真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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能力発現

殺害衝動 Ⅱ 2019/6/14

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2019 6月14日。梅雨。

 時計の針は、かなり前に深夜0時を回った。私は、小雨になった夜の街を歩く。目的は、ヒト以外の生き物を見つけること。
 あの後、直子の家から帰った私は、いつも通りの日常を送った。夕食を作り、食べる。お風呂に入りなおす。高校の課題を終わらす。読書をする。いたって普通の生活。
 一度は、自分の身に降りかかった怪奇現象に取り乱してしまった私だけど、直子のお陰で平常心を取り戻した。夢ではないけれど、寝たら、私に取り入った超能力なんて、消えて元通りになっているかもしれない。自分の中の本能は、それは絶対に無い、と告げるけれど、でも、唐突の理由なき腹痛なんて、私の場合、一晩寝たら治ることがほとんどだったし、京香だって、先生に怒られて一日中いじけてても、次の日の朝には、その先生に元気に挨拶をするくらいだ。今回だって、ぐっすり眠れば何てこと無かったってこともあるかもしれない。

 寝られなかった。

 お弁当と朝食を作って学校へ行く支度をしても、時間に余裕のある朝にしたい私は、毎朝五時には起きる。これは休日も同じで、その為にいつも大体、十一時半には就寝するようにしており、遅くとも十二時過ぎには、必ず寝床に入っていた。

 それなのに、今日に限って全く睡眠欲が沸いてこない。化粧台のデジタル時計は、一時過ぎを表示している。

「寝つきは悪くないはずなんだけどな」

 枕に顔をうずめてみても、眠気を催す気配は無い。それどころか、思考はどんどん鋭くなり、意識ははっきりと覚醒していく。加えて、身体が変に疼く。

「もう、なんだってのよぉ」

 眠ることを諦めた私は、一人愚痴をこぼすと、頭をガシガシと掻く。化粧台の上のリモコンに手を伸ばし、部屋の電気をつける。ピッ、という電子音。LEDが発光するのに、私は目を細めた。

 何だろう……この感じは。

 自身の身体につきまとう違和感を飲み下そうと考え、台所へ向かいグラスに水道水を適当につぐと、一息に嚥下する。しかし、そんなことでは、違和感は拭い去れなかった。

 なら、雨で流すしかない。

 私でない真梅雨が、そう言った気がした。
 何となく制服に着替えた私は、小雨の街へと玄関の扉を開けた。

「ほんと、何してるんだろ私」

 右手に握られたナイフが、マンションの光を白銀に反射した。

 今から真梅雨が何かを殺すのが、はっきり分かる。

 私は、私――真梅雨が生き物を殺すのを律することが可能だが、私はそうしない。だから、私が殺しているのだろう。私は殺害衝動に駆られていないが、私は殺害衝動を抑えようとはしない。
 
 
 二重人格ではない。
 二が、それぞれ一を抱えているのではない。
 自己矛盾ではない。
 一が二を抱えているのではない。

 これはズレだ。一に生じた不和。

 一は、ただ一だけを内包している。
 
 ゆえに正常(、、)。その正常が、異常なだけで。


 冷静な殺害衝動は、狂気の内にあるのではない。私は、行為に酔ってはいない。だから、この衝動はひどく平静だ。私は、落ち着きに浸っている。

 行為は熱に浮かされたものでは無く、行為は、ただ冷静な目的への過程である。ただ、どうして、こんな目的を抱いてしまっているのかだけがどうしても分からない。

 目的は、やはりあの能力に起因する。

 体得してしまったものは、使いこなさなくてはいけない。数学の公式と一緒だ。えらく非科学的なものの扱いが、科学の根幹を成すものと同じ扱いだなんてのは、アイロニーだけど。

“死の概念”の公式を、見つけ出してやる。

 それが、今夜の徘徊の目的。見つけた生き物を片っ端から殺して、“死の概念”を発生させる。私が生き物を殺した瞬間に、昨日の下校中、一匹目のカエルを殺した時みたいに、“死の概念”が生まれることは、身体が分かっていた。それなら、見つけた生き物を殺していけば、“死の概念”が何たるかも自ずと分かってくるだろう。例えば、昨日抱いた、カエルの“死の概念”で猫を殺せるのかという疑問にも答えが出せるはずだ。ちょうど、ここら辺は、猫の多い地域だ。

 ふと、どうして自分がこんなことを冷静に思考しているのか不思議に思った。でも、もういいんだ。どうせ、普通に生きることが叶わないなら。

 あるいは、今引き返せば、偽りであったとしても普通の生活を取り戻すことは可能であるかもしれない。なんせ、私の罪は、カエルを二匹殺しただけなのだから。何の刑にも処されない。

 でも、今からやろうとしていることは違う。言うなれば、私は殺戮を犯そうとしているのだ。多分、今ここで、踵を返さなければ、私はヒトを名乗る権利を完全に喪失する。

 しかし、私は歩みを止めようとはしない。
 
 その在り方は、まるで、誘蛾灯に誘われる蛾のようだ。
 ――――制御できない本能で引き寄せられて。
 ――――最後には、破滅する。
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