【R18】解き放たれた獣は渇望する

Nuit Blanche

文字の大きさ
6 / 16
本編

血と炎と出会い-5

しおりを挟む
 水を飲み、気分が落ち着いてくるとシャルロッテにも周りを気にする余裕が出てきた。
 向かいに座っているのはテレンスだ。側にはジョシュアとクレアも控えている。
 どうやら魔法で火を消したらしいジョシュアは相変わらず布包みを抱えている。そして、テレンスは集落の状況確認をしている仲間達の報告を待っている様子だった。
 そんな彼らが何かを聞きたがっていることもシャルロッテは何となく気付き始めていた。けれども、無理に聞き出そうとするわけでもなく、自分が話し出すことを待ってくれているのだとわかったからこそ安心できた。
 やがて団員達が皆戻ってくるが、その中に集落の人間の姿はなかった。ただ一人として。

「残念ですが貴方が唯一の生き残りのようです」

 シャルロッテを見据え、淡々と告げるのは黒衣に身を包み、艶やかな長い黒髪が美しい女性だった。すらりと背が高く、細い体つきに見えるが、その立ち姿は凛としていて折れてしまいそうな弱々しさはない。白い肌や切れ長の黒い目からどこか異国的な雰囲気を感じるが、その動かない表情は精巧な人形だと言われた方が納得できるほどだ。
 薄々わかっていたことだが、事実はシャルロッテの胸に深く突き刺さる。言葉も出ないほどに。

「申し遅れました。わたくし、アヤと申します。同じく副団長として、軽薄なブランドンの代わりにお話させていただきます」

 丁寧な自己紹介にも微笑みは伴わない。好意的とは受け取れず、シャルロッテはすっかり気後れして視線を彷徨わせる。先程言い放たれた言葉の衝撃よりも今目の前にいる彼女の威圧感の方が大きいのだ。

「勝手に決めんな! お前はかてぇんだよ!」

 そう反論するのは軽薄と言われたブランドンだ。二人が対極にいるのはシャルロッテから見ても明らかである。

「貴方が薄っぺらいのです」
「薄っぺらいって何だ! この厚みのある体を見ろ!」
「言動が薄っぺらいと言っているのです」

 自分の肉体を見せつけようとするブランドンと見向きもしないアヤ、言い合いを始めてしまった二人をシャルロッテは交互に見ることしかできない。

「こういう奴らだから気にすんなよ」
「そうそう、いつものことっす」

 そんな声にシャルロッテが振り向けば、波打つ栗毛色の髪を持つ小麦色の肌の女性と白みがかった金髪の青年が立っていた。

「あたしはアリッサだ」

 正に女戦士と言うべきか、女性らしさを感じさせる豊満さを持ちながら逞しく引き締まった体つきはシャルロッテも思わず見惚れてしまうほどだった。顔以外の肌をほとんど晒していないアヤとは対照的に彼女は見せつけようとしているようでもある。集落の女性達の剛胆さとはまた違うように感じられた。

「俺はアレキサンダー、アレックでいいっす」

 そう言って笑う青年はブランドンとはまた違う人懐っこさを感じさせる。しかし、彼も長い槍を持っているのだから戦士に違いない。すっかり現実を忘れてしまいそうになりながらシャルロッテが何を言えば迷った時だった。

「お前達…………もういい、俺が話す」

 大きな溜息を一つ吐き出してテレンスは仲間達を見回す。自由な彼らに呆れ、見かねたのだろう。
 だからこそ、シャルロッテは身構える。きっと、これから聞きたくないようなことを聞かなければならないのだ。そう覚悟しながらテレンスを見つめ、決して聞き漏らすまいとした。

「俺達は別件で麓の町に立ち寄ったのだが、近頃賊が出ると聞いてな……だが、遅かった」

 一瞬地面に視線を落としたテレンスは悔いているのだろうか。魔獣を難なく倒すような手練れ達だ彼らがもっと早く来ていれば、こんなことにはならなかっただろう。
 しかし、シャルロッテには彼らを責めることなどできなかった。そうしたところで誰かが帰ってくるわけでもない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...