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第5話 「お前は首だぁ」その②
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ここはA級ダンジョン4階層。
真っ白な岩石で構成されている天井から発せられる光が、ダンジョン内を明るく照らしている。
トンネル状に延びている迷宮は、直径が20m程度ある半円形状をしており、5~6名ほどで構成されるパーティーが戦闘を行うぶんについては、狭いという感覚はないくらいの広さだ。
淀みない空気が流れ、異臭の類もなく、快適な環境が保たれている。
帝国から16名しか認定されないA級冒険者である聖戦士からの協力依頼を受け、7名のパーティーメンバーの1人として最近発見されたというA級ダンジョンへ潜っていた。
聖戦士は身長が190cm程度あり、体もよく鍛えられている。
加えてなかなかのイケメンで、その実力も装備品もA級冒険者にふさわしいものだ。
私が誘いを受けた理由は、聖戦士が自身のギルドファミリーでハーレムを築いている情報を拾い、その聖戦士が討伐対象となる神託が降りてくる予感があったからだ。
はい。ここでも信仰心を稼がせてもらいます。
現在A級ダンジョンを攻略しているパーティーメンバーの中にも、聖戦士が手を出しているという二人の女が加わっていた。
その二人とは、ロリ巨乳神官と、人妻魔導士だ。
私に誘いをかけてきた理由は、誰よりも清らかで可愛い聖女を見て心がときめき、男の習性としてハーレム嬢に加えたいと思ったのだろう。
そう。これは潜入捜査であり、私を誘ってきた時がお前の最後の時だ。
4階層へ降り、暫くすると予期していないイベントが発生した。
————————『聖戦士ジェットの討伐を執行せよ』と神託が突然降りてきたのだ。
YES_MINE_GOD。
確実に処刑を遂行させてもらいます。
これまでの経験上、現場をおさえなければ、なかなか神託が降りてくることはなかったが、今回はラッキーだとしかいいようがない。
聖戦士については、タイミングをはかり、処刑させてもらいます。
標的の男は気が付いていないようだが、既にスキル『ロックオン』で捕捉済みであり、私の勝利は約束されている状態だ。
焦る必要はない。
その時が来るのを待っていればいいのだ。
パーティーメンバーは、聖戦士、副官的な立場である忍者と重戦士、そして、女魔導士、ロリ巨乳神官、絵師、聖女である私を加えた7名で構成されていた。
さすがに前触れなく、この状況下で聖戦士の処刑は実行できない。
素直に考えると、私をハーレム嬢に加えるために何か仕掛けてきた時に処刑を遂行するべきなのだろうが、そこまで待つのも面倒だ。
さて、どうしたものかしら。
聖戦士を処刑するプランの再考を開始した時、事件が起きた。
――――――――聖戦士がパーティーメンバーである忍者に首を宣告したのだ。
「忍者、お前は首だぁ!」
忍者は小柄で私よりも背が頭一つ低い青年だ。
全身を黒装束に包み、腰に刀を装備している。
聖戦士とは対象的に目立たない容姿をしており、村人Aのような存在に見えるが、実際は影の実力者と呼ばれており、その実力は聖戦士を凌ぐS級に近い者と噂されていた。
迷宮の攻略を始めて、聖戦士に対し、副官である忍者は事あるごとにクレームを入れていた。
客観的に見ても聖戦士がブチ切れるのは当然な流れだろう。
今にも殴りかかりそうな気構えを見せる聖戦士を前にして、忍者は動揺するどころか落ち着き払っていた。
嫌な予感がする。
感情を吐き出し人の黒いところを見たり、没落していく姿を鑑賞することは私の大好物であるが、この忍者の雰囲気は先日、酒場にて勇者が追放劇をした時の魔術士の不遜な態度に酷似していた。
その忍者は感情の薄い声で抗議を開始してきた。
「俺が首って、どういう事ですか。」
「どうもこうもない。今すぐここから消えろ!」
感情的になっている聖戦士に対して、忍者からの言葉は淡々としたものだ。
