真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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真梅雨

謎の二人 2019/6/22

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2019 6月22日。梅雨。

「………………っは!」
 
 私は目を覚ました。どうやらベッドに寝かされていたようだ。そういえば、あの後、私は気を失って倒れたのだった。身体を起こそうとすると、関節が嫌に重い。思い返してみると、夜中に動物を殺し始めてから、まともに夜寝たことはなかった。身体中に疲れを感じる。中でも、特に目(、)の疲労が激しい。目を開けているだけでヒリヒリと痛む。

「ここは、どこ……」
 私は誰? というのは、幸い分かる。

 一度布団から完全に抜け、ベッドに座りなおす。いつのまにか、血だらけになった制服から、病院で着るパジャマのようなものに着替えさせられていて、身体も清潔に洗われていた。床には、折り畳まれた新聞紙や、女性もののカーディガン、何かの資料らしきものが散乱している。状況を知る手掛かりになるかもしれないと、資料と思われる紙を拾おうとした、ちょうどその時、ベットに付属していたカーテンが、ガラガラと開けられた。

「気が付いたか」
 そこには、赤い髪の男がいた。モデルのようなスタイルをしたその男は、なかなか容姿も悪くない。大学生くらいだろうか。

 ただ、白を基調とした、この静かな部屋には不釣り合いに見える。一見、保健室のようにも思えるここは、しかし、診察室のようでも、研究室のようでもある。少なくとも、済栄マリアの保健室でないことは確かだ。済栄の保健室には、イエスが病人を癒す場面の宗教画が飾られているから。

 男は、無言で水の入ったグラスを渡してくる。私のことを気遣ってなのか常温の水は、不味い。でも、喉が渇いていたため、それを一気に飲み干す。一つ息をついて、沈黙したまま私を見下ろす男に、話しかけてみることにした。警察にしろ、病院にしろ、ヤバい所にしろ、ここがどこか分からなければ何も始まらないのだ。

「あなた、名前は? ここはどこなの?」

 男は私の問いを無視し、そっぽを向くと、カーテンの開いておらず、私の死角となる方へと顔を向けた。

「マイさん、こいつ、意識が戻りましたよ」

 マイさん? 私の見えないところにもう一人誰かいるのだろうか。名前から察するに女性だろう。床に落ちているカーディガンは女性の物で、背の高いこの男には着られないだろうから、不審に思っていたところだ。持ち主だろうか。それにしても、見える範囲だけでも、部屋は随分と散らかっていた。

 カーテンのまだ閉じられていた方をガラガラとスライドさせて、今度は、金髪の白衣を着た女性が入ってきた。雰囲気は普通じゃないけど、美形だ。ただ、雰囲気は普通じゃない。なんだかとても怪しい。女性は、舐めるように私を一瞥すると、グロスの塗られた細い唇を開いた。

「やっほー、起きたかい? どうだい目覚めは」
 女の目は優しく細められている。

「最悪よ。身体が重いし、どこかわからない場所で、誰かわから無い人たちと一緒なのだもの」
 ちょっとした小言を言ってやると、女は、アハアハと笑い出した。男は無表情のままだ。
「ははは。そうか、そうか。それもそうだな」
 
 私は、女性をむっと睨みながら尋ねる。
「ていうか、あなたたち誰なの。警察? 病院の人?」
「残念ながら、そのどちらでも無い」
 
 なるほど、じゃあヤバい人たちか。普通じゃない状況下におかれているはずなのに、不思議と驚きはなかった。自分もとっくにヤバい人になっていることを知っているから。もっとも、私がヤバい力を使うために溜め込んだものは、ついさっき勝手に発動されてしまい、そのストックは尽きているのだけど。だから、今は、普通の女子高生となんら変わらない。

「警察が最初に出てくるってことは、何か悪いことでもしちゃったのかな?」
 女は、私の顔を覗き込む。女の問いに、私は、さきほどの光景を思い出す。裂けたハラワタ。転がる眼球。地獄絵図。吐き気を催し、咄嗟に口元を抑える。なんとか耐えて、嘔吐することはなかった。

「あ、あなたたちには関係ないわ」
 私は、二、三咳込みながら答えた。
「そう」
 猫を撫でるような温かい声音。実際に、彼女は、スラっとした腰を曲げると、私の頭を優しく撫でる。次いで、白く細い指で私の頬にそっと触れると言った。
「でもね、そういう訳にもいかないの。お話聞かせてもらうわね? 真梅雨ちゃん」 

 その手も声も、とっても柔らかいのに。なぜだか、その言葉には有無を言わさぬ強制が感じられた。

 当たり前のように私の名前を掌握しているあたり、とってもヤバいお姉さんたちなんだろうな。




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