真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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心象世界

廃墟の上で

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 見渡す限りの廃墟。使われなくなってから、かなりの時間の経過を感じさせるビル群が、その肌を風化させ、エントランスからも窓からも、ぽっかりとガラス素材だけが失われていた。それが眼球をくりぬかれ目の周りのくぼみが陰っているミイラを連想させる。唯一色彩を持つ赤い電波塔は、上部が斜めに切り込みを入れられたように折れており、切断面を真正面から見ると丁度台形に見えるだろう。一定の基準を超えた高さを持っていたと予想される建築物は軒並み超過部分を決壊させていて、遠くに見える、比較的原型をとどめているのであろうスカイスクレイパーの一つだけが、灰色の曇天を衝いていた。
 
 私たちは今、江藤海斗の能力の中――江藤海斗の見る夢の中に居た。

「これ、本当に江藤の夢の中なの?」
 ビルの屋上から足を投げ出し、呑気にプラン、プランとさせている舞田峰子に尋ねた。今日は、いつもの白衣は着ておらず、黒のタートルネックにジーンズというラフな服装で、彼女の細いボディーラインを強調しており、よく似合っていた。憑依者として能力を行使している江藤は、まだ準備があると言って、どこかへ行ってしまった。

「ああ、そうだよ。驚いただろう。私も初めて体験したときはびっくりしたよ」

 今夜、私は峰子に言われるがままに睡眠薬を飲むと、大量の段ボール箱を力技で施設に運び込んだ疲れもあってか、コロリと眠ってしまったはずだった。すると、いつのまにかここにいた。正確に言えば、私の身体はベットの上で横たわっているはずなのだが、私の意識だけがこの世界――江藤の夢の世界に引きずり込まれた。

 電車の中で聞いた江藤の能力。自分の夢を思うままに創造して、任意の他人を引きずり込む能力。ただ、この世界は、夢というにはあまりにも作り込まれていて、風景は違えど、コンクリートや空の雲、アスファルトから、私たちの体まで、どれをとってもその質感は現実の世界のものと何ら遜色ない。

 加えて、意識は、日中に普通に生活している時と変わらないくらいに鮮明で、嗅覚や痛覚まで存在するようだ。ほっぺたをつねって痛くても、ここは現実でなく夢であるらしかった。夢の中に引きずり込まれたというよりは、どちらかといえば、異世界にワープさせられたような感覚だ。
「夢にしては、ずいぶんの出来じゃない。ただ、それにしても、何なのよ、この風景は。どうみても普通じゃないわ」

 私は、峰子の隣に座った。もういちど、眼前に広がる景色を眺める。周りにあまり高い建築物がないこともあり、私たちのいる四階くらいの建物の屋上からは、かなり遠くまで見渡せた。しかし、どこまでも、うらびれた街が続くだけで、生命の姿は見受けられない。まるで、人類が消滅したあとの世界を見ているようで、希望が無い、そんな感想を抱かせる。

「そうだね。普通の人間が創る世界じゃない。ただ、海斗は七歳の時には、既にこの世界を構築していた。本当に、子供が考えるような世界じゃない……。私と父が、七歳の時に海斗を孤児院から拾ったって話はしたんだったっけ?」

「電車の中で海斗から聞いたわ。――峰子のお父さんが夭折したって話もね……」

「そうか」
 峰子は、目を細める。遠くを見ているようで、その実何も見ていないような目。少しの間そうして、一度まばたきをすると、継いだ。

「それじゃあ、テストの内容は、眠る前に話していた通りだ。覚えているね? 君の能力がどんなものか私たちが実際に見て確認するためのテストだ。思う存分にやってくれ」
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