聖戦士は忍者にいいように煽られ、乗せられている感じに見える。
知りえない何かがうごめいている感覚がする。
そう。予期せぬ出来事が起きる予感がするのだ。
ここは強引にでも、聖戦士の処刑を実行するべきところなのかもしれない。
私の前で忍者が淡々とした感じで抗議を続けていた。
「A級の迷宮地下4層から、俺1人で地上に戻らないといけないのですか。」
「知らん。首になった奴の事など知らん。」
「ファミリーのボスだからといって、乱暴過ぎじゃないですか。みんなの意見も聞いて下さいよ。」
忍者が話しを振ってきたそのパーティーメンバーにも違和感がある。
仲間の一大事にもかかわらず、全員が落ち着き払っているのだ。
人は予想していない事態に陥ると混乱し動揺するものだ。
私以外の4人は、こうなることを知っていたのではなかろうか。
ロリ巨乳神官が手を上げて発言を求めてきた。
「聖戦士様。発言をしてもよろしいでしょうか。」
「神官か。忍者は、ああ言っているが、俺は乱暴に思うか。」
ロリ巨乳の神官は聖戦士と関係のある女の一人で、通常なら聖戦士側の者だ。
発言を許されたロリ巨乳神官は、重く険悪な空気感に物怖じすることなく、与えられた仕事を淡々とこなすような口調で、決闘にて結着をつけてはと提案をしてきた。
「聖戦士様と忍者様とで戦って結着をつけてはいかがでしょうか。」
「神官。どういう事だ!」
「俺の方は、戦ってもいいですよ。」
ロリ巨乳神官からの提案に対し、聖戦士は明らかに動揺し、忍者の方は対照的に変わらず淡々としていた。
その理由は、2人の戦闘力が拮抗しているとしたら、確実に聖戦士が敗北してしまうからだ。
聖属性は、他属性に対し優位な関係にあるが、闇属性だけは相克の立場にある。
聖と闇だけはお互いが弱点であり、忍者については『聖属性耐久』を持っていた。
つまり忍者は聖属性キラーであり、聖戦士からすると相性が最悪の相手なのだ。
つまり、ロリ巨乳神官の提案は聖戦士を裏切ったという事になる。
いや、裏切ったのは聖戦士が先なのかもしれないか。
聖戦士の唖然としている様子を見ると、ロリ巨乳神官の発言は予想外のようだ。
その聖戦士が我に返ったように焦った様子で勝負を拒否してきた。
「駄目だ。そんな勝負、受けられるはずがないだろ!」
「それでは、ギルマスの聖戦士様が副官である俺から逃げたということでよろしいでしょうか。この話しが帝都内に広まると、大変な騒ぎになるかもしれませんよ。」
「おい。光太。お前、俺を脅すつもりか!」
忍者は深いため息をつきながら淡々と煽り、聖戦士は顔を真っ赤にしている。
私にとってまずい展開になってきていた。
聖戦士は忍者の仕掛けた罠にかかり、行くも地獄退くも地獄のような状態になっているからだ。
ここで聖戦士が不戦敗を選択した場合、帝国が認定しているA級冒険者は剥奪され、ハーレムを築いていたギルドは解散してしまう。
そうなると必然的にハーレム王でなくなり、聖戦士討伐の神託が消滅してしまうだろう。
そう。私の手で聖戦士を処刑しなければならないのだが、この局面でやってしまうと、忍者を助けた行為になりかねない。
なんとしてもここは、忍者からの挑戦を聖戦士には凌いでもらわなければならない。
この状況を乗り切るには、私が聖戦士をサポートするしかないだろう。
重い空気が流れる中、発言を求めて手を上げてみた。
「私から提案があります。」
「なんだ、傭兵聖女か。見てのとおり今は立て込んでいる。用件なら後にしろ。」
何ですかね。その聖女へ対する不遜な態度は。
本来ならここで鉄拳制裁を見舞いたいところだが、A級冒険者とはいえ私からの一撃をくらってしまうと、戦闘不能にしてしまう可能性がある。
忍者の不戦勝だけは絶対に避けなければならない。
聖戦士の言葉は無視をし、発言させてもらいます。
「属性ハンデを無くして、戦うことにしてはいかがでしょか。」
「属性ハンデが無しだと。どう言う事だ。聖女。その話しを詳しく教えろ。」
早速、聖戦士が提案に食いついてきた。
