真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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能力発現

梅雨入り Ⅲ

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 一日の授業が終わって、下校の時間になった。私の隣では、水色と白の水玉ドット柄をしたかわいい傘を差す京香。私のビニール傘とは大違いだ。直子も誘ったが、図書館に用があるとのことで振られてしまった。家から学校までの距離が近い私は徒歩通学で、家が割と遠い直子と京香は、路面電車と普通の電車を乗り継いで帰るけど、路面電車の駅までは徒歩だ。
 
 愛姫の高校生は、自転車通学生が圧倒的に多いのだけど。自転車は、もちろんロロコ。ロココっていうのは愛姫県でだけ大ブレイク中の少しお高めの自転車のことで、体感では愛姫の高校生の八割くらいがこの自転車を愛用している。クラッシックで気取らないデザインと、光沢あるメタリックな質感が愛姫の高校生のハートを掴んで離さないのだろうか。私も、高校の駐輪場にズラリと並ぶロロコのマークを最初に見た時には驚いたものだ。ちなみに、京香と直子も、雨の降らない日は、家から駅まではロロコで通学しているそう。入学祝に買ってもらったのだと、一年生の時に京香は語ってくれた。中学生の頃は、ロロコに乗った高校生とすれ違う度に、将来自分がロロコで街を疾駆する姿を想像しては高校生に憧れていたんだとか。いけない。私も少し欲しくなってきた。
 ロロコは、ひとまずおいといて、そんなわけで、希少な徒歩勢の私たち三人は、よく帰りをともにするのだ。

 
 雨足は今日最高に強くなっていた。夜には嵐になるって話だけど、今でも、大雨警報くらい出ているのではないだろうか。これには、京香も参っているようだ。

「うわー、靴下がびしょびしょ。気持ち悪いよー」
「そうね。確かに気持ちのいいものでは無いわ」
 ローファーの中で、湿気で蒸れた足と、濡れた靴下という組み合わせは最悪。

「明日、学校休みにならないかなぁ」
「無理でしょうね。嵐は夜のうちに通り過ぎてしまうもの」
「ええーー。神ぃーー」
 京香は、ガクリと肩を落とし項垂れる。気持ちは分からないでも無い。休校と聞いて喜ばない学生は少ないと思う。不謹慎だけど、私もその一人であるし。

「あ。真梅雨ちゃん、ここ真っすぐだよね」
 アスファルトに跳ね返る雨粒を見ながら歩いていた私が、京香の声に顔を上げると、いつも京香と直子と別れるT字路まで来ていた。
「そうね。バイバイ、気をつけてね」
「うん! 真梅雨ちゃんも」

 そう言って私に手を振ると、京香は土砂降りの中、何故だか傘を閉じて走っていった。何がしたいんだろう? 京香は、元気な子ではあるけど、普段は、こんな奇行に走ることはない。立ち止まり、遠くなる京香の後ろ姿を眺めながら考えていると、思い当たった。この雨で、部活に混じってやっているサッカーが出来なくなって、ストレスが溜まっていたのだろう。うずうずする身体に、理性が勝てなかったってわけか。

 ドジな京香が、滑ってこけてしまわないか心配で、その影が見えなくなるまで見送った。

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