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第11話 ゴスロリメイドみたいだが
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30人ほどの者が打合せできるように設計された大きな会議室内に、等間隔で配置された細長い窓から太陽光が入ってきていた。
風になびく葉枝の音が聞こえ、室内にいても蒸し暑さを感じる。
口の字形式に並べられた机の向かいには黒装束に身を包んだ忍者が座っていた。
背が低く目立たない容姿をしているが、影の実力者と言われている者で、S級スキルの使い手だ。
実際にA級冒険者であった聖戦士との直接対決にて圧勝しており、S級相当の実力があることは間違いない。
会議室内の端には、聖戦士が管理していたギルドメンバー28名が入ってきており、私と忍者が交わしていた話しを聞いていた。
私がここに来た目的は、信仰心を下げた原因をつくった張本人である忍者へ復讐すること。
そう。スキル『影使い』へ『SKILL_VIRUS』を撃ち込むために、忍者の呼びかけに応じたのだ。
だがその忍者は素直な性格をしており、世界にとってクソ迷惑なナイスガイであった。
重戦士達にそそのかされている感じではあるが、そこはたいした問題ではない。
将来、私へ莫大な無限の信仰心をもたらしてくれる可能性を秘めている存在であるということこそが重要なのだ。
忍者の処刑は保留とする判断をした矢先、神託が降りてきた。
―――――――世界にとって大迷惑な存在である忍者をなんとかしろ。
YES_MY_GOD
忍者を刈り取るには時期早々だ。
帝都を焼け野原にするような発言もしていたし、世界を大混乱に陥れてから刈り取りたいと考えていた。
現段階で忍者を処刑しても信仰心のUP量はたかが知れている。
とはいうものの、神託には逆らえない。
その忍者はテーブルを挟んだ向こう側の席で、世界を変革する話を延々と述べていた。
「聖女さん。やっぱり俺はまず帝都をつくり直すところから始めようと思います。」
帝都は優れた技術とノウハウをもった古代人が設計した都市だ。
客観的に考えても、街づくりの素人である忍者達にまともな都市造りが出来るとは到底思えない。
そもそも帝国には世界最強戦力と言われている三条家というものが存在している。
革命なんて成功するはずがない。
忍者は、適当に話しを合わせている私を理解者であると勘違いしたようで、何の前触れもなく清純そうに見える聖女をスカウトしてきた。
「聖女さん。もし良かったら、この僕の手伝いをしてもらえませんか!」
忍者が珍しく感情的な声を上げ、前のめりになってきている。
急な申し出に、会議室にいたギルドメンバーからどよめく声が起きた。
重戦士に関しては、苦渋の様相をみせている。
手伝いとは、帝都をつくり直す行為を指しており、聖女である私に街の破壊工作なんかをさせるつもりなのかしら。
マジで勘弁してください。
信仰心が絶望的に大暴落してしまうではないですか。
お断りします。
だが、私は閃いてしまった。
この申し入れは、『SKILL_VIRUS』を撃ち込むチャンスだ。
神託の内容は、帝都の破壊工作を阻止することであり、つまり忍者の野望を阻止出来れば良いのであって、処刑までは求めていない。
『影使い』を失うことになっても、生きていれさえすれば、また何かをやらかしてくれる予感がする。
それでは『影使い』を破壊し、神託を遂行させてもらいます。
「忍者様からの申し出についてお答えします。」
騒がしかった会議室内が静まり返った。
皆の視線がこちらに集まってくる。
皆が、私から出てくる言葉に意識を集中していた。
重戦士からは余計なことを言うな、みたいな圧力が発せられている。
うむ。ここは少し遊んでやりたいところだが、神託の遂行を優先しなければならない。
「私は神に仕える身。神の意思に従いたいと思います。」
「神の意思ですか。それはどうやって確かめるのでしょうか。」
「はい。大変申し訳ありませんが、忍者様の手を握ってもよろしいでしょうか。」