忍者はというと、微かに反応し鋭い視線を送ってきているものの、特に拒むような態度は見せていない。
無表情で成行きを見ている重戦士からは、強い敵意が感じられる。
話しを続けても良さそうな雰囲気ではないが、もちろん無視して話しは続けさせてもらいます。
ふっ。私は空気を読まない聖女なのだ。
「私が聖戦士へ『闇属性耐久』を付与しようと思います。」
「何だと。『闇属性耐久』を付与出来るのか。そう言えば、お前、聖女だったな!」
「はい。俺の方がそうしてもらっても別にいいですよ。」
私の提案を聞いて急に元気になった聖戦士に対して、忍者は変わりなく淡々としていた。
聖戦士は相当舐められているようだ。
属性ハンデが無くなっても、忍者は勝てるつもりでいるのかしら。
私の見立てでは、聖戦士は紛れもなくA級相当の実力があり『闇属性耐久』を付与した場合、忍者が勝てるとは思えない。
聖戦士に手をかざし、『闇属性耐久』の付与を行った。
「これで属性ハンデが無くなったぞ。忍者お前に勝ち目はもう無いぞ!」
「自分が有利になったら、急に元気になりましたね。」
忍者の意見に同意です。
自身が有利になった瞬間、急に元気になる法則は悪党属性そのままだ。
そんな裏表のない聖戦士は嫌いではない。
聖戦士の方は、忍者に痛いところを指摘されてしまい、ブチ切れ度合いが加速していた。
「忍者舐めてんじゃねぇぞ。俺の影を踏むことが出来なけりゃ、お前なんて雑魚なんだよ。」
聖戦士の言葉は雑魚属性であり、敗北するフラグがたっている。
忍者の戦闘スタイルは、『影踏み』で敵を拘束し、毒、麻痺を付与する戦術が基本のようで変幻自在な戦い方をしてくる。
大きくステータス差で勝る聖戦士の勝利は間違いないと思うのだが…。
「おい、こら、忍者。お前はここ地下4層でポイ捨て確定したぜ!」
「確認ですが、俺が勝ったら、どうなるのでしょうか?」
「いい加減にしろよ。お前が勝つ未来など無いんだよ!」
「俺が勝ったら、聖戦士様は、俺に土下座をして下さい。そして、その土下座した姿を絵描きに描いて貰ってもいいですか。」
「ぶっ殺すぞ、こらぁ!」
聖戦士の土下座した姿を描かすために、絵描きがパーティーに混じっていたのか。
やはりこの流れは計画どおりに物事が進められているものだと考えられる。
闇耐性を聖戦士に付与されても忍者に焦りは見られないし、これまでの発言を聞いても自身が勝つ事が前提となっている。
対して闇属性耐久を付与された聖戦士は忍者に対して警戒感が低い。
そして戦いが開始された。
―――――――――結果は忍者が勝利した。
忍者はS級スキル『影使い』の使い手だった。
『影使い』は汎用性が高く、月の加護をうけなければ私でも攻略が難しい。
A級冒険者程度の実力では、歯が立たないのは当然の結果だ。
聖戦士については忍者が『影使い』である事を知らなかったようだ。
ファミリーのボスは、お飾りだったのかしら。
「聖戦士様、それでは約束どおり土下座をして下さい。」
「土下座なんて、する訳ねぇだろ!」
「ですよね。でも、そろそろ麻痺が効いてきたと思いますが、いかがですか。」
「麻痺だと!」
聖戦士がグラリとし、尻餅をついた。
影で聖戦士を拘束して、『麻痺』の重ねがけをしていたからな。
あれでは、異常耐久が高い聖戦士でも、耐えられるはずがない。
そんな聖戦士へ、忍者が冷たく言葉を言い放った。
「それでは、強制的に土下座をして貰います。」
「や、やめろ。やめるんだ!」
体の自由が効かない聖戦士を四つん這いにして、忍者は聖戦士の頭を踏み付けるように地面に押し付けた。
土下座している頭を踏みつけられているこの映像は鬼畜すぎるだろ。
うん、良い絵面だ。
向こうでは、絵描きが高速でデッサンを始めていた。
「その描いている絵は、どうするのですか?」
「これですか。この絵は帝都にばら撒くのですよ。」
この仕打ちはえぐ過ぎる。
聖戦士の社会的な抹殺される未来が確定した。
――――――その時、神託が降りてきた。
