ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

文字の大きさ
81 / 142

第81話 このまま帰すのは本人の為にならないのでは?

しおりを挟む
(少しだけ話しが遡ります。)

迷宮でのドロップ品は、迷宮主からのものを除き、地上世界へ持ち帰ろうとしても消滅するようになっている。
だが、異世界から召喚された佐藤翔は、獲得していたチート級スキルの効果により、消滅するはずのアイテム品を地上世界へ持ち帰っていた。
その結果、S王国の市場へ継続的に大量供給されアイテム品が値崩れし、急激なデフレが始まることになる。
商業ギルドを始め、店が軒並み倒産し、冒険者達の姿もS王国内から減少していった。
そこで、事態を重くみたS王国は、佐藤翔へ接触を図ってきたのだった。

ここはS王国首都の大型レストラン。
真ん中の席には、黒色の革ジャンを着た髪のながいぽっちゃり体型の男が座っていた。
この男こそが佐藤翔である。
佐藤翔を護衛するように、5人の冒険者達がS王国の騎士団と対峙していた。
この5人は、異界の神を信仰する教徒達であり、そしてA級冒険者相当の能力を持っている実力者達だ。
王国が佐藤翔へ接触を図るためにやってきた騎士団と、一触即発のようなただならぬ雰囲気になっていた。
王国騎士団の数は100名程度。
A級が1人、残りはB級以下の実力だ。
数は多いものの、A級5名との戦力差は大きく、王国騎士団の者達は勝ち目がないことを理解していた。

店内の空気が殺伐としたものに変わっていた。
王国騎士団を代表するように、地位の高そうな年配の男が前に現れ、佐藤翔へ交渉を開始した。


「佐藤翔様。市場へ大量のアイテム品を流す行為を、しばらく控えていただけないでしょうか。」
「どういう事だ。俺は何も悪い事をしていないぞ。」


佐藤翔の認識は間違っている。
佐藤翔の行為は悪質なものであり、自身さえよければ良いという思考だからだ。
法を犯していなければ、何をしても問題ないと考えているのだろう。
それは過去に同じような事例が無かったため、法が整備されていないだけの事。
既にS王国では失業者が大量に生まれており、今後は餓死する者も出てくるだろう。
佐藤翔のやっている事は、法の網を掻い潜った虐殺行為なのだ。


「仕方ありません。佐藤翔様を拘束させてもらいます。」
「俺を拘束するだと!俺の自由は誰のものでも無いんだぜ!」


S王国騎士団は、異界の神を信仰する5人の前に、なすすべもなく敗北した。



(時間軸が戻ります。)

次元列車は海洋から、太陽が照り付ける草原地帯の中をのどかに走っていた。
窓を開けると草原の気持ちいい空気が入り、風に揺れる草の音だけが聞こえてくる。
動物や虫達がぐっすりと眠りこんでしまったかのような穏やかな午後である。

次元列車が佐藤翔宛てに書いた手紙がバイク便に渡され、既に6時間が経過していた。
車内には、佐藤翔が滞在する約2000km離れた建物の立体フォログラム映像が映し出されている。
空を周回する衛星達からリアルタイムで情報が送られてきているのだ。
ポストへ投函された手紙は、佐藤翔の取り巻きが建物内に持って入ったところまでは確認できている。
手紙には『佐藤翔様の周りにいる異界の神に仕える信者と今すぐ縁をきって下さい。』という一文が書かれており、その通りのアクションを起こそうとしても、佐藤翔に自身を支配・コントロールしている異界の教徒達をなんとか出来るとは思えない。
佐藤翔のために書いた手紙は何の効果もなく、説得工策は失敗に終わることは分かっている。
このまま、何らかのアクションが無ければ、予定どおり、ここから佐藤翔を狙い撃たせてもらいます。

だが予想に反し、立体フォログラム映像を見ていると、異界の神を信仰している信者達が慌ただしく動き始めていた。
もしかして、手紙を読んだ彼等は、私を迎撃するために備えるつもりなのかしら。
A級相当の冒険者が何人いようが、月の加護を受けている私からすると、F級相当と変わらない雑魚である。
人生に無駄なものは無いという言葉があるが、私への抵抗だけは例外だ。
心を込めて、無駄な抵抗お疲れ様という言葉をあなた達に贈ってあげよう。

運命の弓を召喚しようと考えた時、立体フォログラムに予期しない映像が映しだされていた。
佐藤翔の取巻きである異界の神を信仰する信者達が、物をまとめてS王国から出国の準備を始めていたのだ。
何が起きているのかしら。
どうして、出国しようとしているのだろう。
――――――――――神託が完了したお告げが降りてきた
信仰心に、変更なし。

なんてこった。
おそらく、現時点をもってS王国の未来を救うことが出来たのだろう。
だが、神託が降りてきたにも関わらず、信仰心を上げることが出来なかった。
佐藤翔本人には動きはないようだが、側近である異界神の信者が私の存在を恐れ、逃亡を図った結果、S王国は崩壊の危機を免れてしまったようだ。
チッ。
側近達が去ってしまったくらいで、S王国の崩壊を挫折しやがるとは、佐藤翔はウンコ過ぎだ。
少しくらい根性をみせて下さいよ。
いや。根性をみせようにも、元の世界で苦労をすることなく育ってきた者に、世界を変えることなど出来るはずもない。
でもまぁ、信仰心が減とならなかったのでギリギリセーフとしてあげましょう。
とはいうものの、チート級スキルを獲得しているボンクラをこのまま放置状態にしておけば、また何かをやらかしてくれるだろうと簡単に推測できる。
人から認められたことがない者は、承認欲求が満たされた快感を一度覚えてしまうと、駄目だと分かっていてもまた承認欲求を満たすために暴走してしまうものだ。
しばらく泳がせておいてあげよう。


「次元列車さん。あなたの書いた手紙のおかげで、S王国が崩壊する未来が変わり、神託が完了しましたので、もうS王国へ行く必要が無くなりました。」
「三華月様。僕の行先はS王国で変更ありません。このまま佐藤翔を放置しておくと、必ずまた何かをやらかします。僕が元の世界に帰してあげようと思います。」


佐藤翔は、放置しておくと必ず何かをやらかしてしまう存在であると次元列車は分かっているようだ。
次元列車の言うとおり、佐藤翔は獲得した『チートスキル』を破壊して、元の世界に帰してあげるべきなのかもしれないが、私としてはなかなかの逸材である異世界人はこのまま放置しておきたい。
次元列車を適当に説得してみようかしら。


「次元列車さん。佐藤翔のチートスキルを破壊して、駄目人間のまま元の世界に帰しても、それは駄目人間のままではないですか。元の世界へ帰すまえに、何とか力になってあげられないものでしょうか。」
「まぁ、それはそうですね。」


次元列車の心がぐらついている。
チョロいな。
ふっ。簡単に丸め込めそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...