ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第46話 2つの鎖

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藍色だった空が青色に変わり、高い位置に小さな雲が見える。
砂漠の都市の中央にあるホテルの裏庭は、長旅に備え利用者の馬車が置かれ、早朝の時間帯は建物の影になっていた。
ホテルの正面側にある道路からはたくさんの人達が行き交う声や雑居音が聞こえてくる。
乾燥した空気が流れ込み、気温が上がってきていた。
裏庭には、私達と星運達の姿しかいない。
足元にいるペンギンが、衛生活動をしている機械人形達を使用し人払いをしていたためである。
星運と奴隷契約を行い支配されている水落は、黒金色の手錠を付け崩れ落ちるように号泣していた。
持っていた槍は地面へ放っており、もう戦闘を続行する意志はないようだ。
その様子を、万里は表情を変える事なく黙って見つめ、腰を抜かして立てないでいる星運は水落へ叫んだ。


「水落ぁ、大丈夫かぁ。絶対に助け出してやるからなぁ!」


星運は思い違いをしている。
プロテクトハートは他人が強制的につけることは出来ない代物。
四十九が泣いていた水落の手首に黒金色の手錠を付けたのであるが、それは本人の意志に沿った行為だということ。
そもそも嫌がる少女へ、私と戦うように強要してきたのは星運。あなたではないか。
足元にいるペンギンが、こちらに視線を送ってきていることに気が付いた。
はいはい。分かっていますよ。次は私が仕事をさせてもらいます。
その仕事とは、水落の心臓に巻かれている『奴隷契約の鎖』の破壊すること。
『SKILL VIRUS』を発動させる為、四十九に体を支えられている少女の胸へ手を当てると、違和感がある事に気がついた。
これは何かしら。
――――――――――心臓に奴隷契約の鎖とは別に、もう一本、鎖が巻かれている。
そう。水落の心臓には2本の鎖が巻かれていたのだ。
この鎖の契約は………


SKILL VIRUSを発動する。


奴隷契約の鎖と、もう1本の心臓に巻かれた2本の鎖へ『SKILL VIRUS』を撃ち込んだ手応えがやってきた。
遅れて、少女の心臓から『ピキリ』という鎖の亀裂音がはっきりと聞こえてくる。
同時に号泣していた少女が顔を上げ、その目は見開いた。
心臓に巻かれていた鎖に亀裂が入ったことを自覚したようだ。
水落が、涙痕が残る顔を万里の方へ向け、歓喜の声を張り上げた。


「万里ちゃん。今、私の中にある『奴隷契約の鎖』に亀裂が入る音が聞こえてきたよ!」
「水落ぁぁ、どういう事だ!」


歓喜の声をあげた少女に対して、まず星運が怒声を張り上げてきた。
万里はというと、無表情のまま水落からの呼びかけに対して一切の反応をしていない。
星運の態度は想定通りのものだが、万里のその反応もやはりといった感じがする。
その様子を見ていたペンギンは、何故か満足そうに笑い、再び四十九と小競り合いを開始した。


「三華月様には、絶対というものが通用しないのだ。とは言うものの、お前達愚民共にその偉大さは永遠に分からないだろう。」
「ペンギン。お前が、偉そうにするな。」
「何を言う。実際に私は偉いのだよ。」
「私、三華月様の加護、与えられた眷属。ペンギン、ただのペンギン。」
「ふん。ただのイエスマンである四十九と、最も忠誠心が高い私を一緒にするんじゃない。私は三華月様へ意見が言える最も信頼されている臣下なのだ。」


眷属にした覚えも無いし、家臣にした記憶もない。
信仰心に影響がないようなので、放置しているだけのこと。
私には支配欲がなく、誰かより偉くなりたいわけでもない。
そもそも、ペンギンの忠誠心については疑問かある。
何となく、強い者へ簡単になびいていくような気がする。
とは言うものの、鬼可愛最強の法則に従えば私が最強であるらことは不変であるため、裏切ることはないのだろう。
ペンギンが決め顔をつくり、私の方へ再び頭を下げてきた。


「四十九。私がどれだけ有能であるか、その姿をお前に見せてやろう。三華月様。これから水落に『ジャッチメント』を使用して、罪の重さを推し量ろうと思います。実行してもよろしいでしょうか。」