聖戦士の処刑を命令された『神託』が完了した知らせである。
背筋が凍りつく。
この展開は不味い。不味すぎる。
何も出来ないまま神託が終了してしまった。
私の人生で初の信仰心がダウンしたのだ。
◇
聖戦士は麻痺から回復をしていたが、四つん這いになったままシクシク泣いていた。
忍者達の姿は無く、ここに残っているのは私と聖戦士の2人だけ。
聖戦士に『闇属性耐久』を掛けたので、忍者パーティーから外されてしまったのだ。
まぁ、そうなりますよね。
ここに一生いるわけにもいきませんし、そろそろ帝都へ帰りましょうか。
「聖戦士、そろそろ帝都へ戻りますよ。」
返事が無い。
声は届いていると思うのだが…。
とりあえず、頭を殴ってみて反応するか確かめてみましょう。
四つん這いになっている聖戦士の頭に正拳突きを振り下ろした。
『ボコ』
やはり聖戦士の反応が無い。
麻痺から回復しているはずだが、聖戦士の頭って頑丈に出来ているのだろうか。
今度は、頭蓋骨が陥没しない程度の力でブーメランフックをしてみようかしら。
軸足に体重の乗せ、アッパー気味の軌道を描きながら拳を振り抜いた。
『バキ』
四つん這いだった聖戦士が衝撃で側転宙返りをしてしまい、更にその勢いのまま転がっていく。
何気に加減が難しい。
気絶してしまったか。
死んでいないよな。
息はある。
ただ状況は何も変わっていない。
気絶から目を覚ましてもらうために、今度は緩めに正拳突きを入れてみた。
『ボコ』
「何度も俺を殴るんじゃない。というか、聖女。本当に『闇属性耐久』を俺へかけたのか!」
私は疑われているようだ。
やれやれです。
どうやら聖戦士は、忍者がS級スキルの使い手であったことに気が付いていないらしい。
聖戦士がユラユラと立ち上がり剣を抜いてきた。
真っ赤に腫れ、血走った目で私を睨みつけている。
殺気というよりは、怒気を感じる。
「聖女。なぜ俺は負けたんだ!」
「あなたが負けた理由ですか。それは忍者はS級スキル『影使い』の所持者だったからですよ。」
「何だと。忍者がS級スキル『影使い』の使い手だっただと!」
聖戦士は用意周到な罠に掛かったのだ。
忍者は、いずれ聖戦士を追い落とすために、S級スキル『影使い』を獲得していた事実を伏せていたのだろう。
初めからこうなる結果は決まっていた。
「どういうことだ。俺は嵌められたということなのか。」
「パーティーメンバーの皆さんは、忍者の味方だったようです。」
「ちょっと待て。それはメルンが俺を裏切ったということなのか!」
メルンとはロリ巨乳神官のことだ。
聖戦士にとって他の女とは違い特別な者だったのかしら。
そしてボロ泣きする聖戦士が、私に向けていた剣をカランと落とすと、ふらふら奥へ歩いていく。
「そちらに進むと、最下層の5層に行ってしまいますよ。」
反応が無い。
これ以上は付き合いきれませんよ。
聖戦士の剣を拾い上げ、腰の鞘に戻してあげた。
運が良ければ生き残れるかもしれませんね。
私は聖戦士を放置して、ダンジョンから帝都に戻る事にした。
真っ白な岩石で構成されている天井から発せられる光が、ダンジョン内を明るく照らしている。
トンネル状に延びている迷宮は、直径が20m程度ある半円形状をしており、5~6名ほどで構成されるパーティーが戦闘を行うぶんについては、狭いという感覚はないくらいの広さだ。
淀みない空気が流れ、異臭の類もなく、快適な環境が保たれている。
帝国から16名しか認定されないA級冒険者である聖戦士からの協力依頼を受け、7名のパーティーメンバーの1人として最近発見されたというA級ダンジョンへ潜っていた。
聖戦士は身長が190cm程度あり、体もよく鍛えられている。
加えてなかなかのイケメンで、その実力も装備品もA級冒険者にふさわしいものだ。
私が誘いを受けた理由は、聖戦士が自身のギルドファミリーでハーレムを築いている情報を拾い、その聖戦士が討伐対象となる神託が降りてくる予感があったからだ。
はい。ここでも信仰心を稼がせてもらいます。
