ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第84話 俺様TUEEE

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見上げると空が雲に覆われ、湿った風が吹いている。
まもなく草原地帯へ雨が降ってきそうな天気だ。
羊達の群れに囲まれ立ち往生をしている一両編成の次元列車は、グラグラと揺らされていた。
列車内には、黒猫の姿をした魔獣が敵意をむき出しにし、こちらへ威嚇している。
過去、F美のいう者が異世界から召喚されてきた際に、一緒にやってきた黒ちゃんだ。
帝国で、殺戮を繰り返していたため、私が惨殺し、今しがた復活させたところである。
魔獣の心臓には『隷属の鎖』が巻かれ、逆らうことは出来ない私からのお願いに対して、俺様TUEEEを全開し上から目線の口調で反抗してきていた。


≪おい。下等生物の人間ごときの分際で、我へお願いなど許される事ではない。調子にのるなよ、聖女!≫


弱者である自覚が欠如しているようだ。
俺様TUEEEを言い換えると、俺ルールを他人に強要してくる者のこと。
本人は気持ちよくて仕方ないのだろうが、周りの者からすると迷惑としかいいようがない。
学校でカースト上位の陽キャラにその傾向は多くみられる。
満足気な表情を浮かべている魔獣の言っていることを無視し、2つのお願いを話し始めた。


「黒ちゃんさんには、お願いが2つあります。」
≪おい。聖女。お願いをするなら、跪いて懇願するのが常識だろうが。俺を舐めるのもたいがいにしろ!≫
「1つ目のお願いは、立体フォログラム映像に映っている黒マントを殺してきてください。」
≪あの映像の黒マントか。ふん、それくらいなら、まぁいいだろう。≫



安請け合い頂き有難うございます。
その黒マントは聖属性でないとダメージを与えられない死霊王だ。
更にいうと、世界を滅ぼす力をもっている。
あなたでは、絶対に勝つことはない相手なのだよ。
—————————魔獣が黒マントへ触れることが出来たなら、『ロックオン』と『転移』の魔法陣が死霊王に移る仕掛けを施していた。
絶対に勝てない死霊王に接触させるために、黒猫を復活させたのだ。


「黒ちゃんさん。もう1つ。大事なお願いがあります。」
≪なんだ。まだあるのか。いいだろう。聞いてやるので、言ってみろ。≫
「はい。あなたには、人をむやみに殺す事を禁止します。」
≪なんだと。我に下等生物の人を殺すなと言うのか!≫
「あなたはF美の元で、1000人以上の女・子供を殺しておりますが、それは卑劣な行為であり許されるものではありません。」
≪ふん。人間達も、馬車を襲う盗賊達が現れたら、我と同様に情け容赦なく、弱き盗賊達をいたぶり殺しているではないか。≫
「盗賊だからといってむやみやたらに殺す行為は、理由なき同族殺しに該当し大罪となります。」
≪そもそも弱き人間なんぞ、強き者の気分次第で殺しても構わない存在なのだろ。≫


F美は、モフモフと可愛がっていた黒猫が人を虫けらのように殺してきたことを知らない。
何故F美に従っていたかと言えば、それはF美の召喚獣であり、F美によって生かされていただけのこと。
帝国にいるF美は次元列車が造り出した立体フォログラム映像にて、今ここで交わされた会話を聞いているはず。
次元列車にて元の世界へ帰す前に、黒ちゃんの正体を教えているのだ。
さて、俺TUEEEを垂れ流す黒ちゃんの相手をするのが辛くなってきていた。


「黒ちゃんさん。そろそろS王国にいる黒マントを倒しに行ってもらえませんか。」
「我は黒マントを倒したあかつきには、心臓に巻かれている『隷属の鎖』を解除してもらうぞ!」
「承知しました。約束いたします。」
「我を解放した後は、F美の元に帰すことを約束しろ。」
「その件もお約束します。」
「いいだろう。それでは、聖女の頼みを聞いてやろう!」


魔獣・黒猫が、次元列車の窓から電光石火の勢いで飛び出した。
推定速度は時速200km程度か。
S王国までは最短で10時間で到達するだろう。
それでは、私の方は帝国にいるF美の元へ行くことに致しましょう。
羊の群れと格闘中の次元列車へ、行き先をS王国から帝国へ変更する願いをした。


「次元列車さん。行先を変更してください。」
「え。いきなり何ですか?」
「S王国へ行く前に、帝国へ寄道をして下さい。」
「構いませんが、どうして帝国に行かなければならないのでしょう。」
「こちらの世界へ召喚されてきたF美という者を、元の世界へ帰してあげようかと思っております。」
「まぁ、そういう事でしたら、三華月様を帝国まで送り届けましょう。」
「どことなく他人事のような発言に聞こえますが、異世界へ送り届けるのは次元列車さん、あなたの役目ですよ。」
「どういう事ですか。僕が異世界人を元の世界へ送り届けるのですか?」
「んんん。それは、あなたが生まれてきた使命なのではないですか。」
「そうなのですけど、まだ一度も異世界に行ったことがありません。」
「知っています。それがどうしたのでしょか。」
「いや。だから、いきなり言われても心の準備が出来ていないといいますか、僕はやるなんて一言も言っていませんよ。」


次元列車は何ごとも先送りにしようとする回避癖を持っていたことを思いだした。
1度先延ばしにしてしまうと、そのループは果てしなく続く。
やれやれ。自身で決断することができない次元列車は、私が尻を叩き強制的にやらせるしかないだろう。
本当に面倒な奴だ。
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