『ジャッジメント』。
それは、その者を犯した罪を公正正大に判断し刑を決定する効果がある。
嘘偽りは絶対にまかり通らない。
誰よりも公平に判断を下すことが出来る。
ペンギンの言葉に対して、真っ先に反応したのは、水落からの声に一切の反応がなく、状況を静観していた万里であった。


「『ジャッチメント』で罪の重さを測るだと! ペンギン。それは一体どういう事なんた?」
「うむ。聞いていたとおりだ。犯してきた罪を公正明大に判断する効果があり、隠してきた犯罪も『ジャッチメント』の前では無意味となるのだ。」


水落は、私に2度ほど攻撃を仕掛けてきた。
2度目は迷いなく私の命を狙ったのもであったが、それは聖運に強要されたもの。
これまでも同じようなことをしてきたのかもしれない。
不安そうにしている水落がペンギン振り向くと、震える声で自分の罪を告白してきた。


「私は星運様の命令で人をたくさん殺してきました。それって罪になるものなの?」
「『ジャッジメント』を発動させる私にもそれは分からぬ。」


同族殺しは大罪だ。
水落の同族殺しについて『ジャッチメント』はどう判断するのだろうか。
ペンギンへ『ジャジメント』を使用するように目配せすると、コクリと頷いてきた。
空気が張り詰めている。
ペンギンが『カー』と無意味に目を見開いた。
——————ペンギンが『ジャッジメント』を発動した。


「ペンギンさん。水落の罪の重さはいかがでした?」
「水落は無罪確定となりました。」
「嘘!万里ちゃん。私、無罪だって!自由になれるよ!」


水落の頭上へ後光が落ちてきている。
やはり無実の裁定が下されたのか。
水落は歓喜の声をあげ万里の方へ駆け寄ろうとしたが、顔を強張らせ足を止めた。
無実の裁定が下されたにもかかわらず、万里に喜ぶ姿はなく無表情であったためだ。
その万里が水落に吐いた言葉は冷たく尖っていた。


「水落。お前は星運様を裏切るのか!」


万里の声には怒りが籠っている。
顔を強張らされている少女は、混乱している様子だ。
星運はようやく立ち上がり、水落の名前を連呼して泣き始めている。
その星運を完全に無視し、少女は恐る恐る万里へ言葉を返した。


「万里ちゃん。なんで怒っているの…」
「…。」


万里は水落の言葉に答えない。
少女は万里を慕っているようだが、何故、冷たい反応をとるのかは水落の心臓に巻かれていた2本目の鎖にその理由がある。
『ジャッジメント』にて万里の罪の重さを推し量れば、全てがはっきりするだろう。
足元にいるペンギンを見ると、コクリと頷いてきた。


「ペンギンさん。続けて星運と万里の二人へ『ジャッチメント』を発動させ、審判を行って下さい。」
「YES_MINE_MASTER!」


ペンギンが礼儀正しく頭を下げてきた。
そして星運の目がギラリと光っていた。
星運のその顔付きは、水落に『ジャッジメント』を行った際の様子と明らかに違う。
判決の結果を確信しており、物凄く悪い顔をしている。
万里の方は眉間にしわを寄せながら罪の重さを推し量る行為を拒む発言をし、その言葉を聞いていた星運が言葉を吐き捨ててきた。


「私に『ジャッジメント』をかける行為はやめてもらえませんか。水落が無罪なら、同じ立場である私も同じ結果になるはずです。」
「ふん。水落と万里おまえは同じ立場ではじゃあるはずが無いだろ。」


星運からの吐き捨てるような言葉を聞いていた水落が困惑している。
万里から無言で鋭い視線を送られている星運は素知らぬ顔をしていた。
星運の言ったとおり水落と万里は同じ立場ではない。
だが少女はその事実を知らない。
私から送ったアイコンタクトへ頷いた足元にいるペンギンが頷いた。


「三華月様の命令だ。お前達に拒否権はない。2人には『ジャッジメント』の裁定を下さしてもらう。」
「チッ!」
「うぉぉぉ。俺を無罪にしてくれたら何でもします。だから神様、よろしくお願いします。」


万里が舌打ちをした。
星運は神に祈っているようだが、その神から処刑命令が出ている。
あなたが無罪になることはありませんよ。
—————————ペンギンが星運と万里へジャッジメントを発動させた。
静まり返り、誰も口を開かない。
水落は両手を合わせて、何かを祈っている。
ペンギンより結果が告げられた。


「有罪が確定しました。2人は大罪を犯しております。星運と万里は2人共『無限回廊堕ちの刑』であると判決が出ました。」
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