真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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真梅雨

殺人世界 Ⅲ

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丁寧な言葉を選んでいる場合ではなくなってしまった。

「早く! 私の前から消え失せて!」
 
 グラリ。視界が捻じ曲がる。
 私は、もう一度叫ぶ。

「早く! 早くして!」
 
 私の気迫に押されてか、彼女は、口を開けて呆然としている。状況が呑み込めていないのだろう。無理もない、私も正確には理解できていないのだ。どうして、こんな急に。
 
 グラリ。

 トンボの目を回すときの指みたいに、私の視野は、渦を巻き始める。だめだ。間に合わないかも。でも、こんなの初めて。どうして、私の意志に反してイキナリ。
 
 そして、ついに。
 
 自動的にその眼が開いた。

 視界は一転、クリアになった。ダメだ制御できない。ダメ! ダメだそれだけは。私の願いも虚しく、溜め込んでいた、“死の概念”と、私がそう呼ぶものが、空を漂う。半透明な青白い靄のようなソレは、どんどんと集合していく。必死に霧散させようと試みるが、それは叶わない。

「くっそ、言うこと聞いてよ!」
 
 クッキーでかたどったヒト型のような形を流動的に成すと、モワモワしたソレは、真っすぐに彼女の方へと伸びていく。彼女には、見えていないのだろう。彼女の身体にも、同じような形が浮かび上がる。丁度彼女のラインを簡略化したみたいな人型。これも、彼女には見えていないだろう。
 
 止まれ。止まれ! 止まれ止まれ!
 
 そう念ずるも無意味。
 
 流動運動をしつつも人型を維持する“死の概念”は、彼女の身体に浮かび上がった人型に、だいたいハマった。隙間もあれば、飛び出している部分もある。しかし、アバウトにはまるだけで十分。それが合図だ。
 
 彼女の身体は、頭や腹、間接を中心にブクブクと膨れ上がり、肉体を維持できなくなると、最後は、肉だるまのようになり爆散した。
 
 破裂音。

私は、咄嗟に顔を手で覆う。はじけた彼女の身体のどこかが、肉塊と化し、私の腹に、ずしりという質量を伴って当たる。あまりの痛みに、腹を抑えてうずくまる。彼女との距離が離れていなければ、私も巻き添えで死んでしまっていただろう。
 
 私のそこかしこに、彼女の血が染み込み、彼女の皮膚だったであろうものが張り付く。彼女がいた場所は、血と肉で真っ赤な山が出来ており、血溜まりというには、あまりに水溜まりのようで無く、それは、お皿に残されたミートソースのようにドロドロとしている。
 
 ポタリ、ピチャ。ポタリ、ピチャ。
 
 水滴の落ちる音がする。校舎は建て替えて比較的新しく、雨漏りはしないはずなのに。天井を見ると赤い斑点。滴っているのは、赤黒い鮮血だった。
 
 どうしようもなく鉄臭い教室で一人。

「はは、はははは……」 

 私、今、人を殺した?
 
 ガクガクと震えていた膝は耐えられなくなり、膝から私は崩れ落ちる。何か転がってきて、私はそれを拾いあげる。充血した眼球。何か繋がっている。目の筋肉だろうか? 蛍光灯が何故だか消えて昏くなり、私はそこで気を失った。
 
 人殺しだけは、してなかったのに。

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