【R18】解き放たれた獣は渇望する

Nuit Blanche

文字の大きさ
5 / 16
本編

血と炎と出会い-4

しおりを挟む
 ジョシュアの言葉通り、決着がつくのはそれからすぐのことだった。
 魔獣を倒した青年はまるで軽い運動をした後のような様子でシャルロッテの下に戻ってくるが、その間も緊張感が漂っていた。まだどこかに魔獣が潜んでいる可能性がないとは言えない。他の仲間達が別々の方向へ向かっていくのはその警戒のためなのかもしれない。

「怪我はないか?」
「あ……はい……ありがとうございました」

 極彩色の美青年に問われたシャルロッテがまごつきながら礼を口にすれば彼もまた困惑したように眉間に皺を刻む。

「いや……救えなくてすまない」
「いえ……! あの……」

 自身の態度が彼に誤解を与えてしまったのかもしれない。シャルロッテは何かを言わなければと焦るほどに気持ちだけが空回って言葉にならなくなってしまう。
 集落が魔獣に襲われた。ありえないことが起きた。だからと言って、彼に責任はない。彼らを責め立てたところで誰も帰ってはこないのだ。それを伝える言葉が浮かばない内に青年が口を開く。

「俺達は傭兵だ」
「傭兵……」
「金で雇われ、戦う駒だ」

 思わず口に出してしまったのはこの狭い世界で生きるシャルロッテにとってあまり馴染みのない言葉だったからなのだが、また何か誤解を与えてしまったのかもしれない。青年の言葉はシャルロッテの胸にチクリと棘のように刺さった。
 集落を遠く離れれば今もどこかで戦争が起きていることはシャルロッテも知らないわけではない。かつて集落にいた若者ももっと広い世界で生きるために傭兵になると言って出て行ったが、その消息はわからないものだ。戦争に加われば命を落とすことだって十分にあり得る。

「これでも結構知られてきた傭兵団なんだけどな。団長様ときたら名前を売る気がないらしい」

 苦笑混じりに言うのは別の男だった。大柄で、砂色の金髪と浅黒い肌を持つ彼も若く見えるが、いかにも屈強な戦士であることを示すように大きな剣を持っている。

「俺は副団長のブランドンだ。ブランドって呼んでいいぞ」

 ニカッと白い歯を見せるブランドンにシャルロッテの緊張は解けていく。そして、彼は気安い様子で青年の肩を抱いた。

「団長はこっちのテリーな。愛想がなくて悪いな。悪気はないんだ」

 美貌の剣士がいれば有名になるのも頷けるが、彼こそが団長であったことにシャルロッテは少なからず驚いていた。それこそブランドンの方がずっと団長らしいとも言える。

「テレンスだ」

 青年は肩を抱かれたことを煩わしげにしながら、笑顔を見せるわけでもない。それでも名を明かしてくれたことがシャルロッテには単純に嬉しく感じられた。

「しゃ、シャルロッテです……この集落の長の孫です」

 これから彼らと話をする上で必要なことだろうと名乗りながらシャルロッテは急に不安になっていた。本来はこの集落を束ねる祖母が彼らと話すべきだろうが、その安否は不明だ。
 彼らがいる今ならば、魔獣が倒された今ならば、奥の家へ近付くことができるだろうか。その思いをシャルロッテが口にしようとした時だった。
 くらりと頭が揺れ、立っていられなくなる。シャルロッテは衝撃を覚悟したが、体が地面を感じることはなかった。

「あ……」
「大丈夫か?」

 気付けばまた近くに息が止まりそうなほどに美しいテレンスの顔があり、シャルロッテは彼の逞しい腕に支えられていることに気付く。

「ごっ、ごめんなさい……」

 危ないところを助けられたばかりか、また迷惑をかけていることに申し訳なくなったシャルロッテは一人でたとうとするが、その手の強さが許さない。
 それどころか軽々と抱え上げられてしまい、シャルロッテは戸惑いを隠せなかった。

「あ……!」
「少し休んだ方がいい。座って話そう」

 そう言われてしまえばシャルロッテは頷くことしかできなかった。これ以上迷惑をかける前に従うことが正しいと思ったのだ。テレンスの目は既に近くにある丸太の椅子を捉えているようだった。その一帯は燃えていないようだったが、いつの間にか周囲の炎も消えている。
 そこは皆の憩いの場であったはずなのに今は人影もない。魔獣が倒され、こうしている間にも誰も出てこないのだ。シャルロッテは何も言うことができないまま丸太の上に降ろされるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...