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しおりを挟む「おい、ゆずる」
「ん?なに、兄ちゃん?」
皆で仲良く夕食を食べた後、四人分の汚れた食器を洗っていると、麦焼酎が入ったコップを片手に持った兄ちゃんに声を掛けられた。
「今からコンビニに行くからお前も一緒に来い」
「え?あ、うん。いいよ」
この時間帯ならあまり人も居ないだろうから人目は気にしないで済む。それに丁度もうすぐ食器も洗い終わるし、久し振りの外出も悪くないと感じたので、俺は兄ちゃんの言葉に一も二もなく頷いた。……だけど、そんな俺とは違って、母さんと父さんはどこか心配そうに声を掛けてきた。
「こんな遅くに?もう22時過ぎるわよ?明日にしといた方がいいんじゃない?」
「あははっ。大丈夫だよ、母さん。俺もう二十歳過ぎたことちゃんと覚えてる?もう子供じゃないよ」
「私たちからしたら、いつだって可愛い子供よ」
「……俺が手も離さず、傍に居るから大丈夫だ」
「…………そーう?じゃあ、勇斗のその言葉を信じてるわ」
「――ああ」
「それじゃあ、父さんと母さん、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい、気を付けろよ」
兄ちゃんは先程母さんに言っていた通り、馬鹿みたいに大きな手で、水で濡れて冷たくなった俺の手を強く握り締めてきた。俺も数週間ぶりの外出に少しドキドキしながら、兄ちゃんの手を握り返す。
一日中ずっと家に居ると全く分からなかったけれど、外に出れば風が冷たくて心地良く感じる。それに季節が変わったようで、俺の大好きな金木犀の匂いがふんわりと香ってきた。
「さむっいね、兄ちゃん!!」
「……あんまりはしゃぐなよ」
「だって、だって!久しぶりの外出なんだからテンションも上がるよ!しかもさぁ、この時間帯だから車も歩行者も居ないしさー、まるで俺と兄ちゃんしかこの世に居ないみたいだよね!」
「……ああ」
基本的に俺は外に出ない。……というよりも、一人では外に出ることはない。
だから家族の誰かと、もしくは皆でお出かけする時くらいしか外に出ることはないから余計に嬉しくて仕方がない。
「というか、母さんも父さんも心配性過ぎるよね。俺もう22歳なのにさぁ」
「………………」
「あっ。もう父さんと母さんも見てないと思うから兄ちゃんも手離していいよ?」
「……駄目だ」
「えー!?じゃあさ、コンビニ行く前にあの大きな公園に連れて行ってくれる?」
「ああ」
「やった!兄ちゃん、ありがとう!!」
「…………」
―――父さんと母さんだけでなく、俺に口煩い兄ちゃんまでもが俺に過保護な理由は分かっている。
それは俺が六歳の頃に、見知らぬ人に誘拐されたことがあるからだ。
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