現在A級ダンジョンを攻略しているパーティーメンバーの中にも、聖戦士が手を出しているという二人の女が加わっていた。
その二人とは、ロリ巨乳神官と、人妻魔導士だ。
私に誘いをかけてきた理由は、誰よりも清らかで可愛い聖女を見て心がときめき、男の習性としてハーレム嬢に加えたいと思ったのだろう。
そう。これは潜入捜査であり、私を誘ってきた時がお前の最後の時だ。
4階層へ降り、暫くすると予期していないイベントが発生した。
————————『聖戦士ジェットの討伐を執行せよ』と神託が突然降りてきたのだ。
YES_MINE_GOD。
確実に処刑を遂行させてもらいます。
これまでの経験上、現場をおさえなければ、なかなか神託が降りてくることはなかったが、今回はラッキーだとしかいいようがない。
聖戦士については、タイミングをはかり、処刑させてもらいます。
標的の男は気が付いていないようだが、既にスキル『ロックオン』で捕捉済みであり、私の勝利は約束されている状態だ。
焦る必要はない。
その時が来るのを待っていればいいのだ。
パーティーメンバーは、聖戦士、副官的な立場である忍者と重戦士、そして、女魔導士、ロリ巨乳神官、絵師、聖女である私を加えた7名で構成されていた。
さすがに前触れなく、この状況下で聖戦士の処刑は実行できない。
素直に考えると、私をハーレム嬢に加えるために何か仕掛けてきた時に処刑を遂行するべきなのだろうが、そこまで待つのも面倒だ。
さて、どうしたものかしら。
聖戦士を処刑するプランの再考を開始した時、事件が起きた。
――――――――聖戦士がパーティーメンバーである忍者に首を宣告したのだ。
「忍者、お前は首だぁ!」
忍者は小柄で私よりも背が頭一つ低い青年だ。
全身を黒装束に包み、腰に刀を装備している。
聖戦士とは対象的に目立たない容姿をしており、村人Aのような存在に見えるが、実際は影の実力者と呼ばれており、その実力は聖戦士を凌ぐS級に近い者と噂されていた。
迷宮の攻略を始めて、聖戦士に対し、副官である忍者は事あるごとにクレームを入れていた。
客観的に見ても聖戦士がブチ切れるのは当然な流れだろう。
今にも殴りかかりそうな気構えを見せる聖戦士を前にして、忍者は動揺するどころか落ち着き払っていた。
嫌な予感がする。
感情を吐き出し人の黒いところを見たり、没落していく姿を鑑賞することは私の大好物であるが、この忍者の雰囲気は先日、酒場にて勇者が追放劇をした時の魔術士の不遜な態度に酷似していた。
その忍者は感情の薄い声で抗議を開始してきた。
「俺が首って、どういう事ですか。」
「どうもこうもない。今すぐここから消えろ!」
感情的になっている聖戦士に対して、忍者からの言葉は淡々としたものだ。
聖戦士は忍者にいいように煽られ、乗せられている感じに見える。
知りえない何かがうごめいている感覚がする。
そう。予期せぬ出来事が起きる予感がするのだ。
ここは強引にでも、聖戦士の処刑を実行するべきところなのかもしれない。
私の前で忍者が淡々とした感じで抗議を続けていた。
「A級の迷宮地下4層から、俺1人で地上に戻らないといけないのですか。」
「知らん。首になった奴の事など知らん。」
「ファミリーのボスだからといって、乱暴過ぎじゃないですか。みんなの意見も聞いて下さいよ。」
忍者が話しを振ってきたそのパーティーメンバーにも違和感がある。
仲間の一大事にもかかわらず、全員が落ち着き払っているのだ。
人は予想していない事態に陥ると混乱し動揺するものだ。
私以外の4人は、こうなることを知っていたのではなかろうか。
ロリ巨乳神官が手を上げて発言を求めてきた。
「聖戦士様。発言をしてもよろしいでしょうか。」
「神官か。忍者は、ああ言っているが、俺は乱暴に思うか。」
ロリ巨乳の神官は聖戦士と関係のある女の一人で、通常なら聖戦士側の者だ。
発言を許されたロリ巨乳神官は、重く険悪な空気感に物怖じすることなく、与えられた仕事を淡々とこなすような口調で、決闘にて結着をつけてはと提案をしてきた。