「はい。もちろんです!」
忍者の声が裏返り、凄い勢いで立ち上がってきた。
チョロ過ぎるぜ。
顔を真っ赤にさせ緊張している。
私の可愛い容姿に騙されてしまったようだ。
ふっ。男なんて所詮は女を外見でしか判断しないお馬鹿な生物だからな。
会議室で成り行きを見ていた冒険者達から見つめられている。
席から立ち上がり忍者の方へ足を進め、手を伸ばした。
重戦士からの邪魔が入る様子はない。
それでは、遠慮なく『SKILL_VIRUS』を撃ち込みます。
伸びてきた手を、両手で軽く重ねた。
―――――――――――SKILL VIRUSを発動する。
スキル『影使い』の崩壊が開始した手応えがきた。
忍者はというと、私の手をギューっと握ったままなかなか離してくれない。
美少女に免疫がない童貞小僧かよ。
やれやれ。少しくらいなら我慢してやるか。
新人冒険者君達に視線を移すと、ドン引きしている様子が丸分かりだ。
すいません。これ以上は耐えられません。
「忍者様、そろそろ手を離して頂けると有難いのですけど。」
「し、失礼しました。」
忍者が手を離すのと同時に、アルテミス神の神託が降りて来た。
忍者討伐の完了を告げる神託である。
信仰心が上昇した。
忍者を処刑する事なく、神託による命令を完了した。
『SKILL_VIRUS』は遅効性のため、徐々にスキルが崩壊していき、7日後に完全消滅する。
少しずつ使い勝手が悪くなるだろうが、既に破壊されていることに気が付いていない。
変革を起こそうとする力を失ってしまうが、その崇高な志しは持ち続けると信じています。
目的は達成した。
これからのことを考え始めた時、忍者が手伝いを申し出た返事について質問をしてきた。
「聖女さん。神からの答えはどうでした?」
ああ。そう言えば、帝都の破壊工作を手伝ってほしいと申し入れをされていた。
返事をするのを忘れておりました。
重戦士が鋭い眼光で睨んできている。
はいはい。分かっています。
あなた達の邪魔をするつもりはありません。
ここにいる必要性もなくなった。
適当にそれらしい返事をさせてもらいましょう。
目を見開き、緊張した面持ちをしている忍者を真っ直ぐ見つめた。
「神からの返事をお伝えします。現在加入しております美人賢者パーティーでの役目をやり遂げろとの事でした。申し出の件は受けことが出来ません。」
忍者は残念な表情を浮かべながらため息をつき、重戦士はホッとした表情を浮かべている。
その他の者達はさまざまな反応をしていた。
いろいろあったが、結果としては信仰心を上げることが出来たので、よしということにしておこう。
◇
屋敷を出て海岸通りを歩いていると、波と汽笛の心地よい音が聞こえてくる。
潮風に髪が揺れ、太陽光が眩しく少し痛いほどだ。
魚を捕らえた鳥に別の鳥が襲いかかる様子を子供が指差し、両親に伝えようとしている姿が微笑ましい。
海を走る船を眺めながら歩いていると、隣を強斥候が歩調を合わせて並んできた。
「三華月様。忍者との話しはうまくいきましたか。」
「完璧です。強斥候の方はいかがでした。」
強斥候は親指を突き立ててニヤリとしてきた。
A級冒険者を決めるためのオリオンは、B級冒険者の上位4名がそれぞれパーティーを組み争われる。
B級1位が忍者。B級2位が美人賢者だ。
強斥候には、B級3位と4位の動向について調査をしてもらっていたのだ。
強斥候がその調べてきた成果について話し始めてきた。
「他2組は忍者が勝利すると考えているようです。」
想定どおりの反応だ。
その2組が忍者達と共闘を図るかを知りたいのだ。
オリオンが各パーティーでの共闘は禁止されていない。
力関係が拮抗している場合、力の弱い者同士で協力し、また強い者へサポートをする場合もある。
前評判では忍者の力が突き抜けているとされており、誰もの勝利することを疑っていない。
「2組ともが、忍者へ接触したようっす。」
「忍者へ共闘を申し入れたということでしょうか。」
「その通りです。そしてこの後、B級4位の奴等が僕達にアプローチをしてくると予想しているっす。」
