上 下
15 / 22
厨二と作家とシャーロキアン

体育の球技と生理の周期 ②

しおりを挟む
「千川君は、何か出たいのある?」

 隣の席の佐藤さつきから話掛けられる。突然のことに曖昧な返事をしてしまった。

「いや、まぁー、うん。とりあえずは考えてない」

「そっか。私も一緒だよ」

 そう言って、ニコニコしながら、佐藤は左右にフリフリと顔振っている。さながら、嬉しい時にワンワンがしっぽをピョコピョコと振っているようだ。

 佐藤のふわふわ具合に俺はドキドキしてしまい、心臓がバクバクする。今年で三年目だが、どうしても佐藤には慣れずに、アセアセしてしまう。

 その後、佐藤ととりとめもない話を少ししていたら十分が経ったようだ。学級委員の二人が前に出た。

「じゃあ、まずは一番数が多い、男子のサッカーから行こう。出たいヤツは手挙げてくれ」

 尾上が、ピシッと両手を挙げる。いや、片手にしろよ……。うぜぇ……。

 その他にもチラホラと手が上がり始める。最後には九人ちょうどになった。意外にもすぐに決まった。俺は、一応書記の係を仰せつかっているため、手早く名簿に丸をつけていく。

 ちなみに、寮でのクラス会議に遅れたら勝手に書記にされていた。めっちゃショッキングだった。書記だけに。

「うん、ちょうどだね。次、男子のバスケ、挙手してくれるかい?」

 小佐野、壁岡と、テニス部の飯田いいだ啓介ケイスケが手を挙げる。小佐野はサッカー部に所属しているため、必然的にバスケとなる。

 壁岡は、手を挙げるのに飽きたのかバスケのシュートのジェスチャーをする。すごく鬱陶しいな……。

「誰か男子で、あと二人やってくれる人はいないか?居ないなら、ジャンケンになるけど……」

 そう言いながら、小佐野は俺の方に左目で小さくウインクしてくる。え、?何?怖いんだけど。

 俺に出ろって?でも、なんで俺?別に俺、運動神経月並みだし。理由を考えていると、思い当たる節があった。それなら、仕方ないと俺は手を挙げる。最初から、どうしても嫌って訳でもなかったからな。

 それを見て、小佐野は満足そうに頷く。

「お、宗三君、ありがとう。感謝するよ」

「お、宗三やるぅ~。あ、でも遅刻すんなよー!」

 尾上がいつもの様に茶々を入れてクラスの視線を集めている間に、小佐野はこっちを見て、右手で小さくスマンとする。白々しいやつ。

 あと一人は、ジャンケンで帰宅部の米田よねだ理気りきに決まった。

 小佐野が俺にウインクした理由は、勿論俺のコトが好きだからじゃあない。これには、江波が関わっていると考えるのが自然だ。なぜなら、俺と小佐野の最近の接点といえば、あの夜、江波の部屋に呼ばれたことくらいしか考えられないからだ。

 あのまま、ジャンケンになっていたら、江波が負ける確率が四分の一であった。それは、何か探偵っぽいことをしたいという江波の計画の妨げになる可能性がある。最優秀クラスになる条件に球技大会の結果も加味される以上、出場する場合はそれなりに練習に時間を有するからだ。そこで俺が手を挙げることにより、江波がジャンケンで負ける確率を七分の一まで減らしたという訳だ。

 それに他の誰かがサッカーの時のように後から手を挙げる確率も低かったのだろう。バスケの方が人数が少ない為に、一人あたりの運動量や責任が増えるからだ。それを見越して、さっきサッカーに後から手を上げた人が居たんだろう。

 力になると決めた以上、俺もできる限りのことはしてやりたいしな。その気持ちは小佐野も同じなのだろう。
しおりを挟む

処理中です...