13 / 26
第三話
シャンプー
しおりを挟む
美容室に着いた時、受付にいたのは、この前、シャンプーをしてくれた野村さんだった。
「珍しいですね。黒川さん、指名されないなんて」
「あ、ちょっと、すぐに切ってもらいたくて」
「でも、黒川さん、今日は大丈夫みたいですよ?」
ニッコリ笑う野村さん。
黒川さんがフリーなのは、いつもなら嬉しいはずなのに、今日は少し微妙な気分になって苦笑いが浮かんでしまう。
「いらっしゃいませ」
背後から聴こえたのは、黒川さんの柔らかい声。
いきなりだったから、肩がビクンッと震えてしまう。
「こ、こんにちわ」
ふりむくと、今日もステキな笑顔の黒川さん。
私、ちゃんと笑えてるかな。
結局、黒川さんに案内されて、鏡の前の椅子に座る。
「今日は、どうしますか?」
やっぱり、そのまま黒川さんが担当してくれるらしい。
鏡越しに見れば、たぶん、大丈夫、なんて少しだけ思ってたけど、やっぱり笑顔が固い自分が、真正面にいる。
「え、えと。そろそろ気分転換に、髪型変えようかなって」
「いいですね」
そういいながら、私の髪に触れる彼の手。
耳をかすめたその手は、冷たくて、心地いい。
「でも、もうちょっと長さが出てきてからのほうがいいかもしれませんね」
「あ、やっぱり、そうですか?」
「ええ。ちょっと、この長さだと、まだ何もできないっていうか」
こういう時にこそ、気分を変えたかったけど、長さが足りないと言われれば、仕方がない。
「まずは、少し伸ばしてからにしましょうか。そうだな、来月くらいなら、少しは変えられるかも」
来月になれば、私も変われるかな。
とりあえず、毛先だけ整える感じに、という話になった。
「じゃあ、シャンプー台へどうぞ」
他のスタッフさんもいるみたいだけど、今日は、黒川さんがそのままシャンプーしてくれるらしい。
大きな手が、ギュッギュッと私の頭をもみほぐす。
やっぱりシャンプーは、男の人の力強い手の方が気持ちがいい気がする。
「……何かあった?」
黒川さんが、小さな声で、優しく聞いてきた。
さすがに、涙腺が緩みそうになる。
「何もないですよ?」
「……そう? ……なんだか辛そうだけど?」
ガーゼ越しに、顔が歪みそうになる。
――そんなふうに優しく言うから、辛くなるんです。
やっぱり、来なければよかったかな、そんな思いが頭をよぎる。
「き、きっと正月疲れです。仕事、忙しかったから」
「……そっか、お疲れ様」
この想いもシャワーで流れ去ってくれればいいのに、と思うけど、実際は、そんな簡単には流れてはくれなかった。
「珍しいですね。黒川さん、指名されないなんて」
「あ、ちょっと、すぐに切ってもらいたくて」
「でも、黒川さん、今日は大丈夫みたいですよ?」
ニッコリ笑う野村さん。
黒川さんがフリーなのは、いつもなら嬉しいはずなのに、今日は少し微妙な気分になって苦笑いが浮かんでしまう。
「いらっしゃいませ」
背後から聴こえたのは、黒川さんの柔らかい声。
いきなりだったから、肩がビクンッと震えてしまう。
「こ、こんにちわ」
ふりむくと、今日もステキな笑顔の黒川さん。
私、ちゃんと笑えてるかな。
結局、黒川さんに案内されて、鏡の前の椅子に座る。
「今日は、どうしますか?」
やっぱり、そのまま黒川さんが担当してくれるらしい。
鏡越しに見れば、たぶん、大丈夫、なんて少しだけ思ってたけど、やっぱり笑顔が固い自分が、真正面にいる。
「え、えと。そろそろ気分転換に、髪型変えようかなって」
「いいですね」
そういいながら、私の髪に触れる彼の手。
耳をかすめたその手は、冷たくて、心地いい。
「でも、もうちょっと長さが出てきてからのほうがいいかもしれませんね」
「あ、やっぱり、そうですか?」
「ええ。ちょっと、この長さだと、まだ何もできないっていうか」
こういう時にこそ、気分を変えたかったけど、長さが足りないと言われれば、仕方がない。
「まずは、少し伸ばしてからにしましょうか。そうだな、来月くらいなら、少しは変えられるかも」
来月になれば、私も変われるかな。
とりあえず、毛先だけ整える感じに、という話になった。
「じゃあ、シャンプー台へどうぞ」
他のスタッフさんもいるみたいだけど、今日は、黒川さんがそのままシャンプーしてくれるらしい。
大きな手が、ギュッギュッと私の頭をもみほぐす。
やっぱりシャンプーは、男の人の力強い手の方が気持ちがいい気がする。
「……何かあった?」
黒川さんが、小さな声で、優しく聞いてきた。
さすがに、涙腺が緩みそうになる。
「何もないですよ?」
「……そう? ……なんだか辛そうだけど?」
ガーゼ越しに、顔が歪みそうになる。
――そんなふうに優しく言うから、辛くなるんです。
やっぱり、来なければよかったかな、そんな思いが頭をよぎる。
「き、きっと正月疲れです。仕事、忙しかったから」
「……そっか、お疲れ様」
この想いもシャワーで流れ去ってくれればいいのに、と思うけど、実際は、そんな簡単には流れてはくれなかった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる