21 / 26
第五話
予約
しおりを挟む
世間では異動シーズンの春。
うちみたいなショップでは関係ないと思っていたのだけれど。
「早瀬さん、本社から栗原さん来てる。」
倉庫から在庫を台車に載せて戻ってくるなり、店長に言われた。
栗原さんは本社で店舗関連を取りまとめている女性の課長さん。
この時期だと、面談とかそういうのかな、とは思ったけれど、通常、事前に都合のいい時間とか聞かれるはず。
なんか嫌な話とかだったら、どうしよう。
「ストックに入れるのとかは、他の子に任せて行っておいで」
店舗の前の通路に、スプリングコートを着て立っている栗原さんと目が合った。
「わかりました。行ってきます」
慌てて栗原さんの元に行くと、同じフロアにあるコーヒーショップに連れていかれた。
「忙しい時にごめんね」
「いえ」
栗原さんが奢ってくれるというので、カフェオレのLサイズを頼む。
「早瀬さん、ここのショップで、どれくらいになるんだっけ」
「えーと。もうすぐ丸三年くらいですかね」
そう言葉にしてみると、自分でも意外に長くやってたんだということに気づく。
「そっか。店長いない時とかも、一人でもまわせるようになったもんね」
「はぁ。でも、最終的に色々決めるのは店長ですけどね」
この話は、どこに落ち着くというのだろうか。
「そろそろ、早瀬さんも店長やらない?」
「……は?」
「やらない? というか、ほぼ決定なんだけどさ」
「え?」
「今度、新店舗出すんだ。ここなんだけど」
そう言って、渡されたのは新しくできる美術館のパンフレット。
「ここのミュージアムショップの店長」
「え、何言ってるんですか?」
この美術館のオープンは、この夏の予定と聞いたことがある。
「他の店舗の店長たちにもあたってみたんだけど、誰もいい顔してくれなくてさ」
うちの店長も嫌がったのか。
まぁ、彼氏でもある、集荷に来てくれる筋肉くんと会う時間がなくなるだろうし。
だからといって、なぜ私?
「早瀬さんも、もう店長任せてもいいかなと思って」
「いやいや、私なんか無理ですって」
「最初は、私もヘルプで入るし」
「いや、それだって」
この美術館、かなりニュースになってたし、人とかたくさん来そうだし、私なんかができるとは思えないですけど。
「とりあえず、考えておいて。一応、店長にはもう話しついてるから」
それって、ほぼ決定じゃないですか……。
しばらく店の話や、他の店舗の話をした後、カフェオレを飲み干すと、栗原さんと別れて店舗に戻った。
「戻りました~」
「お帰り~」
店長は振り向きもせず、店頭の商品の補充をしていた。
「店長~、栗原さんの話、いつから聞いてたんですかぁ~」
「ん~? 昨日の夜?」
「へ?」
「昨日の夜、早瀬さん帰った後、電話来て、どうかなぁ? って聞かれたから、いいんじゃないですか~? って答えておいた」
「はい?」
「早瀬さんなら、大丈夫だって~」
ヘラヘラと笑いながら、空になったカゴを片付けに行く店長。
なんの根拠があって、大丈夫だなんて言えるのよっ! と叫びそうになる。
「まぁ、まだ期間はあるし、マジで考えてみてよ」
軽く言う店長に、私の気持ちは完全に置いてけぼりだった。
うちみたいなショップでは関係ないと思っていたのだけれど。
「早瀬さん、本社から栗原さん来てる。」
倉庫から在庫を台車に載せて戻ってくるなり、店長に言われた。
栗原さんは本社で店舗関連を取りまとめている女性の課長さん。
この時期だと、面談とかそういうのかな、とは思ったけれど、通常、事前に都合のいい時間とか聞かれるはず。
なんか嫌な話とかだったら、どうしよう。
「ストックに入れるのとかは、他の子に任せて行っておいで」
店舗の前の通路に、スプリングコートを着て立っている栗原さんと目が合った。
「わかりました。行ってきます」
慌てて栗原さんの元に行くと、同じフロアにあるコーヒーショップに連れていかれた。
「忙しい時にごめんね」
「いえ」
栗原さんが奢ってくれるというので、カフェオレのLサイズを頼む。
「早瀬さん、ここのショップで、どれくらいになるんだっけ」
「えーと。もうすぐ丸三年くらいですかね」
そう言葉にしてみると、自分でも意外に長くやってたんだということに気づく。
「そっか。店長いない時とかも、一人でもまわせるようになったもんね」
「はぁ。でも、最終的に色々決めるのは店長ですけどね」
この話は、どこに落ち着くというのだろうか。
「そろそろ、早瀬さんも店長やらない?」
「……は?」
「やらない? というか、ほぼ決定なんだけどさ」
「え?」
「今度、新店舗出すんだ。ここなんだけど」
そう言って、渡されたのは新しくできる美術館のパンフレット。
「ここのミュージアムショップの店長」
「え、何言ってるんですか?」
この美術館のオープンは、この夏の予定と聞いたことがある。
「他の店舗の店長たちにもあたってみたんだけど、誰もいい顔してくれなくてさ」
うちの店長も嫌がったのか。
まぁ、彼氏でもある、集荷に来てくれる筋肉くんと会う時間がなくなるだろうし。
だからといって、なぜ私?
「早瀬さんも、もう店長任せてもいいかなと思って」
「いやいや、私なんか無理ですって」
「最初は、私もヘルプで入るし」
「いや、それだって」
この美術館、かなりニュースになってたし、人とかたくさん来そうだし、私なんかができるとは思えないですけど。
「とりあえず、考えておいて。一応、店長にはもう話しついてるから」
それって、ほぼ決定じゃないですか……。
しばらく店の話や、他の店舗の話をした後、カフェオレを飲み干すと、栗原さんと別れて店舗に戻った。
「戻りました~」
「お帰り~」
店長は振り向きもせず、店頭の商品の補充をしていた。
「店長~、栗原さんの話、いつから聞いてたんですかぁ~」
「ん~? 昨日の夜?」
「へ?」
「昨日の夜、早瀬さん帰った後、電話来て、どうかなぁ? って聞かれたから、いいんじゃないですか~? って答えておいた」
「はい?」
「早瀬さんなら、大丈夫だって~」
ヘラヘラと笑いながら、空になったカゴを片付けに行く店長。
なんの根拠があって、大丈夫だなんて言えるのよっ! と叫びそうになる。
「まぁ、まだ期間はあるし、マジで考えてみてよ」
軽く言う店長に、私の気持ちは完全に置いてけぼりだった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
皇后陛下の御心のままに
アマイ
恋愛
皇后の侍女を勤める貧乏公爵令嬢のエレインは、ある日皇后より密命を受けた。
アルセン・アンドレ公爵を籠絡せよ――と。
幼い頃アルセンの心無い言葉で傷つけられたエレインは、この機会に過去の溜飲を下げられるのではと奮起し彼に近づいたのだが――
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる