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後日譚
後日譚401.道楽貴族は経験が足りない
シズトたちが転移した世界のほとんどの国で行われる新年最初の社交パーティー『新年会』は、当然の如く過去の勇者たちが伝えた会である。
伝えられた当時の記録を読み返せば『餅つき』やら『仮装大会』やらいろいろ行われていたのだが、時と共に廃れていき、その様な事をしている所はシグニール大陸にあるニホン連合の内の一部の国だけとなっていた。
ギュスタンたちが暮らしているファルニルでも同様で、規模は別格だが普段と変わり映えのしない社交パーティーだった。
三人の妻とダンスを終えたギュスタンは、ワイングラスを片手に踊っている者たちの様子を見ていた。成人を迎えた若者たちが婚約者と一緒に踊っているようだ。
彼女たちと年があまり変わらないであろう少女がギュスタンを見上げ、小さな声で話しかけた。
「旦那様、辺境伯にしてもらっておいて本当によかったね」
「そうだね。この点に関しては国王様に感謝だね」
どこか含みのある言い方になってしまったギュスタンに対して、とんがり帽子を目深に被ったサブリナが「ギュスタン様」と小さな声で咎めた。
ギュスタンはその意図を瞬時に理解すると口を噤んだ。
どこで誰が何を聞いているのか分からないのが社交パーティーだ。しかもファルニルの貴族のほとんどが出席している大きなパーティーである。
失言を咎められるくらいならまだいいのだが、それこそ国王の耳に入ると面倒な事になるだろう。
そこそこ親しくしている高位貴族の方々との信念の挨拶を済ませて少し気が緩んでいたんだな、とギュスタンは気を引き締め直した。
丁度その時、ギュスタンの隣に並んで周囲を睥睨していたエーファがギュスタンに「二時の方向」と耳打ちした。
ギュスタンがそれとなく言われた方向を見ると、彼に対して話しかけられる数少ない爵位の持ち主であるマドロン・ド・ラロク辺境伯が近づいてきていた。
妙齢の女性だが、『癒し』の加護を使って兵を癒し、魔境を開拓し続けている女傑であり、ギュスタンに対して何度も婚姻の申し込みをしていた人物でもあった。
「明けましておめでとうございます、ルモニエ辺境伯。今年もよろしくお願い致します」
「明けましておめでとうございます、ラロク辺境伯。こちらこそよろしくお願いします」
新年の挨拶として決められた言葉をそれぞれ交わすと、早速とばかりにラロク辺境伯が口を開いた。
「日に日にカッコよさが増していますね。ルモニエ辺境伯の魅力に若い子たちが気づく前に、結婚したいところですけど、どうかしら?」
「その件については以前お断りさせていただいたかと思いますが……」
「理由が納得できないからこうして繰り返しアプローチしているんです。妻は三人で十分、と理由を述べていらっしゃいましたが、生まれた子たちはどの子も『生育』の加護を授かっていなかったのでしょう? 相手を増やして加護を授かる可能性をあげた方が良いんじゃないでしょうか? それに、ファルニル出身の私の方が加護を授かる子を産む可能性は高いのかも――」
「加護が授かれるかどうか、出身はそれほど関係ないですよ」
「あら、運命の神はある国の出身以外は加護を授けないと言われていますし、関係あるかもしれないじゃないですか」
「ないです。神様から聞いたので」
「…………左様ですか。ですが、それでも――」
「申し訳ありませんが、縁談の件はお断りさせていただきます。例え側室を増やすとしても、各派閥の均衡を崩さないためにも慎重に決めて行かなくちゃいけないので、今ここで決める事なんて絶対にできません」
尚も食い下がろうとするラロク辺境伯に対して横から割って入る形で話しに参加したのはそれまで様子見に徹していたサブリナだった。
今のギュスタンの正室である以上無下にはできない、と判断したラロク辺境伯は少し間をおいてから言葉を返した。
「他国の者からしたら今の状況はとてもいいからそれを崩したくない、というのはよく分かりますわ。ただ、ファルニルの辺境伯という高位貴族に嫁いだ以上はファルニルの発展を第一に考えて欲しいものですわ」
「当然考えています。ギュスタン様から内政を任せていただいておりますから。それも考慮したうえで、ラロク辺境伯とは安易に婚姻関係を結ぶ事が出来ないと申し上げているのです。理由は……同じ派閥の方々の事をお考えになればお分かりになるのではないでしょうか?」
「何の事だかさっぱり分からないわ」
「そうですか。ギュスタン様ばかり見ているから身内に目が向かないのですね。そちらの問題を放っておくと、エルフの国々やなによりあの異世界転移者様を敵に回す可能性がありますから早急に対応して欲しかったのですが……。ここに来る前、丁度ムサシ様に釘を刺されたばかりなんですよ。そうですよね、旦那様」
「え? あ、ああ。そうだね。そういう理由もあるから魅力的な提案だけど、今回の申し出もお断りさせていただきます」
「旦那様、他の方々ともお話したいですわ」
「ん? 挨拶は大体終わらせ……ああ、分かったよ、ルシール。妻がこう申しておりますのでそろそろ失礼させていただきます」
