死神と呼ばれた魔法騎士は、傷モノの女王の腕の中で人間になる

はすみ

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第4話 魔法殺しの巣、斜陽の剣(大陸暦2916年)

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敵国領内、深夜。

山間に隠された巨大な施設。
外壁には魔力妨害装置が何十基も並び、
内部では対魔法使い兵器の試験音が低く響いている。
蒼章は魔力媒体の剣を握り、
療術士の黎真は後方で魔力感知の術式を展開していた。

「……ここが“魔法殺し”の巣か」

「妨害波が強烈だ。
 蒼章、魔力の流れがもう乱れ始めてる。
 抑えるから、まだ突っ込むなよ」

「分かってる。
 お前が整えてくれれば十分だ」

蒼章の首で、王家の血の呪いが発動している。撤退は許さないとでも言うように。
黎真は蒼章の背に手をかざし、魔力の乱れを丁寧に整える。

「はい、安定。今なら全力で行ける」

蒼章は短く頷き、雷を纏った。
施設の外壁に設置された自動砲塔が、
蒼章の魔力反応を捉えて旋回する。
「砲塔、右上。
 動力の熱量上昇……発射準備だ」

黎真の声は冷静だった。自分の魔力を極限まで絞り、敵の魔力反応探知を逃れ、蒼章の目の脳の役目に徹する。

蒼章は雷光とともに走る。

砲塔が火を噴く。
魔法障壁は妨害波で薄くなっている。

「蒼章、左から徹甲弾!避けろ!」

蒼章は地面を蹴り、
雷の残光を残して弾丸をすり抜ける。

だが――
敵の兵器は魔法騎士を殺すために作られている。

足元の地面が爆ぜた。

「地雷……!」

蒼章の身体が浮く。
その瞬間、黎真が叫ぶ。

「衝撃吸収、展開!」

透明な膜が蒼章を包み、
爆風の衝撃を殺す。

蒼章は着地しながら笑った。

「助かった!」
「助けなきゃ死んでるよ!」

黎真は自分に飛んできた破片を捌きながら返した。



施設内は金属の匂いと油の臭いが混ざり、
巨大な兵器が並んでいた。

• 魔力を吸い取る“吸魔装置”
• 魔法障壁を貫通する“振動弾”
• 魔力器官を破壊する“音響砲”
• 魔法騎士の動きを封じる“拘束ワイヤー”

蒼章は眉をひそめる。

「……全部、魔法使いを殺すための兵器か」

「だから止めるんだよ。ここを潰せば、前線の被害が減る。」

黎真の声は静かだが、強かった。

奥の部屋で、巨大な音響砲が起動した。

魔力妨害波が一気に強まり、
蒼章の魔力が暴れ出す。

「くっ……!」

雷が暴発し、蒼章の腕に火花が散る。

黎真は即座に叫ぶ。

「魔力流、乱れ最大!
 蒼章、止まるな!
 止まったら魔力が逆流する!」

蒼章は歯を食いしばり、
前へ踏み込む。

黎真は全魔力を治癒に回し、
蒼章の魔力器官を守る。

「安定……安定……!
 よし、行け!!」

蒼章は雷を一点に集中させ、
音響砲へ突撃した。

剣が兵器を貫き、妨害波が止む。

施設全体が一瞬、静寂に包まれた。
銃を構えた敵兵が雪崩のように押し寄せる。

魔法騎士は銃弾に弱い。
魔法障壁はまだ薄い。

「蒼章、右から五人!
 銃の熱量上昇、発射くる!」

蒼章は雷光とともに走り、
銃弾の雨をすり抜ける。

「反動ダメージ、胸部に集中してる!
 治癒入れる、止まるな!」

黎真の治癒魔法が蒼章の身体を走り、
筋肉の裂傷を瞬時に修復する。

蒼章は速度を落とさず、
敵兵の間を駆け抜けた。

剣が閃き、銃を弾き飛ばす。

蒼章は最後の兵器に雷撃を叩き込み、
施設全体が爆発的に崩れ始めた。

黎真が叫ぶ。

「蒼章、撤退!崩れるぞ!」

蒼章は黎真の腕を掴み、
雷光とともに外へ飛び出した。

背後で施設が炎に包まれる。



蒼章は肩で息をしながら、
剣を地面に突き立てた。

「……終わったな」

黎真は蒼章の腕に触れ、
残った反動ダメージを治癒しながら、
眉をひそめる。

「……やっぱり、無理してるだろ。」

蒼章は答えず、ただ視線を遠くへ向けた。
敵国の煙が、薄く空に溶けていく。

「黎真。
 ……最近、敵の兵器、変わってきていると思わないか。」

「思う。
 前より硬いし、魔力の干渉も受けにくい。」
蒼章は静かに頷いた。

「周辺国の技術は、日ごとに進んでいる。
魔法に頼るうちの国とは違って、あいつらは寿命が長いから蓄積が効く。個人の才能も関係ない。努力すれば、誰でも扱える兵器を作れる。」

黎真は苦い顔をした。

「……つまり、いつか俺たちの魔法が通じなくなるってことか。」

「そうだ。」

蒼章の声は淡々としていたが、
その奥に沈む重さは隠しきれなかった。

「今はまだ、私の魔力で押し切れる。だが……いつまで通用するか分からない。
新兵器が完成すれば、私でも止められないかもしれない。」

黎真は蒼章の横顔を見つめた。

「……お前、怖いのか。」

蒼章は少しだけ目を伏せた。

「怖いさ。私が倒れたら、次は響玲が前線に立つ。あいつは強くなる。
だが……あいつに“寿命を削る戦い”をさせたくない。」

黎真は拳を握った。

「蒼章。お前が全部背負う必要はない。」

蒼章はかすかに笑った。
その笑みは、弟には絶対に見せない種類のものだった。

「背負わなければ、国が持たない。
 ……それが分かっているから、余計に怖いんだ。」

風が吹き、蒼章の黒髪が揺れた。
緑の瞳は、遠くの空を見つめている。

「黎真。
 ……もし私が通用しなくなる日が来たら、そのときは――」

「言うな。」

黎真が遮った。

「そんな日、来させない。 
お前が倒れたら、この国は終わりだ。
響玲も……壊れる。」

蒼章は何も言わなかった。
ただ、胸の奥に沈む不安を、ほんの少しだけ黎真に預けた。

療術士である黎真は、蒼章よりも、おそらく響玲よりも長く生きる。それが慰めだった。
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