この学園では個性的なキャラを演じてください、と言われたので「遅刻」ばっかしてみた。

七槻夏木

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はじまりの春

千川宗三

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 四月一日。今日から私立傘信かさの学園は新学期だ。全寮制のこの学園は、愛媛県の山間部に位置する。寮は学園の敷地内に存在するが、傘信学園、略して傘高かさこうは広大な土地を有するために、授業棟までそれなりに歩く。

 通学路である寮から校舎までの遊歩道は、遅咲きの桜が満開だ。その下に所狭しと咲き乱れる菜の花の甘酸っぱい香りも芳かぐわしい。優しい太陽の日差しが空気を温め、鳥たちはさえずり、モンシロチョウはパタパタと飛んでいる。

 まさに春。新学期の始まる今日。校舎へと続くこの小道を歩く人間は俺の他に見受けられない。そして誰もいなくなった。それは、クリスティの名作。と、ひとり心の中でツッコミを入れる。

 通学路に一人。そんな俺は。

 そう、遅刻だね。

 そうこうしていると、三年生の靴箱のある昇降口に辿り着いた。靴箱を見ると、他の生徒の上靴は無くなっている。

 もう既に登校しているのだろう。まぁ、1時間遅れて登校したので当たり前なのだが。

 だ。

 丁度今、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。俺がこのままゆっくりと歩けば、ホームルーム開始2分後に教室へとつくだろう。


 そして、俺が前方のドアから教室に入ると、クラスメートに笑われ、担任の優しい美穂先生から軽く咎められるだろう。

 そんなコトを考えながら、俺は少し軋むドアをゆっくりとスライドさせながら教室へと入る。

 教室は一瞬静まり、視線がこちらに集まる。

「う、ういーす」

 俺は、少し気まずそうに挨拶して教室に入る。挨拶は基本だよね。

千川ちがわのヤツ、また遅刻してきやがったよ」

 クラスメートのお調子者で変態の壁岡かべおかはじめがそう言うと、教室が笑いに包まれる。

「こら!千川くん、遅刻です!先生心配しましたよ!始業式から遅刻するなんて、気が抜けてるんじゃないですか!さあ、早く席に着きなさい」

 担任の先生が、可愛らしくほっぺをぷくーと膨らまし、括られた茶色のポニーテールをゆさゆさと揺らしながらあざとく注意する。

 可愛い。俺たちの入学と一緒に教師になった若い女性教師で今年から三年目の付き合いだ。可愛い。

「そうだぞ、千川。美穂ティーの言う通りだ!」

 そう言うのは尾上連太郎おのうえれんたろうチャラチャラしたウェイ男だ。

「その呼び方はやめなさいといっつも言ってますよね、先生って言いなさい!」

 チャラ男尾上おのうえを先生がたしなめる。

「美穂ティーのティーは、ティーチャーのティーですよ!」

 そういい返したチャラ尾上を制止したのは、壁岡だ。

「おい、バカ、尾上!この前、美穂ティーのティーは、パンティーのティーにした方が興奮するって話したばっかだろ!」

「~~~~~~~~~~!!!」 

 それを聞いた美穂先生が恥ずかしさで顔をりんごの様にあからめた。

「こらーーーーーー!!!」

 教室がどっと笑いに包まれる。そんな馬鹿なやりとりを横目に、俺は教室の時計に目を向ける。時計は、ホームルーム開始から丁度二分を指す。

 ほらな、計算通りだろ?

 めんどくさい始業式をサボり、ホームルームにも少し遅れることで遅刻をアピール。しかし、遅刻時間は最小限に抑え、新学期からの情報を聞き漏らさないようにする。さらに、ホームルームのはじめに会話のきっかけを作り、クラスの和やかなムードを演出するアシスト。

 この完璧な遅刻。

 そう、俺のキャラは遅刻キャラだ。
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