「聖戦士様と忍者様とで戦って結着をつけてはいかがでしょうか。」
「神官。どういう事だ!」
「俺の方は、戦ってもいいですよ。」
ロリ巨乳神官からの提案に対し、聖戦士は明らかに動揺し、忍者の方は対照的に変わらず淡々としていた。
その理由は、2人の戦闘力が拮抗しているとしたら、確実に聖戦士が敗北してしまうからだ。
聖属性は、他属性に対し優位な関係にあるが、闇属性だけは相克の立場にある。
聖と闇だけはお互いが弱点であり、忍者については『聖属性耐久』を持っていた。
つまり忍者は聖属性キラーであり、聖戦士からすると相性が最悪の相手なのだ。
つまり、ロリ巨乳神官の提案は聖戦士を裏切ったという事になる。
いや、裏切ったのは聖戦士が先なのかもしれないか。
聖戦士の唖然としている様子を見ると、ロリ巨乳神官の発言は予想外のようだ。
その聖戦士が我に返ったように焦った様子で勝負を拒否してきた。
「駄目だ。そんな勝負、受けられるはずがないだろ!」
「それでは、ギルマスの聖戦士様が副官である俺から逃げたということでよろしいでしょうか。この話しが帝都内に広まると、大変な騒ぎになるかもしれませんよ。」
「おい。光太。お前、俺を脅すつもりか!」
忍者は深いため息をつきながら淡々と煽り、聖戦士は顔を真っ赤にしている。
私にとってまずい展開になってきていた。
聖戦士は忍者の仕掛けた罠にかかり、行くも地獄退くも地獄のような状態になっているからだ。
ここで聖戦士が不戦敗を選択した場合、帝国が認定しているA級冒険者は剥奪され、ハーレムを築いていたギルドは解散してしまう。
そうなると必然的にハーレム王でなくなり、聖戦士討伐の神託が消滅してしまうだろう。
そう。私の手で聖戦士を処刑しなければならないのだが、この局面でやってしまうと、忍者を助けた行為になりかねない。
なんとしてもここは、忍者からの挑戦を聖戦士には凌いでもらわなければならない。
この状況を乗り切るには、私が聖戦士をサポートするしかないだろう。
重い空気が流れる中、発言を求めて手を上げてみた。
「私から提案があります。」
「なんだ、傭兵聖女か。見てのとおり今は立て込んでいる。用件なら後にしろ。」
何ですかね。その聖女へ対する不遜な態度は。
本来ならここで鉄拳制裁を見舞いたいところだが、A級冒険者とはいえ私からの一撃をくらってしまうと、戦闘不能にしてしまう可能性がある。
忍者の不戦勝だけは絶対に避けなければならない。
聖戦士の言葉は無視をし、発言させてもらいます。
「属性ハンデを無くして、戦うことにしてはいかがでしょか。」
「属性ハンデが無しだと。どう言う事だ。聖女。その話しを詳しく教えろ。」
早速、聖戦士が提案に食いついてきた。
忍者はというと、微かに反応し鋭い視線を送ってきているものの、特に拒むような態度は見せていない。
無表情で成行きを見ている重戦士からは、強い敵意が感じられる。
話しを続けても良さそうな雰囲気ではないが、もちろん無視して話しは続けさせてもらいます。
ふっ。私は空気を読まない聖女なのだ。
「私が聖戦士へ『闇属性耐久』を付与しようと思います。」
「何だと。『闇属性耐久』を付与出来るのか。そう言えば、お前、聖女だったな!」
「はい。俺の方がそうしてもらっても別にいいですよ。」
私の提案を聞いて急に元気になった聖戦士に対して、忍者は変わりなく淡々としていた。
聖戦士は相当舐められているようだ。
属性ハンデが無くなっても、忍者は勝てるつもりでいるのかしら。
私の見立てでは、聖戦士は紛れもなくA級相当の実力があり『闇属性耐久』を付与した場合、忍者が勝てるとは思えない。
聖戦士に手をかざし、『闇属性耐久』の付与を行った。
「これで属性ハンデが無くなったぞ。忍者お前に勝ち目はもう無いぞ!」
「自分が有利になったら、急に元気になりましたね。」
忍者の意見に同意です。
自身が有利になった瞬間、急に元気になる法則は悪党属性そのままだ。
そんな裏表のない聖戦士は嫌いではない。
聖戦士の方は、忍者に痛いところを指摘されてしまい、ブチ切れ度合いが加速していた。
