ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第30話 鬼聖女とは

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バスが外にいる魔物達に激しく揺らされ、車内はまるで荒波の中を航行する船に乗っているような状況になっていた。
車内にはでっぷり親父の運転手とナイスバディの山茶花バスガイドが恐怖に体を震わせながら身を寄せ合い励ましあっている。
ガラス越しに外を見ると、砂漠の地下にあったサービスエリアの広い駐車場と向こうに間口の広い商業施設がある。
埃がない空間が遠くまで景色がクリアに見え、外からはバスを揺らしている魔物達の物騒な声が聞こえてくる。


≪おい、こら、出てこんか!≫
≪何をビビっとんねん!≫
≪いてこましてやるぞ!≫


バスを揺らしている魔物は、体長1mのサソリ型でC級相当。
その数は200個体程度おり、知能が高く団体戦を仕掛けてくる奴等だ。
以前、機械兵の世界を行く際に一掃した個体の生き残りである。
その時、神託が降りてきた。


サービスエリアに放置されている世界を滅ぼすことが出来る兵器を排除せよ。


YES_MY_GOD。
運転手とバスガイドの不倫現場をおさえて信仰心を稼ぐつもりであったが、重要度がどんでもなくかけ離れている神託が降りてきた。
『世界を滅ぼすことが出来る兵器』とやらを探すためには、バスを包囲しているサソリ型の魔物達が邪魔だ。
彼等にはここから退場願いましょう。
揺らされている車内を移動し出入口へ向かうと、その様子を見ていたバスガイドが慌てた様子で声を掛けてきた。


「三華月様。まさか外へ出るおつもりなのでしょうか?」
「はい。外にいる魔物達を一掃してきます。ご安心下さい。」


C級相当の魔物程度では、ダークマターに信仰心を編み込んでいる聖衣で武装している私に傷一つつけることは出来ない。
加えて、私がその程度の魔物ごときに遅れをとることは微塵もない。
私の言葉を聞き絶句しているバスガイドの横で震えていた運転手が、黄ばんだ歯をカキーンと見せながらキメ顔をつくり不快きわまりない言葉を言ってきた。


「女の子を危険にさらすわけには行きません。聖女さんが外に出る事は却下です。これも運転手の責任です。ご理解して下さい。」


言葉より先に足が出てしまった。
運転手を反射的『ゴン』と蹴とばしてしまっていたのだ。
悲鳴を上げながらバスの中を運転手が転がっていくと、バスガイドが心配して運転手の方へ駆け寄っていく。
力の加減を誤ってしまい思ったより強く蹴ってしまったが、清々しい気持ちになっていた。
後部座席で運転手がうずくまり絶叫しているが無視していても何ら問題ない。
サービスエリアの調査を行うためにバスの扉に手をかけた。
扉を開き外へ出ると、詰め寄ってきていたサソリ型の魔物達が、予想していなかった出来事に戸惑ったのだろうか、波が引くように間合いを空けるため一斉に後退をしていく。
一瞬静まったものの、取り囲んでいる200個体超えのサソリ型達が一斉に情報交換を開始する声が聞こえてきた。


≪突然、乗り物から出てきて驚いたぜ。≫
≪一応、警戒して、遠距離からの攻撃を仕掛けるべきだろう。≫
≪用心するには越した事がないぞ。≫
≪ここは包囲陣形を保ちつつ、ゆっくり間合いを詰めていってもいいんじゃないか。≫


統率がよくとれ、効果的な集団戦を仕掛けてくる魔物ではあるが、私からすると雑魚に変わりない。
このサービスエリアは古代人がつくった迷宮ではないようだし、つまり過度な戦闘行為をしてしまうと、この空間は崩れてしまうだろう。
面倒ではあるがサソリ型200個体は、1個体ずつ丁寧に仕留めさせてもらいましょう。
――――――――連射モードで運命の弓を召喚します。
戦闘体勢を取り始めていたサソリ型の魔物達の動きが、ピタリと止まった。
急に静まり返りましたが、どうされたのでしょうか。
サソリ型の魔物達があきらかに動揺している。


