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能力発現
梅雨入り Ⅴ
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土砂降りの雨の中を、こころもち速足で歩く。靴が濡れるのもお構いなしだ。一人図書館に残り、お目当ての本を探していたが、その本はとうとう見つかられなかった。なんたって三部作の真ん中だけが抜け落ちているのだろう。先に誰かに借りられていたとうのなら納得もいくが、調べてみると単に済栄の図書館が蔵書していないだけだった。高い学費をくすねているだけのことはあり、済栄の図書館はなかなかのラインナップを誇っているから、こういうことは珍しい。
そんなに人気の作家じゃないし、随分前に出版されたものだから、恐らく松川市の書店では取り扱われていないと睨んだ私は、まだ可能性のありそうな古本屋を巡ることにした。そうなると、急がなくてはならない。個人経営の古本屋は、閉店の時刻が、書店よりは早いだろうから。
いつもは右に曲がるT字路まで来たが、今日は一軒目の古本屋めざして真っすぐ直行だ。とりあえず一部と三部は借りてきたけれど、どうせ二部を買うなら全部そろえようかと、そんなとりとめのないことを考えているときだった。
道端にカエルが一つ。
よく見ると息をしていない。状態は綺麗で、一見しただけでは、生きているのか死んでいるのか分からない。死因は何だろう。寿命? カエルには詳しくないのだけれど。それとも、勢いよくジャンプしすぎて塀に頭をぶつけたショックで気絶してしまったのだろうか。
かわいそうに。済栄マリア学園に通っているからといってクリスチャンでは無い私は、南無南無、と心の中で弔っておいた。別に、敬虔な仏教徒であるわけでもないのだけれど。
それから五、六歩あるくと、少し先に、また何かの死体。さっきのアマガエルとは対照的に、元の生物が何であったのか分からないほどに死骸は破損している。今度は、かわいそうというよりも、気持ち悪いという感想が先にきたけど、何の死骸だか、変に興味がそそられたので、こちらも少し観察してみることにする。
カエルの前足が見受けられたため、恐らくカエルの死骸だ。しかし、何ガエルかは、判断がつきかねた。それにしても不思議な死に方をしている。最初、車に轢かれでもしたのかと考えたが、死骸の状態からしてどうやらそうではないらしい。卵だけ、潰れずそのまま残っているのだ。
平等主義の私は、カエルの親子にも南無阿弥陀仏を唱えておいた。
絵画じみていた。済栄の廊下の宗教画を彷彿とさせる。
ひどく切ない。
哀感を体現するその光景は、しかし、どうしよもなく美しい。
二匹のカエルの変死体なんかより、よっぽど奇妙な光景。
間隙なく降り頻る雨の中、傘も差さずに一人、公園のベンチに座る少女。
その顔色は、濡れた前髪の陰になり窺い知れないが、見紛うはずもない。こんな美少女を、私は一人しか知らないのだから。
――小崎真梅雨は、
嵐で岸辺に打ち上げられた人魚姫のようだった。
どういう状況か分からないけど、気が付いたときには駆け寄って声をかけていた。
「小崎さん? どうしたんですか?」
「え……?」私の声に、小崎さんは顔を上げる。「……直子?」 小崎さんは、虚ろな目をしていた。「どうして……。どうして、直子がここに?」
普段の彼女からは想像もできないような精気の無い声で、呟くように尋ねる小崎さん。どうしてここに、と問われれば本を買いにいくからここにいるのだが、今はもう、そんなことはどうでもいい。
「どうしては、こっちのセリフです! 何をしているんですか! ついて来てください」
そう言って私は、彼女の放っていた傘を強引に彼女の右手に持たせると、逆の手を握って無理矢理に彼女を引っ張っていく。
とりあえず、事情の確認は後だ。傘もささずに、こんな雨の中にいたら風邪をひいてしまう。
そんなに人気の作家じゃないし、随分前に出版されたものだから、恐らく松川市の書店では取り扱われていないと睨んだ私は、まだ可能性のありそうな古本屋を巡ることにした。そうなると、急がなくてはならない。個人経営の古本屋は、閉店の時刻が、書店よりは早いだろうから。
いつもは右に曲がるT字路まで来たが、今日は一軒目の古本屋めざして真っすぐ直行だ。とりあえず一部と三部は借りてきたけれど、どうせ二部を買うなら全部そろえようかと、そんなとりとめのないことを考えているときだった。
道端にカエルが一つ。
よく見ると息をしていない。状態は綺麗で、一見しただけでは、生きているのか死んでいるのか分からない。死因は何だろう。寿命? カエルには詳しくないのだけれど。それとも、勢いよくジャンプしすぎて塀に頭をぶつけたショックで気絶してしまったのだろうか。
かわいそうに。済栄マリア学園に通っているからといってクリスチャンでは無い私は、南無南無、と心の中で弔っておいた。別に、敬虔な仏教徒であるわけでもないのだけれど。
それから五、六歩あるくと、少し先に、また何かの死体。さっきのアマガエルとは対照的に、元の生物が何であったのか分からないほどに死骸は破損している。今度は、かわいそうというよりも、気持ち悪いという感想が先にきたけど、何の死骸だか、変に興味がそそられたので、こちらも少し観察してみることにする。
カエルの前足が見受けられたため、恐らくカエルの死骸だ。しかし、何ガエルかは、判断がつきかねた。それにしても不思議な死に方をしている。最初、車に轢かれでもしたのかと考えたが、死骸の状態からしてどうやらそうではないらしい。卵だけ、潰れずそのまま残っているのだ。
平等主義の私は、カエルの親子にも南無阿弥陀仏を唱えておいた。
絵画じみていた。済栄の廊下の宗教画を彷彿とさせる。
ひどく切ない。
哀感を体現するその光景は、しかし、どうしよもなく美しい。
二匹のカエルの変死体なんかより、よっぽど奇妙な光景。
間隙なく降り頻る雨の中、傘も差さずに一人、公園のベンチに座る少女。
その顔色は、濡れた前髪の陰になり窺い知れないが、見紛うはずもない。こんな美少女を、私は一人しか知らないのだから。
――小崎真梅雨は、
嵐で岸辺に打ち上げられた人魚姫のようだった。
どういう状況か分からないけど、気が付いたときには駆け寄って声をかけていた。
「小崎さん? どうしたんですか?」
「え……?」私の声に、小崎さんは顔を上げる。「……直子?」 小崎さんは、虚ろな目をしていた。「どうして……。どうして、直子がここに?」
普段の彼女からは想像もできないような精気の無い声で、呟くように尋ねる小崎さん。どうしてここに、と問われれば本を買いにいくからここにいるのだが、今はもう、そんなことはどうでもいい。
「どうしては、こっちのセリフです! 何をしているんですか! ついて来てください」
そう言って私は、彼女の放っていた傘を強引に彼女の右手に持たせると、逆の手を握って無理矢理に彼女を引っ張っていく。
とりあえず、事情の確認は後だ。傘もささずに、こんな雨の中にいたら風邪をひいてしまう。
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