真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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不思議なお遣い

朝 2019/6/23

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2019 6月23日。梅雨。

 ガサガサ。
 慌ただしい音に目を覚ます。

「もう……。うるさいなぁ」
 スマートフォンで時刻を確認しようと、目を瞑ったまま、化粧台に手を伸ばす。

「ん、ん。……あれ?」
 寝ぼけた頭で一生懸命に携帯を探る手は、空を切る。いつもなら、すぐに見つかるのに。仕方がないので、視力を回復させようと目を擦ったところで思い出した。

 そっか、ここは、慣れ親しんだ自分のマンションじゃなかった。そういえば、変な二人組に拉致されてたんだった。しかも、潜伏先は瀬斗内海を越えて廣島ときた。まったく、今日は日曜日で学校が無かったからよかったものの。

 考えて、はっとした。あ、私、遂に人を殺しちゃったんだった。何を学校のことなんて気にしているにだろう。抜けちゃってるな、私。
 いっそ、もう一回眠ってやろうかとも考えたけど、紙類を捌いているようなガサガサという音がけたたましく、そういう気にもなれなかった。

 何をしているんだろう。私はカーテンを開けた。ガチャガチャと、カーテンのフックが鳴る音とともに蛍光灯の光が入ってきた。

「おはよう、真梅雨。起きたかい?」
 カーテンの鳴る音に反応して、舞田峰子がこちらを向く。何やら紙の束を抱えている。江藤海斗も似たような状況で、さっきの音の原因はこれだろう。

「起きたというより、起こされたのよ。朝から、何をやっているの?」
「ああ、それは悪かったね。見ての通り、紙の資料を整理していたんだよ。まだ八時だ。眠たいようなら、まだ寝てていいぞ」
 峰子は、作業の手を止めずに返事をする。

 八時か。寝すぎたな。最初に目覚めた時まで、ずっと眠っていたというのに、今朝も、ちょっとお寝坊してしまうなんて。そんなに疲れが溜まっていたのだろうか。それとも、能力が憑依したことによる副作用みたいなものなのだろうか。

「遠慮しておくわ。そういう気分じゃないし。それより、洗面所みたいな所は無いのかしら。顔を洗いたいのだけど」
「そういうことなら……海斗、すまないが案内してやってくれないか」

 峰子に私の案内を頼まれた江藤海斗は、嫌な顔を隠そうともせずに私の方を見ると、彼の立っている場所のすぐ傍(そば)の扉を開けた。
「こっちだ」
 いかにも面倒くさそうに、顎で指図してくる。
 この男は、女の子の扱い方を分かっていない。いくら顔が良くても、これじゃあモテないだろう。極端に口数も少ないし、年下の美少女を前にして緊張しているから、こんな態度しか取れないのだとしたら、可愛げもあるけど。

「昨日の今日で、随分とリラックスしているようだな。ふてぶてしい女」
 前言撤回。コイツは、なかなかに憎たらしい奴だ。

「悪かったわね、ふてぶてしくて。確かに、いきなりこんな所に幽閉されて、もっと警戒するべきなのかもしれないけど、いつまでもビクビクしててもしょうがないでしょ? すぐに危害を加えられる様子もないし。それに、もう、取りあえずは何もかもどうでもいいのよ。……その、人も一人殺めてしまったわけだし」

 自分の口から零れた言葉に、自分で軽く絶望する。
 江藤は不思議そうな顔をしていた。

 部屋から出ると、通路は病院の廊下のような造りになっていた。しかし、そう広い建物では無さそうだ。それに、朝も八時だというのに、建物の中は薄暗く、蛍光灯に照らされていた。

 先行していた江藤は、十メートルくらい歩いた所で立ち止まった。
「ここだ。トイレも一緒」
 相も変わらずの気だるげな声。

「それはそれは、
 
 江藤の背に向け、あっかんべー、してやる。

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