妻の意図を瞬時に察するのにはまだまだ経験が足りないな、なんて事を考えながらギュスタンはラロク辺境伯から離れるのだった。
伝えられた当時の記録を読み返せば『餅つき』やら『仮装大会』やらいろいろ行われていたのだが、時と共に廃れていき、その様な事をしている所はシグニール大陸にあるニホン連合の内の一部の国だけとなっていた。
ギュスタンたちが暮らしているファルニルでも同様で、規模は別格だが普段と変わり映えのしない社交パーティーだった。
三人の妻とダンスを終えたギュスタンは、ワイングラスを片手に踊っている者たちの様子を見ていた。成人を迎えた若者たちが婚約者と一緒に踊っているようだ。
彼女たちと年があまり変わらないであろう少女がギュスタンを見上げ、小さな声で話しかけた。
「旦那様、辺境伯にしてもらっておいて本当によかったね」
「そうだね。この点に関しては国王様に感謝だね」
どこか含みのある言い方になってしまったギュスタンに対して、とんがり帽子を目深に被ったサブリナが「ギュスタン様」と小さな声で咎めた。
ギュスタンはその意図を瞬時に理解すると口を噤んだ。
どこで誰が何を聞いているのか分からないのが社交パーティーだ。しかもファルニルの貴族のほとんどが出席している大きなパーティーである。
失言を咎められるくらいならまだいいのだが、それこそ国王の耳に入ると面倒な事になるだろう。
そこそこ親しくしている高位貴族の方々との信念の挨拶を済ませて少し気が緩んでいたんだな、とギュスタンは気を引き締め直した。
丁度その時、ギュスタンの隣に並んで周囲を睥睨していたエーファがギュスタンに「二時の方向」と耳打ちした。
ギュスタンがそれとなく言われた方向を見ると、彼に対して話しかけられる数少ない爵位の持ち主であるマドロン・ド・ラロク辺境伯が近づいてきていた。
妙齢の女性だが、『癒し』の加護を使って兵を癒し、魔境を開拓し続けている女傑であり、ギュスタンに対して何度も婚姻の申し込みをしていた人物でもあった。
「明けましておめでとうございます、ルモニエ辺境伯。今年もよろしくお願い致します」
「明けましておめでとうございます、ラロク辺境伯。こちらこそよろしくお願いします」
新年の挨拶として決められた言葉をそれぞれ交わすと、早速とばかりにラロク辺境伯が口を開いた。
「日に日にカッコよさが増していますね。ルモニエ辺境伯の魅力に若い子たちが気づく前に、結婚したいところですけど、どうかしら?」
「その件については以前お断りさせていただいたかと思いますが……」
「理由が納得できないからこうして繰り返しアプローチしているんです。妻は三人で十分、と理由を述べていらっしゃいましたが、生まれた子たちはどの子も『生育』の加護を授かっていなかったのでしょう? 相手を増やして加護を授かる可能性をあげた方が良いんじゃないでしょうか? それに、ファルニル出身の私の方が加護を授かる子を産む可能性は高いのかも――」
「加護が授かれるかどうか、出身はそれほど関係ないですよ」
「あら、運命の神はある国の出身以外は加護を授けないと言われていますし、関係あるかもしれないじゃないですか」
「ないです。神様から聞いたので」
「…………左様ですか。ですが、それでも――」
「申し訳ありませんが、縁談の件はお断りさせていただきます。例え側室を増やすとしても、各派閥の均衡を崩さないためにも慎重に決めて行かなくちゃいけないので、今ここで決める事なんて絶対にできません」
尚も食い下がろうとするラロク辺境伯に対して横から割って入る形で話しに参加したのはそれまで様子見に徹していたサブリナだった。
今のギュスタンの正室である以上無下にはできない、と判断したラロク辺境伯は少し間をおいてから言葉を返した。
「他国の者からしたら今の状況はとてもいいからそれを崩したくない、というのはよく分かりますわ。ただ、ファルニルの辺境伯という高位貴族に嫁いだ以上はファルニルの発展を第一に考えて欲しいものですわ」
「当然考えています。ギュスタン様から内政を任せていただいておりますから。それも考慮したうえで、ラロク辺境伯とは安易に婚姻関係を結ぶ事が出来ないと申し上げているのです。理由は……同じ派閥の方々の事をお考えになればお分かりになるのではないでしょうか?」
「何の事だかさっぱり分からないわ」
「そうですか。ギュスタン様ばかり見ているから身内に目が向かないのですね。そちらの問題を放っておくと、エルフの国々やなによりあの異世界転移者様を敵に回す可能性がありますから早急に対応して欲しかったのですが……。ここに来る前、丁度ムサシ様に釘を刺されたばかりなんですよ。そうですよね、旦那様」
「え? あ、ああ。そうだね。そういう理由もあるから魅力的な提案だけど、今回の申し出もお断りさせていただきます」
「旦那様、他の方々ともお話したいですわ」
「ん? 挨拶は大体終わらせ……ああ、分かったよ、ルシール。妻がこう申しておりますのでそろそろ失礼させていただきます」
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