無敵のツルペタ剣聖

samishii kame

文字の大きさ
上 下
26 / 34

第26話 悪魔の契約

しおりを挟む
要塞都市イオリスの地下1階層。
風が流れていた。
いつもは賑わいをみせている時間帯であるはずの商店街からは人の気配が消えて、寂れた街のように軒を連ねている店のシャッターが閉じられている。
悪魔の加護を持つ15種族であるサマエルの分身体から力を分けて貰った豪画と戦闘が始まろうとしていた。
豪画は可愛らしい少年の姿をしているが、女を奴隷のようにしか見ていない支配欲が強いクソ外道だ。
今も私を奴隷にして奉仕させると告知してきたところだ。

サマエルの分身体はというと、満足気そうな表情を浮かべながら、これかは始まろうとしているvs豪画を静観している。
豪画ごときの小悪党が、最強に可愛い剣聖に勝てる見込みなど無限に無いと認識しているはずであるが、何かを企んでいるのだろうか。
でもまぁ今はサマエルのことはいったん置いといて俺様気質の生意気な少年を地獄に落とす方を優先させてもらおう。
その豪画であるが、今も卑猥な言葉を延々と喋り続けていた。

「全ての女は僕に支配される生き物なんだって事を、気の強いお姉ちゃんに教えてあげるよ。僕が調教するとみんなすぐに心が折れてしまうんだけど、お姉ちゃんには期待しているよ。」

調教して心を折るって、女を何だと思っているのかしら。
相当の悪事を重ねてきたと分かる。
やれやれだ。
全身の血液が怒りで沸騰していた。
お前は存在してはいけない人間だ。
ここで始末される運命だったという事をその身に刻んでやるぜ。
—————————処刑開始の時間だ。

全身から力を抜き、息を深く息を吐いていく。
ゆっくり歩き始めるように足を出し、素手から繰り出す遠距離による突き技を、15m先にいるクソ外道へ放つ体勢に入った。
まずは、聞くに耐えられない言葉を喋り続けているその口を黙らせてやろう。
————————紫電一閃

素手から撃ち放たれた衝撃波が無防備にしていた豪画の顎を正面から捕らえると、静まり返ってきたシャッター商店街に、鈍い音が響いた。
顎の骨を砕いた感触がある。
衝撃により、豪画の体が後方へ飛ばされて背中から地面へ落ちていく。
遠距離による衝撃波が見えていないその目は、瞬きする事なく何が起こったかを理解出来ていないようだった。
これは気がついたら空が見えているパターンだな。

衝撃波により飛ばされた豪画の体は、仰向けになるように背中から地面に落ちると、軽くバウンドをし、地面を滑っていく。
その様子を見ていたFMは驚愕の表情を浮かべており、豪画の身に何が起きてのか状況が飲み込めていないようだ。
そしてサマエルの方はというと、案の定驚くこともなく表情に変化が見られない。
こんな雑魚に力を分け与えても千年戦争の役に立つとは思えない。
やはり何か思惑があるようだ。

突然、豪画が奇声を上げ始めた。
止まっていた思考が動き始め、自身が殴り飛ばされた事を認識したってところかしら。
その砕かれた顎では、もう卑猥な言葉を喋る事は出来ないでしょうけど。
奇声を発し終わった豪画が勢いよく立ち上がると、その顔は真っ赤になっており烈火のごとく怒っている。
そこでようやく自身の顎から血が落ちていることに気がついたようで、次に襲ってくる痛みに悲鳴を上げ始めた。

「グギャャャャャ!」

自身が負傷した事に集中させていた意識が再び私の方へ戻ると、グッと全身に力を入れてファイティグポーズを取り始めてきた。
息が荒く目が血走っている。
一撃を食らったくらいでは、天文学的数字ほど力の差があると認識出来ていないようだ。
私の方もここで終わらせようとは思っていないがな。

「命までとりませんが、再起不能な状態にはなってもらいます。でも、生きていても辛いだけの人生となると思いますよ。」
「おでをなめるなよ!」

うむ。雑魚が口にしてくる安定のセリフだな。
私の言葉に豪画がグッと拳を握りしめ、踏み込みながらフルスイングをしてきた。
なるほど、体は小さいが通常の者よりスピードがあり、パワーも感じる。
先ほど倒したギルドマスターより強いかもしれないが、私からするとギルドマスターとそう大差はないな。

