ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第51話 抵抗する事なく…しました。

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砂漠の都市の気温が既に20度を超えていた。
街の外からカラカラに乾いている風が吹いてくる。
太陽光を遮断するように石の建物に囲まれた裏庭では万里はうずくまり、星雲はその様子を見てせせら笑っていた。
ペンギンは呆れた顔をし、四十九と水落は状況を静観している。

『思いやりゲーム』の2回戦が、今しがた終わったところだ。
結果は、星運と万里の2人共がお互いを思いやることができなかった。
この演出をした私へ、ペンギンが駄目な者を見るような視線を送ってきているが、悪党属性の者が持っている汚い感情を曝けだされたこのドラマがお気に召さなかったのかしら。
さて、星運と万里の処遇であるが、これで『無限回廊送り』が確定してしまった。
死力を尽くして戦い、抜け殻状態になっているように見える星運は、ペンギンが用意した黒金色の手錠に手を伸ばしていた。


「畜生。左手が使えねぇ。これでは手錠が嵌められねぇじゃないか。」


左手を運命の弓で撃ち抜かれ、包帯をグルグル巻きにして止血していたため、星運と万里は単独で手錠を付けることが出来ない状態になっていたのだ。
当然であるが、星運に関しては、思いやりゲームの3回戦をやる意志はない。
万里については、両膝をついて動けないでいた。
その2人の様子を見守っていた四十九が私の背中を『トントン』と叩き、プロテクトハートを付ける補助の申し出てきた。


「三華月様。アタシ、手錠つける、手伝いしてくる。」
「うむ。2人を手伝ってやるがいい。」
「ペンギン。調子にのるな。上から目線、禁止。でも、承知。」


魔界の少女が、まず万里の元へ駆け寄って行く。
四十九が黒金色の手錠をつける補助をするまでの展開は、想定していた通りのものだ。
最終局面が迫ってきている。
ここから間もなく最後のイベントが始まるのだ。
既にことが終了していると思っているペンギンは所詮AIであり、極限にまで追い込まれた『悪党』がとる行動までは、理解出来るはずがない。
そう。悪党とは、究極に追い込まれた状態まであがき続ける習性を持っている。
ペンギンがこちらに振り向き、視線を送ってきた。


「私にはあの2人が、まだ何かをしようとする気力はもう無いように思えます。だが三華月様には、何かこの先に起こる別の景色が見えているとでもいうのでしょうか?」
「はい、もちろんです。2人は観念した様子に見えますが、それは演技なのです。悪党とは最後の最後までもがくものなのですよ。今から四十九が、万里に黒金色の手錠をつけようとしますが、地面に落ちている刀を拾い上げ、四十九を人質にして『この女の命が欲しければ、私を解放するんだ。』と言ってくるはずです。」
「なるほど。そして、万里処刑の神託が降りてくると考えているのですね。」
「その通りです。ほぼ確実に神託が降りてくると肌で感じています。」
「やはりこれは、三華月様が信仰心を稼ぐための面白くない茶番劇だったわけですね。」
「面白くなかったですか。」
「はい。結果が見えていましたので。それはそうと、三華月様が予測したとおりの状況になってしまいますと。四十九の命を危険に晒す事になりませんか?」
「心配いりません。私は0秒で運命の矢を狙撃する事が出来ますので、四十九の安全は確保されています。これは誰にも不利益がない茶番劇なのです。」


もはや私を遮るものも、アクシデントが起きる事も無い。
現時点をもって、99%『MISSION_COMPLETE』をしたといえるだろう。
時を静止させて、運命の矢を撃ち放つ準備だけをしておけばいいのだ。
身体の筋肉を緩め、脳を水に溶かしていくように意識を集中させていく。
その時、ペンギンが斜め380度をいく報告をしてきた。


「三華月様。万里は抵抗する事なく四十九に手錠を付けられてしまったようです。」


信じられないことに、四十九が何事もなく万里に手錠を付けていた。
一体、何が起こっているのかしら。
続いて四十九が星運へ手錠を付け始めているのだが、特に抵抗する様子はない。
互いを罵り合っていた万里と星運は、生き残りを図るために共闘するものと予測していたが、その兆候が一切見受けられない。


「三華月様。星運も手錠をつけようとしている四十九へ抵抗していないようですよ。」


———————その時、神託が完了した知らせが降りてきた。
信仰心が上昇した。
クソ外道である星運と万里は、どうして四十九を人質に取らなかったのかしら。
私の思考を読みとっていたペンギンが少し呆れた口調でその答えを話し始めてきた。


「三華月様。星運と万里が『四十九を人質にしなかった』理由が分からないようですね。クソ外道の2人は、人質をとっても三華月様には無意味であると理解していたからですよ。既に三華月様に心をへし折られ、この聖女はマジでやばい、危険であると認識したのではないでしょうか。悪党とは、絶対に戦ってはいけない者を敏感に感じ取る習性があるのです。」





砂漠の気温が40度を超え、街にあふれていた者達が建物の中に戻り始めた頃、北冬辺号が星運と万里の2人を『無限回路』まで護送するため、ペンギンの呼びかけに応じて、砂漠の都市へ戻ってきていた。
ペンギンには、星運と万里の護送をお願いし、自由となった水落には帝国にいる聖女・藍倫の元へ行くように告げ、与えた馬車にて既に砂漠の都市から去っていた。


「ペンギンさんとはここでお別れです。」
「三華月様は、四十九を魔界へ送り届けるため城塞都市エインヘルヤルに行かれるのですね。」


城塞都市エインヘルヤルは帝国の山岳地帯に位置し、その地下にあるダンジョンにはレアアイテムを落とす強力な魔物が出現するため、世界中からトレジャーハンターが集まる都市として有名である。
そして最深部は魔界に繋がっているのだが、私のペンギン以外にその事実を知っている者はいない。
ペンギンが、不快なものが視界に入り気分を悪くしていた私に気が付き、声をかけてきた。


「三華月様。先ほどから顔を歪ませておりますが、どうかされたのですか。」
「私の視界の中に不快なものが入っておりましたもので。」


でっぷり親父である運転手がバスに体をもたれ、足をクロスしながら私に視線を絡ませて、ウインクしてきたのだ。
そのポースはイケメン以外がやったら駄目なやつだぞ。
ナイスバディの山茶花バスガイドについては、全く動いていない運転手のぶんまで働いている。


「ペンギンさん。一つお願いがあるのですが、『ジャッジメント』にてあそこにいる運転手の罪を推し測ってもらえないでしょうか。嫌疑は不倫です。」
「独身であるバスガイドとの仲を三華月様は疑っているのですね。」
「はい。女の敵ならば成敗しなければなりません。星運や万里の資質と比べたら粗悪品ではありますが、『神託』を降ろし小遣い稼ぎをさせてもらおうかと思っております。」
「承知しました。」


―――――――――『ジャッジメント』発動!


運転手の頭上に後光が差し始めている。
嘘だろ。
この後光は、無罪の時に降りてくる光だぞ。
この現実が受け入れられない。
ペンギンが『ジャッチメント』の結果を静かに告げてきた。


「三華月様、運転手は白でした。」
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