8 / 26
第二話
再び、記憶
しおりを挟む
大人になって、黒川さんに再会したのは、本当に偶然だった。
今の職場に転職する前、小さい建築屋さんの営業事務をやっていた時期があった。
従業員はそれほど多くはないけど、営業の人たちは私と同世代が多くて、そこそこ楽しかった。
でも、ちょっと頑張りすぎたのか、身体を壊して辞めることになってしまった。
その頃の髪は肩まであって、髪の重さに引きずられるように、性格も今よりも暗かった。
体調が落ち着くまで、引きこもりの日々が続いていたけれど、少し時間はかかったものの、なんとか転職先が決まった。
それが今の販売の仕事だ。
最初は髪を縛って仕事をしていたものの、どうにも邪魔で仕方がなくなり、ついには、久しぶりに髪を短くしようと思った。
ずっと通っていた美容院の担当者が辞めるという話を聞いていたので、せっかくタイミングだし、新規開拓と思って飛び込んだお店にいたのが、黒川さんだった。
といっても、最初から担当してもらえたわけではない。
その時は、若い女性スタッフの方にやっていただいたのだ。大人しい感じの方で、ほのぼのした話し方をしていたのが印象に残ったので、次も来よう、と思ったのだ。
二度目に行った時、その時は予約をしていったのだけれど、その日は彼女がお休みだった。
でも、どうしても切りたい気分の私は、そのまま予約をしたのだけれど、その時、代わりに担当したのが黒川さんだった。
その彼から言われたのだ。
「もしかして、うちの近所にいた、杏子ちゃんかな?」
最初は何を言ってるかわからなかった。
少しずつ話しながら、『六年生の黒川のお兄ちゃん』なのがわかった。
正直、当時のことはあまり記憶にはないせいもあって、すぐにはわからなかった。
だいたい、名前と顔がまったく一致しなかったのだ。
目の前にいるのは三十代の黒川さんだし、私の記憶では、いつも後ろをついて歩いてたせいもあって、せいぜい『大きいお兄さん』程度。
しかし、三十代といっても、実際にはもう少し若く見えた。
私とたいして変わらないんじゃない? と思うほどだ。
一方で、黒川さんにしてみても、私のことなど『小さい子供』、くらいの記憶だったのじゃないだろうか。
それなのに、大人になった私のことを、その『小さい子供』と繋げて考えるなんて、スゴイと思う。
考えられるのは、最初に来た時に顧客カードを作るのに、住所を書いた記憶はあるから、そこから判断したのかもしれない。
たかだか一年間だけ、一緒に通学してただけなのに、覚えていてくれた。
それが、少しばかり嬉しかった。
今の職場に転職する前、小さい建築屋さんの営業事務をやっていた時期があった。
従業員はそれほど多くはないけど、営業の人たちは私と同世代が多くて、そこそこ楽しかった。
でも、ちょっと頑張りすぎたのか、身体を壊して辞めることになってしまった。
その頃の髪は肩まであって、髪の重さに引きずられるように、性格も今よりも暗かった。
体調が落ち着くまで、引きこもりの日々が続いていたけれど、少し時間はかかったものの、なんとか転職先が決まった。
それが今の販売の仕事だ。
最初は髪を縛って仕事をしていたものの、どうにも邪魔で仕方がなくなり、ついには、久しぶりに髪を短くしようと思った。
ずっと通っていた美容院の担当者が辞めるという話を聞いていたので、せっかくタイミングだし、新規開拓と思って飛び込んだお店にいたのが、黒川さんだった。
といっても、最初から担当してもらえたわけではない。
その時は、若い女性スタッフの方にやっていただいたのだ。大人しい感じの方で、ほのぼのした話し方をしていたのが印象に残ったので、次も来よう、と思ったのだ。
二度目に行った時、その時は予約をしていったのだけれど、その日は彼女がお休みだった。
でも、どうしても切りたい気分の私は、そのまま予約をしたのだけれど、その時、代わりに担当したのが黒川さんだった。
その彼から言われたのだ。
「もしかして、うちの近所にいた、杏子ちゃんかな?」
最初は何を言ってるかわからなかった。
少しずつ話しながら、『六年生の黒川のお兄ちゃん』なのがわかった。
正直、当時のことはあまり記憶にはないせいもあって、すぐにはわからなかった。
だいたい、名前と顔がまったく一致しなかったのだ。
目の前にいるのは三十代の黒川さんだし、私の記憶では、いつも後ろをついて歩いてたせいもあって、せいぜい『大きいお兄さん』程度。
しかし、三十代といっても、実際にはもう少し若く見えた。
私とたいして変わらないんじゃない? と思うほどだ。
一方で、黒川さんにしてみても、私のことなど『小さい子供』、くらいの記憶だったのじゃないだろうか。
それなのに、大人になった私のことを、その『小さい子供』と繋げて考えるなんて、スゴイと思う。
考えられるのは、最初に来た時に顧客カードを作るのに、住所を書いた記憶はあるから、そこから判断したのかもしれない。
たかだか一年間だけ、一緒に通学してただけなのに、覚えていてくれた。
それが、少しばかり嬉しかった。
0
あなたにおすすめの小説
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる