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本編
血と炎と出会い-4
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ジョシュアの言葉通り、決着がつくのはそれからすぐのことだった。
魔獣を倒した青年はまるで軽い運動をした後のような様子でシャルロッテの下に戻ってくるが、その間も緊張感が漂っていた。まだどこかに魔獣が潜んでいる可能性がないとは言えない。他の仲間達が別々の方向へ向かっていくのはその警戒のためなのかもしれない。
「怪我はないか?」
「あ……はい……ありがとうございました」
極彩色の美青年に問われたシャルロッテがまごつきながら礼を口にすれば彼もまた困惑したように眉間に皺を刻む。
「いや……救えなくてすまない」
「いえ……! あの……」
自身の態度が彼に誤解を与えてしまったのかもしれない。シャルロッテは何かを言わなければと焦るほどに気持ちだけが空回って言葉にならなくなってしまう。
集落が魔獣に襲われた。ありえないことが起きた。だからと言って、彼に責任はない。彼らを責め立てたところで誰も帰ってはこないのだ。それを伝える言葉が浮かばない内に青年が口を開く。
「俺達は傭兵だ」
「傭兵……」
「金で雇われ、戦う駒だ」
思わず口に出してしまったのはこの狭い世界で生きるシャルロッテにとってあまり馴染みのない言葉だったからなのだが、また何か誤解を与えてしまったのかもしれない。青年の言葉はシャルロッテの胸にチクリと棘のように刺さった。
集落を遠く離れれば今もどこかで戦争が起きていることはシャルロッテも知らないわけではない。かつて集落にいた若者ももっと広い世界で生きるために傭兵になると言って出て行ったが、その消息はわからないものだ。戦争に加われば命を落とすことだって十分にあり得る。
「これでも結構知られてきた傭兵団なんだけどな。団長様ときたら名前を売る気がないらしい」
苦笑混じりに言うのは別の男だった。大柄で、砂色の金髪と浅黒い肌を持つ彼も若く見えるが、いかにも屈強な戦士であることを示すように大きな剣を持っている。
「俺は副団長のブランドンだ。ブランドって呼んでいいぞ」
ニカッと白い歯を見せるブランドンにシャルロッテの緊張は解けていく。そして、彼は気安い様子で青年の肩を抱いた。
「団長はこっちのテリーな。愛想がなくて悪いな。悪気はないんだ」
美貌の剣士がいれば有名になるのも頷けるが、彼こそが団長であったことにシャルロッテは少なからず驚いていた。それこそブランドンの方がずっと団長らしいとも言える。
「テレンスだ」
青年は肩を抱かれたことを煩わしげにしながら、笑顔を見せるわけでもない。それでも名を明かしてくれたことがシャルロッテには単純に嬉しく感じられた。
「しゃ、シャルロッテです……この集落の長の孫です」
これから彼らと話をする上で必要なことだろうと名乗りながらシャルロッテは急に不安になっていた。本来はこの集落を束ねる祖母が彼らと話すべきだろうが、その安否は不明だ。
彼らがいる今ならば、魔獣が倒された今ならば、奥の家へ近付くことができるだろうか。その思いをシャルロッテが口にしようとした時だった。
くらりと頭が揺れ、立っていられなくなる。シャルロッテは衝撃を覚悟したが、体が地面を感じることはなかった。
「あ……」
「大丈夫か?」
気付けばまた近くに息が止まりそうなほどに美しいテレンスの顔があり、シャルロッテは彼の逞しい腕に支えられていることに気付く。
「ごっ、ごめんなさい……」
危ないところを助けられたばかりか、また迷惑をかけていることに申し訳なくなったシャルロッテは一人でたとうとするが、その手の強さが許さない。
それどころか軽々と抱え上げられてしまい、シャルロッテは戸惑いを隠せなかった。
「あ……!」
「少し休んだ方がいい。座って話そう」
そう言われてしまえばシャルロッテは頷くことしかできなかった。これ以上迷惑をかける前に従うことが正しいと思ったのだ。テレンスの目は既に近くにある丸太の椅子を捉えているようだった。その一帯は燃えていないようだったが、いつの間にか周囲の炎も消えている。
そこは皆の憩いの場であったはずなのに今は人影もない。魔獣が倒され、こうしている間にも誰も出てこないのだ。シャルロッテは何も言うことができないまま丸太の上に降ろされるのだった。
魔獣を倒した青年はまるで軽い運動をした後のような様子でシャルロッテの下に戻ってくるが、その間も緊張感が漂っていた。まだどこかに魔獣が潜んでいる可能性がないとは言えない。他の仲間達が別々の方向へ向かっていくのはその警戒のためなのかもしれない。
「怪我はないか?」
「あ……はい……ありがとうございました」
極彩色の美青年に問われたシャルロッテがまごつきながら礼を口にすれば彼もまた困惑したように眉間に皺を刻む。
「いや……救えなくてすまない」
「いえ……! あの……」
自身の態度が彼に誤解を与えてしまったのかもしれない。シャルロッテは何かを言わなければと焦るほどに気持ちだけが空回って言葉にならなくなってしまう。
集落が魔獣に襲われた。ありえないことが起きた。だからと言って、彼に責任はない。彼らを責め立てたところで誰も帰ってはこないのだ。それを伝える言葉が浮かばない内に青年が口を開く。
「俺達は傭兵だ」
「傭兵……」
「金で雇われ、戦う駒だ」
思わず口に出してしまったのはこの狭い世界で生きるシャルロッテにとってあまり馴染みのない言葉だったからなのだが、また何か誤解を与えてしまったのかもしれない。青年の言葉はシャルロッテの胸にチクリと棘のように刺さった。
集落を遠く離れれば今もどこかで戦争が起きていることはシャルロッテも知らないわけではない。かつて集落にいた若者ももっと広い世界で生きるために傭兵になると言って出て行ったが、その消息はわからないものだ。戦争に加われば命を落とすことだって十分にあり得る。
「これでも結構知られてきた傭兵団なんだけどな。団長様ときたら名前を売る気がないらしい」
苦笑混じりに言うのは別の男だった。大柄で、砂色の金髪と浅黒い肌を持つ彼も若く見えるが、いかにも屈強な戦士であることを示すように大きな剣を持っている。
「俺は副団長のブランドンだ。ブランドって呼んでいいぞ」
ニカッと白い歯を見せるブランドンにシャルロッテの緊張は解けていく。そして、彼は気安い様子で青年の肩を抱いた。
「団長はこっちのテリーな。愛想がなくて悪いな。悪気はないんだ」
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「テレンスだ」
青年は肩を抱かれたことを煩わしげにしながら、笑顔を見せるわけでもない。それでも名を明かしてくれたことがシャルロッテには単純に嬉しく感じられた。
「しゃ、シャルロッテです……この集落の長の孫です」
これから彼らと話をする上で必要なことだろうと名乗りながらシャルロッテは急に不安になっていた。本来はこの集落を束ねる祖母が彼らと話すべきだろうが、その安否は不明だ。
彼らがいる今ならば、魔獣が倒された今ならば、奥の家へ近付くことができるだろうか。その思いをシャルロッテが口にしようとした時だった。
くらりと頭が揺れ、立っていられなくなる。シャルロッテは衝撃を覚悟したが、体が地面を感じることはなかった。
「あ……」
「大丈夫か?」
気付けばまた近くに息が止まりそうなほどに美しいテレンスの顔があり、シャルロッテは彼の逞しい腕に支えられていることに気付く。
「ごっ、ごめんなさい……」
危ないところを助けられたばかりか、また迷惑をかけていることに申し訳なくなったシャルロッテは一人でたとうとするが、その手の強さが許さない。
それどころか軽々と抱え上げられてしまい、シャルロッテは戸惑いを隠せなかった。
「あ……!」
「少し休んだ方がいい。座って話そう」
そう言われてしまえばシャルロッテは頷くことしかできなかった。これ以上迷惑をかける前に従うことが正しいと思ったのだ。テレンスの目は既に近くにある丸太の椅子を捉えているようだった。その一帯は燃えていないようだったが、いつの間にか周囲の炎も消えている。
そこは皆の憩いの場であったはずなのに今は人影もない。魔獣が倒され、こうしている間にも誰も出てこないのだ。シャルロッテは何も言うことができないまま丸太の上に降ろされるのだった。
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