強斥候がニヤリとしている。
B級4位は、忍者から共闘を断られた場合、B級2位の私達に協力を申し入れる流れは、自然のように感じる。
だが強斥候には、何か思うところがあるようだ。
この後であるが、強斥候からの読みどおり、B級4位のパーティーから共同戦線の申し入れがあった。
◇
オリオン開始の前日。
太陽が高い位置にある時間帯。
帝都にあるレストランの個室を貸し切りにして、B級4位の指揮者パーティーのメンバーと、明日行われるオリオンについて打合せをしていた。
指揮者側からこちらに共同戦線の申し込みがあったからだ。
個室の中央の置かれている長方形の8人掛けテーブルに美人賢者と指揮者とが向かい合わせに座っている。
指揮者は冒険者にしては高齢の部類に入る50過ぎの背が高い痩せた男だ。
このJOBはかなり特殊であり、単独では全く戦闘力が無いものの、その名のとおり戦術眼に優れ集団戦に置いて高い戦果を発揮する。
指揮者パーティーは計5人。
索敵能力と防御力に特化し、堅実にクエストをこなす構成になっているが、A級迷宮を攻略するためにはあきらかに火力不足だ。
私を含め美人賢者と指揮者以外の者は、壁際に並べられている椅子に腰かけ、中央テーブルで交わされている話しを聞いていた。
まず、指揮者側からこちらをサポートする対価についての要望があり、美人賢者がA級へ昇格をしたあかつきには、新しく作られるギルドへ幹部として加入したいと申し入れがあった。
もちろん心の広い美人賢者は、こころよく快諾だ。
そして戦術をすり合わせしていく中で、S級相当の中でも最も恐れられる魔物の一体であるコカトリス討伐について探りが入ってきた。
「先日、アメリア様達が超S級と言われているコカトリスを討伐されたと聞きましたが、どのような戦術を用いられたのか、参考までに教えてもらえないでしょうか。」
コカトリスを攻略するためには上級聖人職が使用する『セイグリッドウォール』が必修で、前線職にもS級冒険者が必要と言われていた。
指揮者は戦術を聞く過程の中で、私達の本当の実力がどの程度のものか見極めようとしているのだろう。
その指揮者からの質問に対し、まず反応したのは勇者であった。
個室の入隅にある椅子に座らせていた体格のいい男が、得意気な表情を浮かべ腕組みをしながら立ち上がってきた。
目立つような行動はするな。発言もするな。と言っていたのだが、どうやら忘れてしまったらしい。
「コカトリスの討伐についての話しを聞きたいってか? まぁいいだろ。ふっ。実際のところは、俺達は何もしていないんだぜ。」
「何もしていないとは、どういうことですか。もう少し具体的に話しを教えてもらえないでしょうか。」
「ふっ。俺達は、見学していただけなんだ。」
「見学ですか。」
「そうだ。そこにいる聖女が単独でコカトリスを討伐したんだ。俺達は、その姿を見学していただけって事よ。」
勇者の言葉に、指揮者パーティーの5人が絶句する声をあげた。
得体の知れない生物をみるような視線が私に集まってくる。
鬼可愛い女の子が最強であるっていう法則を知らないのかしら。
何故か、クソ偉そうな態度をとっている勇者に続き、腕組をして渋い表情をつくっていた強斥候も立ち上がってきた。
「人を見た目で判断するなっていうことっすよ。」
「そうそう。あの聖女、姿だけはゴスロリ喫茶のメイドで御主人様とか言ってそうに見える聖女だが、実際は暴力で俺達を支配しているわけよ。」
「三華月様の鉄拳制裁を食らったら、僕で無ければ大事故になるくらいヤバイ一撃なんすよ。」
「S級相当の魔物を単独で倒したとなると三華月様はS級相当の実力なのですか?」
「S級以上だろ。世界初のドラゴン級じゃねぇの。」
「超ド級サイズのコカトリスに、圧勝したっすよ。」
「ぶっ殺される前のコカトリスの表情は最高だったな。」
「絶対に、何だとぉぉぉと思っていたっすね。」
勇者・強斥候はノリノリだ。
何がそんなに楽しいのかしら。
といいますか、何故あなた達が偉そうな態度をしているのでしょうか。
うんこ達2人の武勇伝みたいに聞こえてくる。
「とにかくあれだ。俺達の邪魔だけはするなよ。」