「忍者舐めてんじゃねぇぞ。俺の影を踏むことが出来なけりゃ、お前なんて雑魚なんだよ。」
聖戦士の言葉は雑魚属性であり、敗北するフラグがたっている。
忍者の戦闘スタイルは、『影踏み』で敵を拘束し、毒、麻痺を付与する戦術が基本のようで変幻自在な戦い方をしてくる。
大きくステータス差で勝る聖戦士の勝利は間違いないと思うのだが…。
「おい、こら、忍者。お前はここ地下4層でポイ捨て確定したぜ!」
「確認ですが、俺が勝ったら、どうなるのでしょうか?」
「いい加減にしろよ。お前が勝つ未来など無いんだよ!」
「俺が勝ったら、聖戦士様は、俺に土下座をして下さい。そして、その土下座した姿を絵描きに描いて貰ってもいいですか。」
「ぶっ殺すぞ、こらぁ!」
聖戦士の土下座した姿を描かすために、絵描きがパーティーに混じっていたのか。
やはりこの流れは計画どおりに物事が進められているものだと考えられる。
闇耐性を聖戦士に付与されても忍者に焦りは見られないし、これまでの発言を聞いても自身が勝つ事が前提となっている。
対して闇属性耐久を付与された聖戦士は忍者に対して警戒感が低い。
そして戦いが開始された。
―――――――――結果は忍者が勝利した。
忍者はS級スキル『影使い』の使い手だった。
『影使い』は汎用性が高く、月の加護をうけなければ私でも攻略が難しい。
A級冒険者程度の実力では、歯が立たないのは当然の結果だ。
聖戦士については忍者が『影使い』である事を知らなかったようだ。
ファミリーのボスは、お飾りだったのかしら。
「聖戦士様、それでは約束どおり土下座をして下さい。」
「土下座なんて、する訳ねぇだろ!」
「ですよね。でも、そろそろ麻痺が効いてきたと思いますが、いかがですか。」
「麻痺だと!」
聖戦士がグラリとし、尻餅をついた。
影で聖戦士を拘束して、『麻痺』の重ねがけをしていたからな。
あれでは、異常耐久が高い聖戦士でも、耐えられるはずがない。
そんな聖戦士へ、忍者が冷たく言葉を言い放った。
「それでは、強制的に土下座をして貰います。」
「や、やめろ。やめるんだ!」
体の自由が効かない聖戦士を四つん這いにして、忍者は聖戦士の頭を踏み付けるように地面に押し付けた。
土下座している頭を踏みつけられているこの映像は鬼畜すぎるだろ。
うん、良い絵面だ。
向こうでは、絵描きが高速でデッサンを始めていた。
「その描いている絵は、どうするのですか?」
「これですか。この絵は帝都にばら撒くのですよ。」
この仕打ちはえぐ過ぎる。
聖戦士の社会的な抹殺される未来が確定した。
――――――その時、神託が降りてきた。
聖戦士の処刑を命令された『神託』が完了した知らせである。
背筋が凍りつく。
この展開は不味い。不味すぎる。
何も出来ないまま神託が終了してしまった。
私の人生で初の信仰心がダウンしたのだ。
◇
聖戦士は麻痺から回復をしていたが、四つん這いになったままシクシク泣いていた。
忍者達の姿は無く、ここに残っているのは私と聖戦士の2人だけ。
聖戦士に『闇属性耐久』を掛けたので、忍者パーティーから外されてしまったのだ。
まぁ、そうなりますよね。
ここに一生いるわけにもいきませんし、そろそろ帝都へ帰りましょうか。
「聖戦士、そろそろ帝都へ戻りますよ。」
返事が無い。
声は届いていると思うのだが…。
とりあえず、頭を殴ってみて反応するか確かめてみましょう。
四つん這いになっている聖戦士の頭に正拳突きを振り下ろした。
『ボコ』
やはり聖戦士の反応が無い。
麻痺から回復しているはずだが、聖戦士の頭って頑丈に出来ているのだろうか。
今度は、頭蓋骨が陥没しない程度の力でブーメランフックをしてみようかしら。
軸足に体重の乗せ、アッパー気味の軌道を描きながら拳を振り抜いた。
『バキ』
四つん這いだった聖戦士が衝撃で側転宙返りをしてしまい、更にその勢いのまま転がっていく。
何気に加減が難しい。
気絶してしまったか。
死んでいないよな。
息はある。
ただ状況は何も変わっていない。
