ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第104話 ペンギンvsイムセティ

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熱く湿った風が少し吹いていた。
穏やかだった海に波が出始めている。
空を覆う暗灰色の雲から糸のような雨が降ってくる中、旗艦ポラリスを操るペンギンと、力を失ったイムセティの戦闘が始まっていた。
鳥の姿をしたイムセティが真っ白な翼を広げて、旗艦ポラリスから1km程度の距離をとりながら、海上スレスレを旋回し始めている。
目測であるが、その速度は約200km。
雨しぶきが尾を引いていた。
想定していたより遥かに遅い。
その程度の速さなら、月の加護を受けない私でも、運命の弓にて余裕で撃墜できるだろう。
ペンギンが言う通り所詮は下級神の雑魚ということだ。
旗艦ポラリスの甲板に立っているペンギンは、ドヤ顔を浮かべながら気持ち良さそうに指揮棒を振るっていた。
機関砲の砲台が生き物のように動き、4本のマストに張られている帆を器用に操っている。


「これよりこの特級下僕であり、四天王の一翼を担うこのペンギンが、くそ生意気な三流神のクソ雑魚を、三華月様の世界から排除させて頂きます。」
「よろしくお願いします。」


その顔を見ると、自己陶酔していることごよく分かる。
私の世界というところを否定したいところではあるが、いちいち相手にするのが面倒だ。
ここは適当にお付き合いさせてもらいましょう。
ペンギンの振るう指揮棒に呼応するように、ポラリスの主砲の砲台、連射用の機関砲が器用に動いていく。
ポラリスが波を斬り裂く音が聞こえてくる中、ペンギンが指揮棒を勢いよく突き出しながら叫んだ。


「FEUER!」


同時に主砲が火を吹くと、大気に轟音が響き、発射した反動で甲板が揺れる。
弾道は僅かな放物線を描いていき、約1秒後イムセティへ着弾した。
空気抵抗、風量を計算仕切らないと、標的に命中させる事は不可能だ。
さすが最古のAIで参賢者の一角だと言えるだろう。
被弾したイムセティは黒煙が昇り墜落していく姿が見える。
遅れて、着弾した音が伝わってきた。
足元で指揮棒を振るいドヤ顔をしているペンギンが、こちらへ視線を送ってきている。


「これは私の力量の片鱗です。浮遊都市グラングランでは三華月様にボロカスにやられてしまいましたが、実際はこれくらいのことなら余裕で可能なのです。」
「さすがペンギンさん。ですが、奴はまだまだ元気のようですよ。」


遠くから怒りの入り混じった雄叫びが聞こえてきた。
イムセティの咆哮だ。
とはいえ、ペンギンにコケにされて激怒していると想像がつく。
ダメージは負っているものの、トドメを刺すまでには至っていない。
ペンギンが私の方へ向き直り、ドヤ顔を継続しながら優雅に頭を下げてきた。


「あの三流神がこれくらいで死なないのは想定内です。三華月様の期待にお応えさせて頂くことをお約束致します。」


ここまでは想定内ということか。
そういえば、移動都市グラングランでの戦闘では、私が想定外な行動をしたと言って激怒していたかしら。
裏を返せば、予測外の事態に弱いということなのではなかろうか。
この航海にかんしてもそうだ。
目的地である七武列島近海に出没するという伐折羅海賊への対策に、主砲を改造するまではいい。


「ペンギンさん。ここまでの展開が想定内であるのは理解しました。」
「何ですか。その引っ掛かるような言い方は。」
「はい。この海域の深海にいるクラーケンへの対策も想定して頂いていたなら、この旅はもっと楽になっていたかと思います。」


私からの言葉に、ペンギンのドヤ顔が一変した。
目が『クワッ』と見開いている。
これは定型の切れる前兆だ。
案の定といった感じで、言葉を強めてきた。


「三華月様が信仰心を稼いでいるうちに自ら望んでトラブルを引き寄せる不幸体質になられたと聞きました。つまりですね、その不幸体質に巻き込まれてこのラグナロク領域に迷いこんでしまった私の身にもなって下さいよ!」


ペンギンが深いため息をつきながら首を振っている。
おいおいおい。
ここに来てしまったのは、あなたが次元の狭間を見つけてしまい、考え無しにそこに飛び込んでしまったせいだろ。
私の体質は関係ない。
そう。トラブルを引き起こす体質である可能性が強いあなたに、そんな事は言われたくない。
向こうでは、ダメージは負いながらも、イムセティは旗艦ポラリスから更に距離を保ち、海上スレスレを旋回し始めている。
安全なエリアからポラリスへ突進するタイミングを測っているようだ。
ペンギンも同じ考えを持っているようで、最終局面が近づいていることを促してきた。


「フィナーレを迎えようとしております。どうぞ、私の活躍を刮目していて下さい。」


ポラリスを中心に海上を時速200kmで旋回していたイムセティが、進路方向を変えてきた。
―――――――――海上を走る旗艦ポラリスへ突進してくる。
突撃してくる者を狙撃する事は結構難易度が高い。
接近してくる標的を撃ち落とすことは、遠近感が掴みにくく、技術的に難しいからだ。
更に、攻撃されるという精神的なプレッシャーも重なるため、失敗する確率が高くなる。
だが、冷静な様子のペンギンを見ると、これも想定の範囲内だった感じだ。
ペンギンが指揮棒を細かく振ると、連射を最優先に設計されていると思われる8門の機関砲が突撃してくる標的へ照準を向けた。
凄まじい速度で既にイムセティがそこまで迫ってきている。

突撃してくるイムセティから、衝撃波が至近距離にて飛ばされてきた。
直撃を受けるとポラリスは崩壊するほどの威力がありそうだ。
ペンギンは、想定の範囲内の攻撃なのだろうか、ドヤ顔を崩すことなく気持ち良さそうに両手を広げると、ポラリスの周囲を護るように結界が展開されていく。
船体が揺らされるものの、障壁がイムセティから繰り出される衝撃波を防いでいる。
そして今度はペンギンが叫んだ。


「FEUER!」


イムセティの動きに合わせて、8門の機関砲から連射され始めた砲弾は、展開されている障壁をすり抜けていくと、頭上を通過していく標的を確実に捕らえていく。
鳥の姿をしていたイムセティは無数に被弾し、全身を蜂の巣にされその原型が分からい状態へなっていった。
マジか。力を失ったとはいえ、圧倒的に弱過ぎる神ではないか。
既に元の形が分からなくなった物体は、力なく浮島へ不時着していた。
ペンギンが更に指揮棒を大きく振ると、風を捕らえているポラリスがゆっくり浮島の方へ回頭を始め、ドヤ顔をこちらへ向けてきた。


「三華月様。それでは三流神が我々に命乞いをする姿を拝見しに行きましょう。」
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