「三華月様に、任せろっす。」
私は勇者と強斥候の手下扱いをされているように感じるのだが、気のせいなのかしら。
風になびく葉枝の音が聞こえ、室内にいても蒸し暑さを感じる。
口の字形式に並べられた机の向かいには黒装束に身を包んだ忍者が座っていた。
背が低く目立たない容姿をしているが、影の実力者と言われている者で、S級スキルの使い手だ。
実際にA級冒険者であった聖戦士との直接対決にて圧勝しており、S級相当の実力があることは間違いない。
会議室内の端には、聖戦士が管理していたギルドメンバー28名が入ってきており、私と忍者が交わしていた話しを聞いていた。
私がここに来た目的は、信仰心を下げた原因をつくった張本人である忍者へ復讐すること。
そう。スキル『影使い』へ『SKILL_VIRUS』を撃ち込むために、忍者の呼びかけに応じたのだ。
だがその忍者は素直な性格をしており、世界にとってクソ迷惑なナイスガイであった。
重戦士達にそそのかされている感じではあるが、そこはたいした問題ではない。
将来、私へ莫大な無限の信仰心をもたらしてくれる可能性を秘めている存在であるということこそが重要なのだ。
忍者の処刑は保留とする判断をした矢先、神託が降りてきた。
―――――――世界にとって大迷惑な存在である忍者をなんとかしろ。
YES_MY_GOD
忍者を刈り取るには時期早々だ。
帝都を焼け野原にするような発言もしていたし、世界を大混乱に陥れてから刈り取りたいと考えていた。
現段階で忍者を処刑しても信仰心のUP量はたかが知れている。
とはいうものの、神託には逆らえない。
その忍者はテーブルを挟んだ向こう側の席で、世界を変革する話を延々と述べていた。
「聖女さん。やっぱり俺はまず帝都をつくり直すところから始めようと思います。」
帝都は優れた技術とノウハウをもった古代人が設計した都市だ。
客観的に考えても、街づくりの素人である忍者達にまともな都市造りが出来るとは到底思えない。
そもそも帝国には世界最強戦力と言われている三条家というものが存在している。
革命なんて成功するはずがない。
忍者は、適当に話しを合わせている私を理解者であると勘違いしたようで、何の前触れもなく清純そうに見える聖女をスカウトしてきた。
「聖女さん。もし良かったら、この僕の手伝いをしてもらえませんか!」
忍者が珍しく感情的な声を上げ、前のめりになってきている。
急な申し出に、会議室にいたギルドメンバーからどよめく声が起きた。
重戦士に関しては、苦渋の様相をみせている。
手伝いとは、帝都をつくり直す行為を指しており、聖女である私に街の破壊工作なんかをさせるつもりなのかしら。
マジで勘弁してください。
信仰心が絶望的に大暴落してしまうではないですか。
お断りします。
だが、私は閃いてしまった。
この申し入れは、『SKILL_VIRUS』を撃ち込むチャンスだ。
神託の内容は、帝都の破壊工作を阻止することであり、つまり忍者の野望を阻止出来れば良いのであって、処刑までは求めていない。
『影使い』を失うことになっても、生きていれさえすれば、また何かをやらかしてくれる予感がする。
それでは『影使い』を破壊し、神託を遂行させてもらいます。
「忍者様からの申し出についてお答えします。」
騒がしかった会議室内が静まり返った。
皆の視線がこちらに集まってくる。
皆が、私から出てくる言葉に意識を集中していた。
重戦士からは余計なことを言うな、みたいな圧力が発せられている。
うむ。ここは少し遊んでやりたいところだが、神託の遂行を優先しなければならない。
「私は神に仕える身。神の意思に従いたいと思います。」
「神の意思ですか。それはどうやって確かめるのでしょうか。」
「はい。大変申し訳ありませんが、忍者様の手を握ってもよろしいでしょうか。」
「はい。もちろんです!」
忍者の声が裏返り、凄い勢いで立ち上がってきた。
チョロ過ぎるぜ。
顔を真っ赤にさせ緊張している。
私の可愛い容姿に騙されてしまったようだ。
ふっ。男なんて所詮は女を外見でしか判断しないお馬鹿な生物だからな。
