ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第70話　エロの力を舐めるなよ！

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加護を持たない者はけっして入いることが出来ないとされる城塞都市にある精霊通りの最奥。
無数に飛び回っている魔導の精霊がカラフルな光を放ち、真っ暗な空間内をキラキラと照らしていた。
張られている結界により商店街からの賑やかな音は遮断され、静寂の空間が広がっている。
白い砂利が敷かれている中に広がる影の池が、生物のようにうごめき、不気味な音を発していた。
その影の大きさは直径５０ｍ程度。
中央には、魔導の精霊達を守護しているというサーペントが影に絡めとられていた。
水面から頭部しか出ていないが、目測では体長２０ｍ、重量１０ｔ以上はあるだろう。
その頭部には影の発生元である魔界の少女、四十九が絡みついており、気持ちよさげに寝ている姿が見える。
暴走している影により体力を削り取られているのだろうか。
影の池に畔では、月姫がサーペントに針を引っかけて釣り上げようとそしているものの、それは少女の力で吊り上げられる代物ではない。
スキル『隠密』を発動させながら状況の確認をしていると、月姫と視線が重なってしまった。

「三華月様。見学していないで、早く四十九ちゃんを助けてあげてください。サーペントの重さを利用しながら、何とか釣り上げようと試みているのですが、私には『影』に引き摺り込まれないようにするのが限界のようです。」

『隠密』を発動している私の存在に気付くとは驚きだ。
サーペントの重さを利用して釣り上げるって、どういう理屈なのだろうか。
それは万有引力の法則を無視していることになるぞ。
月姫のＪＯＢ『たまねぎ』は、あらゆる装備品を使いこなせる特性を持っている。
仮にであるが、釣竿の性能を限界まで引き出していたとしても、重量が１０ｔ以上ある代物が引き摺り込まれようないように抵抗することなど、普通に考えても無理過ぎるだろ。
かもしれなと思っていたことだが、月姫は『チートキャラ』ではないかという疑惑が生まれてきた。

「三華月様。助けに来るのが遅すぎですよ。四十九ちゃんから溢れ出してくる『影』の量がこんなにも大きくなってしまったじゃないですか。」

何気に、助けに来るのが遅いと抗議をされてしまった。
確かに、ここに来るまで道草ばかり食っていたが、それはそれだ。
適当に謝罪をし、それらしい言い訳をしておけば、いつも通り乗り切れるだろう。
なんせ私は地上世界において最も尊敬される聖女なのだからな。
うむ。ここは私のために優しい嘘をつくことに致しましょう。

「遅くなってしまい、申し訳ありません。四十九が『影使い』を使いこなすための修行をする時間が必要と思い、あえてゆっくり来たのです。可愛い子には旅をさせろとか、ライオンは子供を崖から突き落とすと言うではないですか。」
「三華月様。５９話で私達が『影』に落ちていく様子を楽しそうに眺めていたようですが、本当に私達の事を思って行動しているのでしょうか。」

思ってもいない鋭い答えが返ってきた。
月姫は、闇へ引き摺りこまれていく四十九を必死に救出しようとしていた中で、私が楽しそうにしている姿を冷静にチェックしていたのか。
終わったことは仕方がないと言いたいところだが、それを言ってしまうと話しがややこしくなりそうだ。
ここは適当に話題を変えるべきだろう。
闇の池に引き摺り込まれそうになり、もがき苦しんでいるサーペントの頭の上で寝ている四十九を指さした。

「あそこ。サーペントの頭部に巻きついて呑気に寝ているように見える四十九ですが、健康状態は大丈夫なのでしょうか。」
「はい。まだ大丈夫そうではありますが、このままだと危険になっていくと思います。四十九ちゃんは、『影使いのコントロール、諦めた。三華月様、なんとかしてくれるまで、アタシ、昼寝して、気長に待つ。』と言っていました。」

大丈夫というよりは、まだ余裕が相当あるように思えてきた。
とはいうものの、承知しました。
ここまで来たからには、何とかしてみましょう。
ここまで来る間に、『影使い』の暴走を止める策について世界の記憶『アーカイブ』にて一応調べてきていた。
私が獲得している『闇耐久』を四十九に付与すれば、『影使い』への耐久力が上がるようだ。
問題は、この状況下において、どうやって『闇耐久』を付与するかである。
そう。四十九へ直接触れる必要があるのだ。
スキル『壁歩』の効果を使用すれば、広がっている影の水面を歩くことが出来るのだが、サーペントのように影に絡めとられてしまうだろう。
となると、飛び道具を使用するしかない。
ここは『転移』の効果を使用させてもらいましょう。

―――――――私はスキル『転移』を発動します。
宣言とともに四十九の胸に『転移』の魔法陣が刻まれた。
私の手を転移させ、四十九の体に触れ、『闇耐久』を付与するというスキームだ。
それでは、ことを終わらせて差し上げます。
もがき苦しんでるサーペントに巻き付いている四十九へ手を押し当てるために、すぐそこに浮かんでいる転移の魔法陣へ手を入れた。

届いているはずだが、手応えが無い。

魔法陣に突っ込んでいる手は、四十九に刻まれた魔法陣へ転移し、確実に触れているものの、そこには実態がないようだ。
それは、四十九の体が『影』に同化をし始めているということなのかしら。
魔界の少女は、物理攻撃と特殊攻撃の両方が通用しない状態になっているのかもしれない。
だとしたら、『月の加護』が届かないこのダンジョン内ではお手上げじゃないか。
―――――――ふと足元にいたメタルスライムへ視線を移すと、スキル『爆食』を発動させて、四十九が生み出した『影』をモグモグと食べ始めていることに気が付いた。

「あなた。『爆食』にて少しでも影を減らそうと、努力してくれているのですか。」
≪はい。僕は三華月様に嫁を紹介してもらいたいのです。そのためなら僕は何でもやらせてもらいます！≫

先程は、婚活に協力してくれと頼まれていたはずだが、いつの間に嫁の紹介をする話しになっている。
だが、『爆食』の効果についてはそれほどでもなく、影が減っているようには見えない。
メタルスライムはというと、苦しそうな表情を浮かべている。

≪畜生！僕のエロの力を舐めるなよ！≫

嫁の紹介から、今度はエロの力って。
あなた、馬鹿でしょ。
馬鹿な雄がいるのは、スライムも共通のようだ。
その時、月姫にジト目で見られている事に気が付いた。
そのジト目はあれですよね。
魔物へ話しかけている可哀そうな聖女だと思っているのですよね。

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