豪画からフルスイングされた渾身の拳に、私の拳を合わせると、骨を砕いた感触が伝わってきた。
拳を砕かれた事を認識して絶望をする前に、足の膝を砕いて上げましょう。
軸足に体重を乗せて体を回転させながら、足を鞭のようにしならせてインパクトの瞬間に力を入れた。

膝を粉々に砕いた感触が伝わってくる。
顎、拳、膝を砕かれた豪画は、足を持っていかれるような感じで横転すると、一瞬間を開けた後に悲鳴を上げ始めた。
私の存在を忘れて背中を丸めながら地面に転がり悶絶しているが、もう戦意喪失をしてしまったのかしら。
でも、まだ再起不能にはほど遠いですよね。
私からの怒気を感じとった豪画が突然、フガフガ言い始めた。

「だじゅだだぐゅだだだ。」
「助けて下さいと言っているのですか。先ほども言いましたが、命までは取らないので安心して下さい。でも2度と立てないようにはしてあげますね。」

俺様気質の者は、強い人間に弱く精神的に未熟である。
ようは弱い者いじめしかできないのだ。
自身が弱者と認識した豪画からも同様の傾向が出ており、人を見下していた雰囲気は消え、既に心が折れてしまっていた。
その時である————————

高みの見物を決め込んでいたサマエルが笑顔を浮かべながら、こちらへ歩き始めてきていた。
今更豪画を助けるとも思えないし、私のSKILL『危険予知』も発動していない。
そのサマエルが、歩きながら豪画へ話し始めてきた。

「そちらのお嬢さんは、地上世界最強と言われている19種族の剣聖だから、豪画が勝てる相手では無いんだよ。つまりお前は負けるべくして負けたって事だな。」

歩いてくるサマエルを見た豪画が目を見開き、体をフリーズさせ、血まみれの体から汗が吹き出し始めている。
明らかに、私よりもサマエルの方を恐れている感じだ。
確かに、悪魔に近い顔をしているサマエルは気持ち悪い印象はあるが、そもそもあなた達は仲間同士ではないのですか。
近づいてくるサマエルが、私へ訳の分からない事を言い始めた。

「前回の千年戦争で19種族を倒したのは我等15種族なのですが、多くが犠牲になりました。だが、15種族が滅びる事が無いのは何故だと思いますか。私がいれば、死んだ15種族は蘇る事が出来るのです。」
「蘇ることができるだと。確か、あなたはSKILL『召喚』を使い手だったかしら。」

「そうです。私は死んだ同胞を召喚して復活させる事が出来るのです。それには対価が必要であり、豪画には悪魔の力を分け与える代わりに、死ぬ時は命を貰う契約をしておりまして、今がその時というわけです。」

豪画の命を対価にして、死んだ悪魔を復活させる契約をしており、私に豪画を殺させようとしたという訳か。
真っ白なスーツを着たサマエルが目の前に立ち、芋虫のように地面をもがいている豪画を踏みつけた。

「豪画の魂は実に汚いものでした。あなたのその魂で最も汚れた悪魔である『バエル』を召喚させる事が出来るでしょう。」

バエルか。
確か悪魔でも大幹部の一角だったかしら。
とはいうものの、私の力には遠く及ばないはず。
サマエルがニヤリとして、私へ宣言をしてきた。

「剣聖、安杏里。バエルは強力な悪魔です。簡単に要塞都市イオリスの者を全滅させる事が出来る力を持っています。この都市にバエルと戦える者さ剣聖、安杏里しか戦える者はいません。」
「承知しました。どうぞ気兼ねなく召喚してください。そのバエルという悪魔は、私が殺して差し上げましょう。」

「GOOD!」

前回の千年戦争で剣聖を倒したのは15種族だったようであるが、私はその太陽の種族の中でも歴代最強なので問題無しだ。
本当のところは知らんけど、太陽神の実娘で、何より可愛いから、たぶん間違いないだろう。
サマエルが叫んだ。

「現れろ、バエル!」
しおりを挟む

処理中です...