会議室で成り行きを見ていた冒険者達から見つめられている。
席から立ち上がり忍者の方へ足を進め、手を伸ばした。
重戦士からの邪魔が入る様子はない。
それでは、遠慮なく『SKILL_VIRUS』を撃ち込みます。
伸びてきた手を、両手で軽く重ねた。
―――――――――――SKILL VIRUSを発動する。
スキル『影使い』の崩壊が開始した手応えがきた。
忍者はというと、私の手をギューっと握ったままなかなか離してくれない。
美少女に免疫がない童貞小僧かよ。
やれやれ。少しくらいなら我慢してやるか。
新人冒険者君達に視線を移すと、ドン引きしている様子が丸分かりだ。
すいません。これ以上は耐えられません。
「忍者様、そろそろ手を離して頂けると有難いのですけど。」
「し、失礼しました。」
忍者が手を離すのと同時に、アルテミス神の神託が降りて来た。
忍者討伐の完了を告げる神託である。
信仰心が上昇した。
忍者を処刑する事なく、神託による命令を完了した。
『SKILL_VIRUS』は遅効性のため、徐々にスキルが崩壊していき、7日後に完全消滅する。
少しずつ使い勝手が悪くなるだろうが、既に破壊されていることに気が付いていない。
変革を起こそうとする力を失ってしまうが、その崇高な志しは持ち続けると信じています。
目的は達成した。
これからのことを考え始めた時、忍者が手伝いを申し出た返事について質問をしてきた。
「聖女さん。神からの答えはどうでした?」
ああ。そう言えば、帝都の破壊工作を手伝ってほしいと申し入れをされていた。
返事をするのを忘れておりました。
重戦士が鋭い眼光で睨んできている。
はいはい。分かっています。
あなた達の邪魔をするつもりはありません。
ここにいる必要性もなくなった。
適当にそれらしい返事をさせてもらいましょう。
目を見開き、緊張した面持ちをしている忍者を真っ直ぐ見つめた。
「神からの返事をお伝えします。現在加入しております美人賢者パーティーでの役目をやり遂げろとの事でした。申し出の件は受けことが出来ません。」
忍者は残念な表情を浮かべながらため息をつき、重戦士はホッとした表情を浮かべている。
その他の者達はさまざまな反応をしていた。
いろいろあったが、結果としては信仰心を上げることが出来たので、よしということにしておこう。
◇
屋敷を出て海岸通りを歩いていると、波と汽笛の心地よい音が聞こえてくる。
潮風に髪が揺れ、太陽光が眩しく少し痛いほどだ。
魚を捕らえた鳥に別の鳥が襲いかかる様子を子供が指差し、両親に伝えようとしている姿が微笑ましい。
海を走る船を眺めながら歩いていると、隣を強斥候が歩調を合わせて並んできた。
「三華月様。忍者との話しはうまくいきましたか。」
「完璧です。強斥候の方はいかがでした。」
強斥候は親指を突き立ててニヤリとしてきた。
A級冒険者を決めるためのオリオンは、B級冒険者の上位4名がそれぞれパーティーを組み争われる。
B級1位が忍者。B級2位が美人賢者だ。
強斥候には、B級3位と4位の動向について調査をしてもらっていたのだ。
強斥候がその調べてきた成果について話し始めてきた。
「他2組は忍者が勝利すると考えているようです。」
想定どおりの反応だ。
その2組が忍者達と共闘を図るかを知りたいのだ。
オリオンが各パーティーでの共闘は禁止されていない。
力関係が拮抗している場合、力の弱い者同士で協力し、また強い者へサポートをする場合もある。
前評判では忍者の力が突き抜けているとされており、誰もの勝利することを疑っていない。
「2組ともが、忍者へ接触したようっす。」
「忍者へ共闘を申し入れたということでしょうか。」
「その通りです。そしてこの後、B級4位の奴等が僕達にアプローチをしてくると予想しているっす。」
強斥候がニヤリとしている。
B級4位は、忍者から共闘を断られた場合、B級2位の私達に協力を申し入れる流れは、自然のように感じる。
だが強斥候には、何か思うところがあるようだ。
この後であるが、強斥候からの読みどおり、B級4位のパーティーから共同戦線の申し入れがあった。
