【R18】乙女ゲームの世界でふたなりになって溺愛されすぎです!

Nuit Blanche

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本編

キノコ、生えちゃった-1

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 夢を見た。凄く変な夢だった。でも、とてもリアルだった。
 私は若林莉緒じゃなかった。でも、若林莉緒のことを知ってた。紫愛ちゃんのことも碧流先輩のことも他の人のことも知ってた。
 死にそうな高熱を出したのが初めてじゃないのはこれが二度目の人生だったから。前世で経験があった。
 一度目の私にとって若林莉緒はフィクションの存在だった。

 若林莉緒はある乙女ゲームのキャラ。ただし、ヒロインじゃない。ヒロインの親友ポジション。そのヒロインが誰かと言えば、もちろん紫愛ちゃん。道理で可愛いわけだし、私なんかと仲良くしてくれたわけだ。
 若くして前世での生を終えてしまった私は乙女ゲームの世界に転生してしまったっていうオタクとしては多分ご褒美な二度目の人生を生きていたことを十六歳の誕生日を機に思い出してしまったというわけだった。

 夢で整理がついたのか、グチャグチャになってたパズルが完成したような感覚と共に熱は引いていった。
 あの高熱が嘘だったみたいにすっかり元気になって、千晶のお許しが出てシャワーを浴びられることになった。朦朧としてる間は千晶が体を拭いてくれるのを恥ずかしいと思う感覚さえ麻痺してたけど、今になって恥ずかしい。千晶的には幼い妹の体を拭いてやってるくらいの感覚だったみたいだから腹立たしい気もする。
 私は若林莉緒であって、若林莉緒じゃないから複雑な気分。

 前世を思い出したなんて言っても千晶はきっと笑い飛ばす。高熱を出して倒れたのは膨大な情報を受信して頭がパンク状態になったからなんて、きっと信じてくれない。
 とにかく私はこれから若林莉緒らしく生きなきゃいけない。今までは前世の記憶なんかなかったけど、今はゲームの記憶を持ってる。時期的にはまだゲームが始まる前だけど、いずれ紫愛ちゃんの恋をサポートしなきゃいけない。紫愛ちゃんは誰を選ぶことになるんだろう? それも私がコントロールできるのかはドキドキだし、何か違和感があるような気もするけど、その時になってみなきゃわからないよね……?
 それにしても、さっきから何だか体がむずむずする。ちょっと時間かけすぎちゃったかな? 千晶が怒るかな?

「ぶへっくしょんっ!」

 急にくしゃみが出た。激しくオヤジなくしゃみ辛い。もっと可愛らしいくしゃみがしたい。なのに、それから更に続けて二発も出た。しかも、浴室内でやたら響く。辛い。

「うー……」

 思わずしゃがみ込んでた。
 滅多に出ない三連発のくしゃみに激しく体力が削られた気がする。オカン状態の千晶に本格的に怒られる気がする。早く出ないと……
 そう、出なきゃとは思うんだけど、悪寒とは違う感じなんだけど……体が変。
 そして、不意に見てしまった! 変なものが見えてしまった! 見えるはずのないものが見えてしまった!
 エラー! エラー! 体が大変なことになってる!!
 巨乳になったとかなら嬉しかったかもしれないのに、残念ながらつるぺたボディのまま一カ所だけ変! 異常あり!

「莉緒!」

 そんなはずがないって恐る恐る確認しようとしたところで突然開け放たれる浴室のドア、踏み込んでくる弟の千晶、フリーズ……!

「きゃ、んぐっ!」

 お互い見詰め合って解凍、正気に返る私……全裸。
 叫びそうになった口は千晶に即座に塞がれた。服が濡れるのも厭わない様子で後ろから抑え込まれる。でも、パニックになった私はじたばたするしかなかった。

「落ち着け、暴れるな、叫ぶな、いいな?」

 千晶の手に力が籠もって、いつもより低い声は何だか迫力があって、私は動きを止めて頷く。
 だけど、千晶はすぐに解放してくれるわけじゃなかった。

「声かけたけど、返事がなかった。風呂場で倒れられると困るから突入した」

 それは弁解? 弁明?
 千晶にもあの大迫力の三連発くしゃみが聞こえちゃったのかも。それで心配して駆け込んでくれたんだよね?
 恥ずかしいけど、この数日で恥ずかしいことなんていくらでもあったし、それだけ千晶に心配と迷惑をかけちゃったってこと。

「だから、手を離しても叫ぶなよ?」

 またコクコクと頷くと、今度はぱっと手が放れて、私は千晶を振り返る。

「千晶……どうしよう……!」
「な、何だよ?」

 千晶は驚いてるけど、こっちは大ピンチ。私にとって問題はくしゃみなんかじゃなかった。
 それに、もう見られちゃったかもしれないし、こうなったら相談できるのは千晶しかいない。

「キノコ、生えちゃった……」
「は?」

 千晶から間抜けな声が出た。まだ視界に入ってなくて、ごまかせたのかもしれないけど、恥ずかしさよりも何よりこのキノコが幻覚じゃないと証明してほしかった。あるいは幻覚だと言ってほしかったのかもしれない。
 キノコを指させば千晶の視線が下に降りて目が見開かれた。口も開いてる。普段はちょっと格好付けてる千晶には珍しいちょっと間抜けな顔。でも、全然笑えなかった。
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