。
 ワシはケツが見たいんじゃ!
 そう叫びたい気分。心の中では思いっきり叫んでるけど。
 もう自分のキャラなんてどうだっていい。これを逃したらもう二度と課長は見せてくれないと思う。

「そんなに俺の尻が好きなら見放題になる方法がある」

 なんですと!?
 そんな素敵なサービスがあるなんて……!

「サブスクですか!? 月額いくらですか!?」
「食いつくのか……」

 一体いくらふっかけられるかわからないけど、食いつかずにはいられなかった。思いっきり身を乗り出す。
 その勢いに課長はちょっと引いてるみたい。自分から持ちかけてきたのに……釣りか? 釣りなのか?

「金はとらないが、条件はある」
「条件……」

 ゴクリと喉が鳴った。
 相手は鬼課長、恐ろしい条件をふっかけてくるかもしれない。今夜のことで脅されるのは私の方かもしれない。鬼課長の奴隷にされてしまう! いや、今も大して変わらないけど。
 でも、雄尻……雄尻は見たい。毎日。

「可愛い部下のために体を張ってクリスマスプレゼントをやったんだから、俺ももらっていいよな?」
「あげたじゃないですか、パンツ」

 課長がずいっと顔を近づけてきた。思わず体が後ろに反る。
 雄尻もいいけど、正直顔もいいから、ドキッとしたけど、その顔に怯むわけにはいかなかった。
 パンツも貧乏なスーツだって私からのプレゼント。
 これに懲りたら来年は素敵な恋人を作って素敵なプレゼントを貰えばいいと思う。雄尻を見たからって関係を迫ったりはしない。身の程は知ってる。

「きついんだよ」
「はい?」
「収まりきらないんだ」
「ひぃっ!」

 何を言っているのかと思ったら手を掴まれて股間を触らされた!
 ご立派なブツをお持ちのようで……
 いやいや、私が好きなのは雄尻であって、前は興味がない! 大きさとか全然わからない! そういうことにしておいてほしい。

「せ、セクハラです!」
「先にセクハラしたのは誰だ?」
「うぐっ……いや、私のは福利厚生の一環的な……」
「お前は何を言っているんだ」

 遂に冷静に突っ込まれた。
 ごもっとも。自分でも思う。もうわけがわからない。

「こんな変態を世に放っていることが恐ろしくなってきたからな……時間外労働だが、上司として俺が躾けるしかないだろう?」

 純粋に雄尻を愛してるだけなのに、変態扱いとかあんまりだ。これは芸術なのに。
 むしろ見せたいから鍛えていたのでは……なんて言えない状況。
 見せたい人がいて見たい人がいる。需要と供給、Win-Winのはずなのに!

「俺を辱めた責任は取ってもらう。いや――俺が責任を持ってお前を嫁にもらってやるから感謝しろ」

 課長はとってもイケメンに見えた。いや、元々イケメンだけど。
 あれ? プロポーズ……?
 いや、まさか。

「チッ……これでは格好が付かないな」

 舌打ちをした課長がスーツを脱ぎ捨てる。どうにか背後に回りたかったけど、無理だった。
 しっかり跨がれてる。窮屈そうなモッコリには気付かないフリ。
 あれ? これ、『いやー! ケダモノと化した上司に襲われちゃうー!』って状況?
 いやいや、まさか。

「ぬ、脱いだなら雄尻……雄尻をお願いします! 邪魔な紐がない雄尻を見たいんですーーっ!」

 恥を捨てて懇願するけど、また溜息を吐かれた。
 雄尻が足りない。ただそれだけなのに。神の雄尻を持つ課長なら理解してくれると思ったのに……!

「加奈、お前は本当に俺の尻しか見ていないのか?」
「ひぇっ……」

 顎に指がかかって持ち上げられる。これが噂の顎クイってやつですか……?
 それだけでもドキドキするのに、今、私の名前呼んだよね……?
 私、酔ってるのかな? 課長の距離感がおかしい。
 全く経験がないわけじゃないけど……ううん、だからこそわかる。これはやばい。

「前の男には変態すぎて逃げられたのか?」

 しっ、失礼な……!
 と思いつつ、何も言えない自分がいる。
 彼氏がいたのも学生の頃の話。理想が高かったというか、男運がなかったというか……別に雄尻への熱い情熱をぶつけてドン引きされたわけじゃない。

「好きなんだろ? 俺のケツが」
「はぅっ……」

 低くなった声とちょっと乱暴な言葉にドキッとする。
 目の前にいるのは野獣だ。今、気付いた。
 さっきまでは、「そんなん言っててもお尻丸出しだし……」みたいなところあったけど、今は違う。いい体晒して雄みがましまし。

「触っていいから、俺も好きにさせろ」
「んっ……!」

 課長は私の答えを待ってはくれなかった。
 唇を奪われて思考が停止する。フリーズフリーズ! 再起動再起動!
 でも、その間も課長は待ってくれない。
 呼吸を奪われて、舌を絡め取られて、キスってこんなに気持ち良かったっけ? 理性まで奪われそう。

「んんっ! っは、ぁっ!」

 体を勝手に這う手が大きくて熱い。火がつけられるみたいに熱いのはアルコールのせい?
 こんなことをされたら本気になってしまう。いいの? 流されていいの?
 迷うのに、脳裏に焼き付いたあのプリケツが私を誘惑してる気がした。
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