◇
オリオン開始の前日。
太陽が高い位置にある時間帯。
帝都にあるレストランの個室を貸し切りにして、B級4位の指揮者パーティーのメンバーと、明日行われるオリオンについて打合せをしていた。
指揮者側からこちらに共同戦線の申し込みがあったからだ。
個室の中央の置かれている長方形の8人掛けテーブルに美人賢者と指揮者とが向かい合わせに座っている。
指揮者は冒険者にしては高齢の部類に入る50過ぎの背が高い痩せた男だ。
このJOBはかなり特殊であり、単独では全く戦闘力が無いものの、その名のとおり戦術眼に優れ集団戦に置いて高い戦果を発揮する。
指揮者パーティーは計5人。
索敵能力と防御力に特化し、堅実にクエストをこなす構成になっているが、A級迷宮を攻略するためにはあきらかに火力不足だ。
私を含め美人賢者と指揮者以外の者は、壁際に並べられている椅子に腰かけ、中央テーブルで交わされている話しを聞いていた。
まず、指揮者側からこちらをサポートする対価についての要望があり、美人賢者がA級へ昇格をしたあかつきには、新しく作られるギルドへ幹部として加入したいと申し入れがあった。
もちろん心の広い美人賢者は、こころよく快諾だ。
そして戦術をすり合わせしていく中で、S級相当の中でも最も恐れられる魔物の一体であるコカトリス討伐について探りが入ってきた。
「先日、アメリア様達が超S級と言われているコカトリスを討伐されたと聞きましたが、どのような戦術を用いられたのか、参考までに教えてもらえないでしょうか。」
コカトリスを攻略するためには上級聖人職が使用する『セイグリッドウォール』が必修で、前線職にもS級冒険者が必要と言われていた。
指揮者は戦術を聞く過程の中で、私達の本当の実力がどの程度のものか見極めようとしているのだろう。
その指揮者からの質問に対し、まず反応したのは勇者であった。
個室の入隅にある椅子に座らせていた体格のいい男が、得意気な表情を浮かべ腕組みをしながら立ち上がってきた。
目立つような行動はするな。発言もするな。と言っていたのだが、どうやら忘れてしまったらしい。
「コカトリスの討伐についての話しを聞きたいってか? まぁいいだろ。ふっ。実際のところは、俺達は何もしていないんだぜ。」
「何もしていないとは、どういうことですか。もう少し具体的に話しを教えてもらえないでしょうか。」
「ふっ。俺達は、見学していただけなんだ。」
「見学ですか。」
「そうだ。そこにいる聖女が単独でコカトリスを討伐したんだ。俺達は、その姿を見学していただけって事よ。」
勇者の言葉に、指揮者パーティーの5人が絶句する声をあげた。
得体の知れない生物をみるような視線が私に集まってくる。
鬼可愛い女の子が最強であるっていう法則を知らないのかしら。
何故か、クソ偉そうな態度をとっている勇者に続き、腕組をして渋い表情をつくっていた強斥候も立ち上がってきた。
「人を見た目で判断するなっていうことっすよ。」
「そうそう。あの聖女、姿だけはゴスロリ喫茶のメイドで御主人様とか言ってそうに見える聖女だが、実際は暴力で俺達を支配しているわけよ。」
「三華月様の鉄拳制裁を食らったら、僕で無ければ大事故になるくらいヤバイ一撃なんすよ。」
「S級相当の魔物を単独で倒したとなると三華月様はS級相当の実力なのですか?」
「S級以上だろ。世界初のドラゴン級じゃねぇの。」
「超ド級サイズのコカトリスに、圧勝したっすよ。」
「ぶっ殺される前のコカトリスの表情は最高だったな。」
「絶対に、何だとぉぉぉと思っていたっすね。」
勇者・強斥候はノリノリだ。
何がそんなに楽しいのかしら。
といいますか、何故あなた達が偉そうな態度をしているのでしょうか。
うんこ達2人の武勇伝みたいに聞こえてくる。
「とにかくあれだ。俺達の邪魔だけはするなよ。」
「三華月様に、任せろっす。」
私は勇者と強斥候の手下扱いをされているように感じるのだが、気のせいなのかしら。
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