気絶から目を覚ましてもらうために、今度は緩めに正拳突きを入れてみた。
『ボコ』
「何度も俺を殴るんじゃない。というか、聖女。本当に『闇属性耐久』を俺へかけたのか!」
私は疑われているようだ。
やれやれです。
どうやら聖戦士は、忍者がS級スキルの使い手であったことに気が付いていないらしい。
聖戦士がユラユラと立ち上がり剣を抜いてきた。
真っ赤に腫れ、血走った目で私を睨みつけている。
殺気というよりは、怒気を感じる。
「聖女。なぜ俺は負けたんだ!」
「あなたが負けた理由ですか。それは忍者はS級スキル『影使い』の所持者だったからですよ。」
「何だと。忍者がS級スキル『影使い』の使い手だっただと!」
聖戦士は用意周到な罠に掛かったのだ。
忍者は、いずれ聖戦士を追い落とすために、S級スキル『影使い』を獲得していた事実を伏せていたのだろう。
初めからこうなる結果は決まっていた。
「どういうことだ。俺は嵌められたということなのか。」
「パーティーメンバーの皆さんは、忍者の味方だったようです。」
「ちょっと待て。それはメルンが俺を裏切ったということなのか!」
メルンとはロリ巨乳神官のことだ。
聖戦士にとって他の女とは違い特別な者だったのかしら。
そしてボロ泣きする聖戦士が、私に向けていた剣をカランと落とすと、ふらふら奥へ歩いていく。
「そちらに進むと、最下層の5層に行ってしまいますよ。」
反応が無い。
これ以上は付き合いきれませんよ。
聖戦士の剣を拾い上げ、腰の鞘に戻してあげた。
運が良ければ生き残れるかもしれませんね。
私は聖戦士を放置して、ダンジョンから帝都に戻る事にした。
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「役立たず」と中央から追放された没落貴族の俺、アルト・フォン・クライナー。継いだのは、借金まみれで作物も育たない見捨てられた辺境領地だけだった。
絶望する俺に発現したスキルは【領地ガチャ】。それは、領民の「幸福度」をポイントとして消費し、領地発展に必要なものを引き当てる唯一無二の能力だった。
「領民を幸せにすれば、領地も豊かになる!」
俺は領民と共に汗を流し、壊れた水路を直し、地道に幸福度を稼ぐ。
『N:ジャガイモの種』『R:土木技術書』
地味だが確実な「当たり」で、ほのぼのと領地を再建していく。
だが、ある日。溜め込んだ幸福度で引いたガチャが、俺の運命を激変させる。
『UR(ウルトラレア):万病に効く【奇跡の温泉郷】』
この「当たり」が、中央の腐敗した貴族たちの欲望を刺激した。
借金のカタに領地を狙う大商会の令嬢。
温泉利権を奪うため、父の命で派遣されてきた元婚約者の侯爵令嬢。
「領民の幸福(ガチャポイント)を脅かす者は、誰であっても許さない」
これは、ただ平穏に暮らしたかっただけの俺が、ガチャで得た力(と証拠とゴーレムと聖獣)を駆使し、ほのぼの領地を守り抜き、いつの間にか最強の領主として成り上がっていく物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
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宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
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ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
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第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
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