≪おい、みんな、ちょっと待て。≫
≪見覚えあるというか、忘れるはずないぜ。≫
≪ヤバイぞ。あれは。≫
≪鬼聖女じゃないか!≫
「鬼聖女って誰の事ですか?」


サソリ型の魔物達が交わしている話しに思わず割り込んでしまったが反応が無い。
フリーズし、凝視され、沈黙が流れ、無駄な時間が過ぎていく。
残務処理をするような気分で、まったく前向きにはなれないが、サクッとやる事を終わらせることにしましょう。
――――――それでは運命の矢のリロードを開始します。
静まっていたサソリ達が、我に返ったように騒ぎ始めた。


≪間違いない、鬼聖女だ。≫
≪私達を追いかけてきたんだ!≫
≪逃げろぉぉぉ≫
≪各自散開して、地上で合流するぞ。≫


包囲網の輪が一斉に広がっていく。
地鳴りが共鳴し、クリアだった空気に粉塵が舞い上がっている。
波が引くとはこのことだな。
そう言えば、鬼聖女って誰の事なのか聞きそびれてしまった。
鳴り響いていた反響音がおさまると、サービスエリア内は再び静寂を取り戻していた。
さて、世界を滅ぼすことができる兵器とやらは、一体どこにあるのかしら。
一つ一つ調べていくしかない。
気が付くと、安全である事を認識した運転手とバスガイドが、バスを降りサービスエリア内を物色している姿があった。





世界を滅ぼす兵器の捜索を開始していると、2人は呑気にサービスエリア内を楽しみ始めていた。
バスガイドがテーブルに座り見つけてきたお茶を沸かして優雅にお茶を飲んでいる。
運転手からはトレジャーハンターみたいなセリフが聞こえてくる。


「なんじゃこれは。これって、お宝なのか。お宝を見つけたぞ。昇進じゃ、昇進するぞ!」
「五位堂さん、おめでとうございます。真面目に働いてきた事を神様は見ていてくれたのですよ。」
「山茶花さん、おおきに。あんたにも苦労をかけさせたな。」


何かを見つけたことは分かるが、今、運転手がおかしな言葉を言っていたぞ。
絶対に、既婚者の男と、独身の女が交わすような会話ではなかった。
だが、今はバカップルに構っている余裕はない。
運転手が嬉しそうに放置していた台車に、発見したお宝を乗せてバスに積み込もうとしている。
――――――台車に乗せているその物体に『核融合炉』という文字が書いてあるのが見えた。


「それだわ!」
「何ですか?」


戸惑う運転手の親父を蹴り飛ばし、その核融合炉を触ると可動している事を確認した。
これが誤爆してしまったら、巻き上がった粉塵が何百年単位で太陽の光を覆い隠し、地上世界には月の光も届かなくなる。
そして、放射能汚染で私以外の生物は死滅してしまうだろう。
台車に乗せ雑にあつかう代物ではない。
状態を確認すると、核融合炉は稼働し続けている。
『世界を滅ぼす兵器を排除せよ』と神託は降りてきた。
つまりこれを停止しなければならないということなのかしら。
気が付くと、向こうの壁まで転がっていた運転手がゾンビのように起き上がり、酔っ払いみたいにフラフラ歩いてきていた。


「聖女さん。それは、ワテが見つけた物ですよ。」


まだ立ち向かってくるだけの気力がありのか。
執念深い。不快だ。
死なない程度に加減をしながらもう一度蹴り飛ばすと、先ほどと全く同じ光景のように運転手が転がっていく。
しばらくそこでじっとしていて下さい。
それでは核融合炉を停止させて頂います。
核融合炉の文字が書かれている箱に手をあてた。
――――――――――『SKILL_VIRUS』を発動。

核融合が停止した手応えが伝わってくる。
だが…。
核融合が完全に沈黙するには100年以上はかかるようだ。
神託が完了したお告げも降りてこないか。
今の私にできることはここまで。
この格融合炉は、サービスエリアごと砂に埋めておきましょう。
信仰心の獲得は100年間を気長に待つしかない。
気が付くと、頭に包帯を巻いた運転手が再び何かを物色を開始し、バスガイドはお土産という箱からデザートを広げている。
このままだと、2人はサービスエリアに住み着いてしまいそうだな。
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