真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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能力発現

梅雨入り Ⅱ

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 済栄マリア学院高等部は、お昼休みの時間だ。普段は比較的静かな特進クラスの二年一組も、昼休みは、会話や笑い声が絶えず賑わいをみせる。特に今日は、朝方に止んだ雨が昼前にその勢いを強めて再び降り出したために、いつもなら中庭や屋上で昼食をとる生徒たちも、皆教室にいるので、いつもより音が多い。
 私は、楽しそうなクラスメイトの笑顔を見るのが嫌いじゃない。かくいう私も、いつもの友人と一緒に弁当をつついているのだが。

「今日から、梅雨入りだってぇー。やになっちゃうよぉー」
 そう言って腕を伸ばし、ガクシと机に頭をのせる少女の名は、御手洗京香。地毛のショートの茶髪が、パサリと机にかかる。

「そうですね。最近は異常気象も多いですから。例年どおりの梅雨になってくれればいいのですが」
 返事をしたのは、城ケ崎直子。トレードマークの丸メガネが、彼女の大きな瞳をより一層大きく映し出していた。

 京香は、一組では珍しく、かなり明るい性格をしている。人懐こく、活発で運動神経が抜群だ。近くの松川東高校で、女子サッカー部の練習に混ざっているほどだ。
 直子の方はと言えば、一組の中でも落ち着いた方。大人っぽく、勉強も得意で、クラスメートから慕われている。趣味は読書ということで、私とは読書仲間であるのだが、読んだ本の冊数も知識も、てんで敵わないでいた。

 よく懐いたワンコみたいな京香と、落ち着き払った狼みたいな直子が、親の付き合いがあったからとは言え、初等部からの大親友だというのだから、世の中分からないものである。そんな二人の輪の中に、高等部から済栄に入った私も混ぜてもらったというわけなのだけど。

 ふと、何かもの凄い視線を感じると思ったら、京香がこちらを、ジトーっと見ていた。
「どうしたの、京香?」
「真梅雨ちゃん、直子。お弁当の具、一個ずつ頂戴」
 見ると、京香の昼食のクリームパンは無くなって、パッケージだけになっていた。京香の家は裕福なはずなんだけど、親の教育方針で中学生くらいのお小遣いしかもらえない彼女は、常に貧困で喘いでおり、昼食を安く済ませたい日などは、私や直子にオカズをせがんでくる。
 相変わらずのジト目でこちらを見てくる京香。私は、あーん、と口を開けている京香に、唐揚げを一つ恵んでやる。京香は、恍惚とした表情でモグモグすると、幸せそうに飲み込んだ。

「おいしい! やっぱ真梅雨ちゃんは料理上手だぁ。はい、直子も何か一つ」
 再び、小さな口を目いっぱいあーん、と口を開ける京香。
 直子は、それを無視し、すっと弁当箱の蓋を、京香の方へと滑らすと、その上にミニトマトを一つ置いた。まさかのミニトマトというチョイス。それも、ヘタのついたまま。

「どうぞ」
 感情の籠もらない声で直子が言う。

「…………。直子、そういうところだよ。そういうところ」

 京香は、恨めしそうな目で直子を見つつも、ミニトマトを口に放り込む。

「あ、なかなか美味しい。やっぱり、直子はミニトマトの栽培上手だねぇ」
「いいえ、普通に市販のトマトです」

 妙な沈黙。

 二人のガタガタなやり取りに、私は、とうとう笑いを堪えきれなくなり吹き出す。すると、二人が息ぴったりにこちらを、むっとした目で振り向くものだから、可笑しくて、私はもう一つ笑った。

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